Amazonプライム・ビデオの「広告付きプラン」は実質8割値上げ? プラン導入の狙いは何か
2025年4月8日から始まる、Amazonプライム・ビデオの広告配信。さらに同日から月額390円の広告なしオプションが開始されます。
つまり、従来と同じサービスを受けるには追加費用の支払いが必要で「実質的な8割値上げ」と批判する論調も少なくありません。
今回はAmazonプライム・ビデオの「広告付きプラン」について、プラン導入の狙いなどを詳しく見ていきましょう。
Amazonプライム・ビデオの「広告付きプラン」は二重課金?
プライム会員費をすでに支払っているユーザーからは、Amazonプライム・ビデオでの広告表示に対して「二重課金」「サービスの質の低下」との不満が噴出しています。特に「金を払っているのに広告を見せられる」という心理的抵抗感が強い反応を生んでいると言えるでしょう。

年額プランの場合、広告なしオプションを加えると、現行のプライム会員年額5,900円に広告非表示オプション(年額4,680円)がプラスされるため、総額が10,580円となります。つまり従来比約79%の増加となるため「実質8割値上げ」といった意見が多く上がっています。
Amazonプライム・ビデオが「広告付きプラン」を導入した理由は?
「実質8割値上げ」という大胆な値上げの実施および、広告付き低価格プラン導入の背景には、まず他動画配信サービスでの広告表示が「ユーザーに受け入れられつつあること」が挙げられるでしょう。

たとえばNetflixや日本国内のサブスクリプションサービスのABEMAなどの動画配信サービスでは、すでに「広告付き低価格プラン」を導入しています。この記事をお読みの方の中にも、Netflixで最も廉価な広告付きプランに加入している方は少なくないのでは?
動画配信サービスにおいて「広告付きプラン」は定番プランになりつつあり、Amazonは自社で広告事業に進出済みである点も踏まえ、その潮流に追随したと言えるでしょう。
そのうえでAmazonは独自性として「広告の表示回数を大幅に減らすこと」を目標として打ち出し、利用者の視聴体験に配慮する方針です。そのため、1コンテンツ当たりの広告量は、当面は控え目な水準でのスタートとなるでしょう。
Amazonの広告事業について
Amazonの収益構造の多角化も、プライム・ビデオの国内での「広告付きプラン」のスタートを後押しした側面があるでしょう。
その中心にあるのが、米アマゾン・ドット・コムが展開する広告サービス「Amazon広告」です。2022年のAmazonの年間広告売上高は377億3900万ドル(約5兆円)に達し、前年から21.1%増と、成長を続けています。
この成長の背景には、ECサイト「Amazon.co.jp」が多くの企業にとって不可欠な販売チャネルであり「極めて購買意欲が高いユーザーに効率的にアプローチできる貴重な広告媒体である」ことが挙げられます。Amazon広告はアメリカのデジタル広告市場において14.6%のシェアを占めています。
従来のAmazon広告はいわゆる「リテールメディア」の一種であり、AmazonのECモール上に広告を表示する仕組みがメインです。そのためAmazonプライム・ビデオへの広告出稿が「従来のAmazon広告と同じ仕組みで実施されるのか」「リテールメディアとしてのAmazon広告と同等の広告効果は見込めるのか」はまだ不透明です。
とはいえ購買意欲が強いAmazonのユーザーに対して、Amazon広告とプライム・ビデオ広告の両面からアプローチできるのは広告主にとっては非常に魅力的でしょう。米国と同様に、日本でもAmazon広告が急拡大する可能性があります。
Amazonの「コンテンツ投資」「配信権獲得」と「広告付きプラン」の関係性
Amazonプライム・ビデオには広告収入を活用し、高品質コンテンツへの投資を継続したい考えもあると推察されます。
まずAmazonプライム・ビデオは近年、オリジナル作品の制作・配信への注力度を高めていました。その代表格として、歴史ドラマ『マーベラス・ミセス・メイゼル』シリーズや、リアリティーショー『ビーストゲーム』などが挙げられます。

一方、動画配信サービスにとっては、オリジナル作品の制作に加え、需要が高いコンテンツの配信権を取得することも重要な役割です。そして特に米国では「スポーツ」の配信権の高騰が顕著です。中でも配信権が高騰している典型的なコンテンツには『NFL』が挙げられます。

アメリカでは現在、スポーツの配信権料が非常に高額になっています。その背景にあるのは、「GAFA」を中心とした巨大プラットフォーマーたちの参入と、彼らが繰り広げる激しい獲得競争です。
たとえば、アマゾンは2021年にNFLと年間16試合のTNFの配信権を11年間で総額130億ドル(約1兆7,000億円)で契約。また、衛星放送のディレクTVが29年間放送してきたサンデーチケットをめぐっては、Amazon、Google、Appleで争奪戦となり、グーグルが7年間で140億ドル(約1兆8,000億円)を超える契約を結びました。これらの高額な契約からも、プラットフォーマーたちがスポーツ配信権に巨額の投資をしていることが分かります。
また2024年にはNetflixがスポーツ中継に進出しており、NFLのクリスマスゲームが初めてNetflixで中継されました。米国での視聴者数は6,500万人を突破したと言われています。
こうした配信権の獲得争いはNFL以外にも飛び火する可能性が十分にあり、サービスの収益性を高め、配信権の獲得争いをリードする資金力を担保する狙いが「広告付きプラン導入」に表れているとも言えるでしょう。
今後の課題
Amazonプライム・ビデオの「広告付きプラン」導入には、いくつかの課題が残されています。
まず、「広告付きプラン」導入により顧客離れを引き起こす可能性があります。広告付きプランの日本市場での開始は2025年4月の予定ですが、開始後の「価格感度の高い層の反応」はまだ不透明です。
従来、Amazonプライム・ビデオは日本国内で「極めて安価なサブスクリプションサービス」として受け入れられてきました。一方で広告表示なしのオプションを利用すると「実質8割値上げ」というのは、値上げ幅としてはかなり強烈です。つまり、多くのユーザーは「非表示プラン」への課金を行わず、広告付きプランを選ぶ可能性が高いでしょう。
そしてAmazonにとってやや厄介なのは、そうした「安価な課金幅のユーザー」も「課金ユーザーである」ことには違いないということです。
映画や番組の視聴中に広告が流れた際、多くのユーザーが不快感を強く感じる可能性が高く「Amazonプライムにすでにお金を払っているのに、さらに番組中に広告が表示されるのは不愉快だ」という反発の声が大きく広がるリスクはあります。そのため、広告表示の頻度の調整はユーザーの反応を見ながら慎重に行う必要があるでしょう。
次に、広告品質管理の問題です。Amazonプライム・ビデオで配信される番組や映像の質は一般的に高品質です。
一方で、たとえば視聴者が「50代女性で、Amazonアカウントで多数の健康食品を購入している一方で、Amazonプライム・ビデオでは芸術的な映画を好んで視聴している」としましょう。
個人にターゲティングする形で広告表示がされる場合、この視聴者のケースでは『芸術的な映画の視聴中に、健康食品やサプリメントのコマーシャルばかりが流れる』可能性があります。合理的な広告表示ではあるかもしれませんが、視聴体験の質が損なわれる可能性もあるでしょう。
そのため、作品と広告の相性を適切に管理する必要があり、広告の品質管理が不十分だとサービスへの反発が強まる可能性があります。
※サムネイル画像(Image:T. Schneider / Shutterstock.com)
記事提供元:スマホライフPLUS
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