【#佐藤優のシン世界地図探索97】グリーンランドを所望する、民が選んだ「トランプ王」
F22ラプターステルス戦闘機が92機あれば、グリーンランドを米国の51番目の州にすることができる(写真:cMsgt. Morgan Whitehouse/U.S Air/Planet Pix via ZUMA Press Wire/共同通信イメージズ 「ZUMA Press」)
ウクライナ戦争勃発から世界の構図は激変し、真新しい『シン世界地図』が日々、作り変えられている。この連載ではその世界地図を、作家で元外務省主任分析官、同志社大学客員教授の佐藤優氏が、オシント(OSINT Open Source INTelligence:オープンソースインテリジェンス、公開されている情報)を駆使して探索していく!
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――民の王・トランプ様は、グリーンランドを御所望にございます。
佐藤 購入というアプローチではグリーンランドを手に入れることはできません。
――民王閣下の手腕が下手ですと?
佐藤 購入などと言わないで、手に入れる方法はいくらでもありますからね。
――どうやるんですか?
佐藤 あくまで頭の体操ですが、こんなシナリオもあります。
グリーンランドでは、コペンハーゲン政府とグリーンランドの住民が対立しています。そして、先住民のイヌイットは差別された状況に対して強い不満を抱いています。
なので、まずはその先住民たちにデンマークからの独立を訴える政党を作らせます。先住民は全人口5万人のうちの8割くらいです。そこで、先住民に独立するかどうかの住民投票をやらせて、独立させるんですよ。
独立は、国連憲章1~2条の民族自決権を行使すれば可能です。そして、独立したら国連憲章51条に基づき、デンマークから独立を侵される危険があるという理由で、アメリカとの間に集団安全保障条約を結ぶんです。
――なんと!!
佐藤 そして、独立したグリーンランド共和国には、「デンマークからの報復の危険が迫っている」と訴えさせます。侵略危機が迫っているということで、アメリカ合衆国への加盟を申請させればいいんです。すると、民の王・トランプ米大統領は、すぐに51番目の州として加盟を認めます。
――カナダを越えて、51番目の州となる。
佐藤 そうです。2022年にウクライナの東端にあるドネツク州とルハンスク州が、ドネツク人民共和国とルハンスク人民共和国として独立宣言をしましたよね。そして、ロシアはそれに基づいて、安全保障条約を作り併合しました。
――グリーンランド共和国と同じ手法です。
佐藤 だからその意味において、トランプはプーチンに学べば、グリーンランドをアメリカ領にできるんです。
――では、プーチンとトランプが会談した時に、トランプの耳元にプーチンが「こうやるといいんじゃないか?」と悪魔のささやきをする、と。
佐藤 それでトランプが実際にやったとしたなら、おそらくロシアはグリーンランドの独立を承認しますよ。
――米露が承認すれば、ここに中国の出番はなくなる。
佐藤 はい。だから、自由に開かれた北極海となり、アメリカとロシアの二ヵ国でその利権を分けることになります。
――素晴らしい。
佐藤 この併合のポイントは、グリーンランドの人口が約5万人しかいないことです。ひとり1億円をかけても約5兆円で事足りるんです。F35は1機いくらですか?
――導入するまでの経費を入れると、日本は1機240億円で購入しています。
佐藤 F22だったら?
――1機3億5000万ドルなので、1ドル155円とすると542億5000万円であります。
佐藤 すると、F22でも92機分です。それでひとつの国の資源がザクザクと採れるんだから、お得ですよね。
――なおかつ、そのF22編隊の膨大な運営費がかかりません。で、ガッポリと地下資源をいただけると。
佐藤 地球温暖化が進んでも、あそこならば楽に住めます。いまから寒冷地を確保しておかないとなりませんしね。
――さらに、そこで超高速演算が可能なコンピューターを動かせます。
佐藤 そうです。グリーンランドにデータセンターを作り、そこを中心に海底ケーブルを四方に這わせればいいんです。
――完璧です。
佐藤 だから、トランプの戦略案は優れているんですよ。
それからやはり、チョークポイント(戦略的阻止点)であるパナマ運河を手放したのは間違いでしたよ。アメリカのカネで開発したんですから。
――ビジネスマン感覚のトランプ王ならば、そう考えます。
佐藤 さらに、トランプが言っているように、そんな重要な場所に中国の運営会社が入って来ています。
――5個ある港のうち、ふたつを香港にある企業が握っています。
佐藤 だから、トランプがその状況を回復すると言っているのはそんな変な話でしょうか?
――極めて真面目な話に聞こえます。
佐藤 帝国主義国としては当然ですよね。
――当然です。
佐藤 だからトランプは価値観同盟とかではなく、露骨に自分たちの利益を追求しているんです。
――そこには、プーチンは乗りやすいんですか?
佐藤 乗りやすいですよ。要するにロシアとの関係で、構えなければいいわけです。
縄張りを決めて、「じゃあ、グリーンランドは米国の縄張りな。その代わり、同じ北極海にあるセヴェルナヤ・ゼムリャ諸島とかこっちには来るなよ」とすれば問題ありません。
――「そっちはロシアだから行かないわ」とトランプ王は言う。
佐藤 それでロシアは「北極海周辺は俺たちの縄張りだから、通る時は通行料を払え」となるわけです。
――もちろん米露にとっては、北極海は開かれた海となっていますから。
佐藤 そうです。米国の船団が来る時は、船頭船はロシアの砕氷船がやるでしょうね。
――「よろしくお願いします」となります。
佐藤 さらに逆も然りです。「俺らがグリーンランドに行く時は、米国に入金料を払うから」となります。
――なるほど。
佐藤 共存共栄ですね。
――米露はそうでも、「中国はちょっと遠慮してもらおうぜ」となる。
佐藤 そうです。「中国にはたくさん金を払ってもらおう」となるから、条件は米露より悪くなります。
――すると、最初の米露のディールにとって、ウクライナはとても大切ですね。
佐藤 そうなんです。本格的なディールはそこからです。
――そこでうまくいけば、全てうまくいく。
佐藤 そうですね。
――グリーンランドは米露の作ったルールに従いますか?
佐藤 グリーンランドはゲームのルールに従う国家ですよ。
――すると、さっきの方法でやればいいんですね。
佐藤 ただ、国家主権を金で買うという発想は過去の話ですからね。アメリカがロシアからアラスカを買ったのも18世紀のことですよ。
――トランプは、アラスカは買ったものだと知っているのですか?
佐藤 それは誰かが教えたのでしょう。
――だから、グリーンランドは買おうとしたんですか?
佐藤 そうでしょうね。
――無知でなく「有知」の時も強いトランプ。
佐藤 ホリエモンの言う「金で買えないモノはない」と、この世界は一緒なんですよ。
――納得です。一方、ガザ地区ですが、ここではトランプは「無知」「有知」「金で買う」ではなく恐怖を使っています。
トランプはハマスに「自分の就任までに人質解放しないと、地獄を見せてやる」と明言しました。すると、ハマスは人質を解放して、ガザ地区は話がまとまりました。
佐藤 イスラエルの勝ちですよね。しかし、ハマスが少しでも変な事をすれば、イスラエルはいまと同じ程度の暴力を行使するはずですよ。
――先代の米大統領・バイデンが「俺がガザの和平を達成した」と自慢しています。トランプは先程の言葉で地獄を見せると脅しています。これは、どう御覧になっていますか?
佐藤 ハマスの人質の中には、アメリカとイスラエルの二重国籍の人達が結構いるんですよ。なので、アメリカにとってはこれは自国民の保護なんです。
解放された人質の中にひとりでも二重国籍の米国人がいたら、米国の世論はどうなると思いますか?
――それは、狂喜乱舞の大喜びとなります。
佐藤 テロリストであるハマスに、ひとりでもアメリカ人が捕まっているとなれば、「いかなる対価を払ってでも釈放しろ」ってことはありますよね。
――あります。ランボー気質の米軍特殊部隊の出番です。
佐藤 だから、釈放されたらわかると思いますよ。
――それは、トランプの得点になりますか?
佐藤 当然、トランプは自分の手柄にしますよ。
次回へ続く。次回の配信は2月28日(金)を予定しています。
取材・文/小峯隆生
記事提供元:週プレNEWS
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