ニコラス・ケイジが殺人鬼を怪演! 全米大ヒットの新感覚ホラー 『ロングレッグス』
飯塚克味のホラー道 第115回『ロングレッグス』

昨年、アメリカで最も成功したと言われるホラー映画が、いよいよ日本で公開される。製作費1000万ドル弱に対して、全米で7430万ドル、アメリカを含む世界興収では1億2690万ドルという大成功を収めた。全米で配給を行ったNEONにとっても最大興収を記録し、独立系のスタジオとしてはトップの成績となった。どんな要因が観客の琴線に触れたのか?
90年代の半ば、オレゴン州で平凡な父親が、家族を殺害し、その後、自身も自殺するという不可解な殺人事件が発生。類似する事件は過去30年の間に10件発生していた。FBIの女性捜査官リー・ハーカーは、不思議な直観力を持っており、事件の担当に抜擢されるが、ロングレッグスという署名の入った暗号文が現場に残されているだけで、それ以外の手掛かりは一切ない。だが真相に迫る内、ハーカーは驚くべき事実を目にしていく。
主演のリー・ハーカー捜査官を演じるのは、『イット・フォローズ』(2014)で、霊が見える女性を好演したマイカ・モンロー。今回は1カットも笑みを見せることなく、終始、暗い表情を浮かべているのが印象的だ。本作のあとは、『イット・フォローズ』の続編『THEY FOLLW』が待機しているそうなので、そちらも楽しみにしてもらいたい。謎の殺人鬼ロングレッグス役は、プロデューサーも務めたニコラス・ケイジ。近年、様々な役に挑んでいるが、今回は「二度とやりたくない」という程、役作りにのめり込み、本人とは思えないようなメイク姿で登場する。
監督・脚本はこれが4作目となるオズグッド・パーキンス。俳優としても活動しているパーキンスは、『サイコ』(1960)の名優アンソニー・パーキンスの息子でもある。本作では映画の冒頭から、雪景色の中、張り詰めた空気感を巧みに表現し、最後まで緊張を持続している。本作の成功を受け、スティーヴン・キング原作の『THE MONKEY(原題)』(2025)を完成させ、現在北米を中心に海外で公開中だ。

本作は、いわゆるフレディやジェイソンのようなモンスターキャラが登場して、次々に殺戮を行っていくタイプではない。ロングレッグスによる殺人ウイルスが、人々を殺人鬼に変えていくのだ。作品で言えば、黒沢清監督の『CURE キュア』(1997)や、先日、取り上げた『エクソシスト3』(1990)が近い。ロングレッグスによって操作されてしまう犠牲者たちは、現在のネット社会で簡単にコントロールされてしまう現代人にも通じるように見えると言ったら言い過ぎだろうか?
リー・ハーカー捜査官が勘に近い、超能力的な力を持っているのもアクセントになっている。彼女が目にしているものは現実なのか、それとも幻なのか?その辺を探りながら映画を観ていくと、より楽しめるはずだ。
演出的な面では雰囲気作りの他に画面サイズの使用法も興味深いところと言えよう。基本は横長のシネスコサイズなのだが、時折、4:3のスタンダードサイズの映像が入ってくる。特に冒頭のシーンは、後半で重要な意味をもたらすので、よく記憶にとどめて鑑賞してほしい。
難しい表現手法を、うまく取り入れ、最後まで観客の関心を引き付ける演出は、間違いなく新しいホラーの誕生を実感させてくれる。こうした作品が世界レベルで大ヒットすることに、時代の変化を感じずにはいられない。本作は映画館でこそ、真価が発揮される作品なので、まずは劇場の大画面&大音響で本作を体験してほしい。また繰り返し見直すと発見も多いので、リピート鑑賞もお薦めしたい。
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飯塚克味(いいづかかつみ)
番組ディレクター・映画&DVDライター
1985年、大学1年生の時に出会った東京国際ファンタスティック映画祭に感化され、2回目からは記録ビデオスタッフとして映画祭に参加。その後、ドキュメンタリー制作会社勤務などを経て、WOWOWの『最新映画情報 週刊Hollywood Express』の演出を担当した。またホームシアター愛好家でもあり、映画ソフトの紹介記事も多数執筆。『週刊SPA!』ではDVDの特典紹介を担当していた。現在は『DVD&動画配信でーた』に毎月執筆中。TBSラジオの『アフター6ジャンクション』にも不定期で出演し、お勧めの映像ソフトの紹介をしている。
【作品情報】
ロングレッグス
2025年3月14日全国公開
配給:松竹
© MMXXIII C2 Motion Picture Group, LLC. All Rights Reserved.
記事提供元:映画スクエア
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