おぎぬまXのキン肉マンレビュー【コミックス第42巻編】~仕事の男・ブロッケンJr.の晴れ舞台~
『週プレ』復活シリーズ、JC42巻をおぎぬまXがレビュー!!
正義・悪魔連合軍VS完璧・無量大数軍の団体戦第2ラウンドがついに開幕!! 息つく暇なく連続していく白熱バトル、各試合の勝利のカギを握るのは超人たちの"生き様"でした!
●キン肉マン42巻レビュー投稿者名 おぎぬまX
★★★★★ 星5つ中の5
待ちに待ったアイドル超人たちの闘い、その中で最初にフィーチャーされたのはブロッケンJr.とクラッシュマンの一戦でした。
この試合にはブロッケンJr.という超人の魅力――〝何をしでかすか分からない危なっかしさ〟が詰まっております。というのも彼は...アイドル超人のなかでは最若手、威勢にあふれる直情的な性格ゆえに後先考えずにぶつかっていくことが多い半面、一瞬の閃(ひらめ)きで読者の想像の斜め上をいくようなものすごい一撃を繰り出すこともある。打率は低いけど当たればホームラン、そんなロマンある試合展開が魅力的です。
さらに特筆すべきこととして、彼はこれだけアイドル超人の中心にずっといながら、実は一度もキン肉マンと闘ったことがないんですよね。他の超人たちは何かしらキン肉マンとの対立を乗り越え、強固な縁(えん)を築いたことで仲間になっていますが、彼はお約束ともいえるその流れを経ずに仲間になっているんです。
たとえばロビンマスクやラーメンマンといった仲間たちは正義超人でありながらも、いつか「打倒キン肉マン」を掲げて仲違いするかもしれない緊張感があります。...が、ブロッケンJr.だけはそういうことをしない安心感、超人レスラーらしからぬフレンドリーさを持っており、彼が醸(かも)し出す不思議な魅力とつながっている気がします。一言で表すなら『メシに誘いたい超人ナンバーワン』です!
そして、キン肉マンとの縁が薄い分を補(おぎな)って余りあるほど、様々な大物超人から一目置かれ寵愛(ちょうあい)を受けているのもまた大きい。幼き頃から鍛えられた父ブロッケンマンに始まり、心の師とも言えるラーメンマン、超人血盟軍の一員として薫陶(くんとう)を受けたキン肉アタル。新たな師と出会うたびに、一歩一歩、確かな成長を続けています。
新章でめぐってきたこのクラッシュマンとの一戦は、それほど枚挙(まいきょ)に暇(いとま)がない様々な要素を持った彼の、人生を一気に振り返るような試合でもあったと思います。
クラッシュマンとの試合中、過去出会った師を振り返る
この試合のポイントは実にシンプルです。クラッシュマンはアイアングローブ、ブロッケンJr.はベルリンの赤い雨という一撃必殺の決め技を持つ者同士。そのため、先に己の必殺技を当てるのはどちらだ!? という試合展開になります。
実際、先の悪魔超人との団体戦でも、対戦相手のミスターカーメンは一撃必殺のミイラパッケージを仕掛けたものの決めきれず、クラッシュマンがMAXパワーのアイアングローブを命中させたことで勝利しました。
ところがこの試合、なんとブロッケンJr.は激しい攻防の末に、先にアイアングローブの餌食(えじき)となってしまいます。カーメン同様、見るも無残な全身血だるまになってしまい、普通ならこれで勝負ありです。しかし、ブロッケンJr.はそこからまた立ちあがってきたのです!!
思えば、ブロッケンJr.がボロボロになるこの光景をよく見てきた
「先に一撃必殺の技を当てるのはどちらだ!?」という試合で、「一撃必殺の技をくらっても耐える」というアンサーがあるなんて...! それもダメージを和らげるような予備工作があったわけでもなく、純粋な〝根性〟です。これを平気でやってくるのが、ブロッケンJr.という男の恐ろしいところです。
思えばかつてのザ・ニンジャ戦、悪魔忍法クモ糸縛りというどう見ても脱出不可能な技にかかった時も彼は、『見よう見まねでやったがうまくいったぜ』という理由で相手の技を反転させ奇蹟の生還を果たしました。他のアイドル超人には絶対にない、最後の最後まで何があってもド根性のみで粘りつくして奇蹟を起こす。実質、キン肉マン以上の奇蹟の逆転ファイターと言っていいかもしれません。
終わってみれば、かつて負けた完璧超人ケンダマン&スクリュー・キッドよりさらに格上の完璧超人クラッシュマン相手に完勝。超人としての成長ぶりもしっかりと見せつけつつブロッケンJr.という男のすべてがわかる、必見の好勝負で正義・悪魔連合軍は幸先のよい1勝目を挙げ、まずは先手を取りました。
さて、それでも試合はまだまだその他6箇所で継続中。その中で次に動きを見せたのは、階下のラーメンマンVSマーベラスの一戦でした。
この試合の見どころは、なんといっても超人拳法家同士の対決という点に尽きるでしょう。超人プロレスは特殊な力を持った者同士の対戦が前提ですから、どんな試合も異種格闘技戦の趣が漂(ただよ)いがちになるものです。しかし、この試合は正真正銘の同種格闘技戦、しかも後に判明するように、時代は違えど同じ寺で修行した者同士の同門対決でもあり、その因縁も大きな注目点となってきます。
自(おの)ずと使う技の型も似てきますが、この試合が面白いのはそれぞれの技の活用理念が正反対であるところです。マーベラスはそもそもの超人拳法の理念でもある殺人拳、闘いとは生きるか死ぬかの二者択一、人を殺(あや)めるための闘いにこだわりますが、ラーメンマンはそのような決着を真っ向から拒否。
己も生かし、相手も生かす拳こそが超人拳法家の真に目指すところだという新たな悟りの境地を彼に語ります。紙一重で倒した相手をあえて生かせば、さらなる成長を促すことができる。その相手との再戦がさらなる己の成長へつながり、その無限の切磋琢磨こそが真の最強へ連なる道となるのだと。
しかし、マーベラスはそれを聞いても一笑に付すのみ。命を惜しむ態度は甘えにしかつながらないと、決して自説を曲げはせず、ならばどちらが正しいか、それはこの試合の勝敗結果に委(ゆだ)ねるほかありません。
そんな互いの信念を、それぞれの拳に乗せた応酬(おうしゅう)はどこか切ないセッションのようにも見えました。特に好きなシーンは、マーベラスは試合中に何度もラーメンマンのことを甘いと罵(ののし)りますが、古傷にダメージを負って悶(もだ)えるラーメンマンをあえて攻撃しなかったりするんです。僕はこういうのに弱いんです、敵ながら本当に天晴れです。
結果、この闘いに勝利したのはラーメンマン。しかも、相手の首のみを狙い、殺すことなく意識を落として戦闘不能に持ち込むという、より難易度の高いミッションをやり遂げたました。
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ブロッケンマンからラーメンマンが悟りをもらい、そのラーメンマンがブロッケンJr.を導いた。JC42巻メインの2試合がつながる見事な構成
マーベラスからすればラーメンマンの「生かす拳」はただの甘え、あえて今時の表現をするなら「舐めプレイ」のようなものでしょう。しかし、「生かす」こととは相手を敬うこと、救うこと、そしてそれを実行するためには「殺す拳」以上の鍛錬と茨(いばら)の道が必要であることを最後に心の底から認めます。
本気の闘いだからこそ、その中でお互いの生き様すべてを正直にさらけ出し見せ合った果てに、理解し合うことができる。だから闘いの後に友情が芽生えるのだと、それはかつての『週刊少年ジャンプ』時代から『キン肉マン』の大テーマではありましたが、復活編以降の新章になってからはその色がより鮮明になってきたなと。そう思わせてくれる、さわやかな試合の結末でありました!
しかし結局、そのマーベラスも完璧超人の自害の掟(おきて)まで反故にすることはできませんでした。確実に分かり合えた二人を、またもや死によって引き裂かれてしまう虚しさを引きずりながら、闘いは第3戦目へと続いていきます。
●超人拳法家による同種格闘戦の次は、宇宙vs蛇口!?これぞ超人レスリングと叫びたくなる対戦カードですが、階段ピラミッドリング第三ステップの番人、新超人ジャック・チーの登場です!
僕はこのジャック・チーという超人が大好き過ぎまして、何が好きってもう名前から見た目から、これほど『キン肉マン』らしい超人はいないんじゃないかっていうこの佇(たたず)まいに、ただ痺(しび)れるほかありません...!
「超人オリンピック」なら予選落ちしそうなコンセプトの超人ジャック・チーだが、この佇まいである
まず、誰が見ても一発でわかる"蛇口"という日常にごくありふれた造形モチーフ、しかもその名前がジャック・チーってなんなんだよ、と思いきや、それがこんなスタイリッシュでカッコいいキャラクターに仕上がってくるし、極めつきはその一人称「我輩」です! これはもう僕のような超人ファンからしたらたまらない、奇蹟のような新超人の爆誕ですよ。ツッコミ要素は満載なのに、ネメシス含めた仲間の誰もそれを弄(いじ)ろうとしない、ひたすらクール売りなのも手ごわさ十分といった貫録です。
クラスメイトにも「なんか個性的だけど、かといってその堂々とした佇まいから弄られないヤツ」っていませんでしたか。そういう男なんですよ、ジャック・チーという超人は。
対する相手は、先の闘いで既に勝利を上げた、こちらもスタイリッシュな悪魔超人ブラックホールですが、彼はそのダルメシマン戦で体中に大傷を負ったままでの連戦になるというのが不安要素としてあまりに大きいところです。
さすがにこの状況で、完璧超人相手に連勝できるのかと誰もが思うところです。しかし、その"誰もが思う"というところがまたネックでもありまして、ゆでたまご先生がそんな予定調和のシナリオを果たして用意されるのでしょうか?
案の定、試合序盤から満身創痍のブラックホールをジャック・チーはすぐさま劣勢に追いこんでいきます。ことごとくブラックホールの妙技が破られ、絶体絶命のピンチに陥りますが、「本当にこのまま打つ手もないまま終わってしまうの!?」という不気味な雰囲気が立ち込めます。
果たしてこの試合、どんな展開に持ち込もうというのか? 全く先が読めないまま、驚愕の仕掛けが待つ次巻へと両者の闘いは続いていきます!
●こんな見どころにも注目!
この巻ではクラッシュマン、マーベラスと完璧超人勢の敗北が続きました。しかし、負けた完璧超人には自害の掟が存在するため、ひとつの試合が終わるたびに、どうしてもやりきれない場面が続くこととなってしまいます。それでも、この巻が暗い印象になっていないのは、彼らの散り際が皆あまりにカッコよかったからではないでしょうか。
正義超人が闘っている相手は、ただの小賢(こざか)しい悪者たちではありません。皆が皆、確かな誇りを持っています。そんな彼らの散り際が、血を血で洗う死闘の中で一抹の清涼感をもたらしてくれたと僕は思わずにはいられません!
●おぎぬまX(OGINUMA X)
1988年生まれ、東京都町田市出身。漫画家、小説家。2019年第91回赤塚賞にて同賞29年ぶりとなる最高賞「入選」を獲得。21年『ジャンプSQ.』2月号より『謎尾解美の爆裂推理!!』を連載。小説家としての顔も持ち、『地下芸人』(集英社)が好評発売中。『キン肉マン』に関しては超人募集への応募超人が採用(JC67巻収録第263話)された経験も持つ筋金入りのファン。原作者として参加している『笑うネメシス―貴方だけの復讐―』が『漫画アクション』(双葉社)にて連載中。ミステリ小説シリーズ『キン肉マン 四次元殺法殺人事件』、『キン肉マン 悪魔超人熱海旅行殺人事件』が好評発売中
構成/山下貴弘 ©ゆでたまご/集英社
記事提供元:週プレNEWS
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