北朝鮮特殊部隊「暴風軍団」が続々と戦死! 最前線を知る3人に聞く「自爆ドローンに狙われた際の"正しいムーブ"はある?」
FPVドローンは搭載したカメラの映像をゴーグルを通してリアルタイムで見ることで、機体に乗っている感覚で操作できる
ロシア軍がウクライナに送った北朝鮮特殊部隊「暴風軍団」。そんな彼らが、自爆FPVドローンによって次々と爆破される映像が投稿された。いとも簡単に殺される彼らの様子を見てふと思ったことがある。自爆FPVドローンに狙われたら何ができるんだ??もしかして、その瞬間に終わり......?
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2022年2月のロシアによる侵攻開始から3年となるロシア・ウクライナ戦争の戦場で、もはや主役となっている無人兵器。
中でも安価な民生用FPVドローンを改造した機体に爆弾を搭載し、上空から目標に突っ込んで攻撃する自爆ドローンはロシア軍、ウクライナ軍双方の兵士にとって大きな脅威となっている。
また、自爆FPVドローンによって撮影された映像は両軍とも頻繁にネット上に公開しており、ドローンが敵軍の兵士や車両に向けて突っ込む生々しい映像があふれている。
2024年末にウクライナ特殊作戦軍がテレグラムに投稿した、北朝鮮軍「暴風軍団」に突っ込むドローンが撮影した映像
特に最近は、ロシア軍に協力するためにウクライナに派兵された北朝鮮軍の兵士たちが、戦場でウクライナ軍の自爆FPVドローンから逃げ惑いながら、まるでビデオゲームのように次々と殺害されていく映像を見ていると、ドローン時代の戦争の恐ろしさを感じずにはいられない。
もし、自分が戦場で狙われたらどうすればいいのか? 最新ドローンの攻撃から逃れる方法はあるのか?
そこで、ウクライナ軍のドローン運用部隊に従軍取材を行なった経験もある報道カメラマンの横田徹(とおる)氏、最新のドローン兵器事情に詳しい慶應義塾大学SFC研究所上席所員で現代戦研究会代表の部谷直亮(ひだに・なおあき)氏、そして防衛技術コンサル会社技術顧問と現代戦研究会幹事を務め、国内外でドローンやAIなどを使った課題解決の実績があるハッカーの量産型カスタム師氏の3人に、最新のドローン兵器事情と、自爆ドローンの攻撃から生き延びる方法を聞いてみた。
■「スピードを出すぐらいしかない」――ウクライナに何度も取材で行かれている横田さんは戦場で攻撃用ドローンを見たり、実際に追いかけられたりした経験はありますか?
横田 はい。昨年11月にも攻撃用ドローンを運用するウクライナ軍の「FPV部隊」に同行して、ロシア軍の陣地から3㎞ぐらいの場所に行きました。12時間ぐらいの間に、ウクライナ軍が18~20機ほどのFPVドローンを飛ばして塹壕(ざんごう)の中に隠れているロシア兵や車両、榴弾砲(りゅうだんほう)の陣地などを攻撃するところを取材してきました。
FPVドローンというのは一人称視点(First Person View)型ドローンといって、ゴーグルを着けた操縦者が搭載されたカメラの映像を見ながら操縦するドローンのこと。目標へと突っ込んでゆくドローン目線のライブ映像を、前線の地下にある指揮所のモニターでも見ることができるんです。
ちなみに、最も危険なのが、その前線の指揮所までクルマで移動するとき。たいてい、その道中にやられています。
前線の指揮所はウクライナ軍が拠点にしている街からクルマで40分ぐらいかかるのですが、ロシア軍の偵察用ドローンがあちこち飛び回っているので、クルマが通れば見つかってしまう。そうなったらすぐに敵のFPV部隊に連絡が行って、攻撃のターゲットにされてしまいます。
実際、僕が従軍取材をした前日にも、前線に移動中の部隊がロシアのFPVドローンによる攻撃を受けていました......。僕が1日早く行っていたら攻撃されていたところでした。
――すごい経験ですね......。例えば、クルマでの移動中にドローンに狙われた場合、何か対処法はあるのでしょうか? 「ドローンに向けて妨害電波を出す......」みたいなことはできないんですか?
通信を妨害する電波を発して、ドローンを操縦不能にするジャミング装置が取りつけられた車両
横田 一応、車両にジャミングといってドローンの電波を妨害する装置を積んでいるんですけど、最近は全然効かないそうです。
先日、ウクライナの前線から帰ってきた日本人義勇兵の方と話をしたら、彼は落ちたロシアのドローンを回収して調べたらしく、「最近のロシアのFPVドローンはウクライナのより相当よくなっている」と言っていましたね。
だから、ウクライナ軍の兵士も「結局スピードを出すぐらいしか対処法はない」と言っていました。そういう危険なエリアはとにかく時速100キロ以上で走る。
おそらくFPVドローンは100キロぐらい出るので、それを振り切らなくちゃいけない。舗装されていないオフロードでも時速100キロ以上でクルマを走らせられるような技術が生き延びるために必要になるわけです。
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電波を検知するディテクター。付近のドローンの電波を検知し、電波の周波数帯から種別を特定し表示する
■妨害できない有線操縦が活躍
――では、夜に移動するというのはどうでしょう? ドローンに搭載したカメラの映像を見て操縦するのなら、暗い夜のほうが安全では?
横田 そうですね。私が取材した地域で主に使われているFPVドローンには赤外線を感知するサーマルカメラがついていないので、基本的に夜は飛んでいないと思います。ただし、ドローンは技術の更新がとにかく早いので、それもいつ変わるかわからないですが......。
その代わり、夜はよく農薬散布などにも使われる6枚プロペラで、サーマルカメラがついた大型のドローンに、建物を丸ごと破壊できるような爆弾を持たせて上から投下するみたいな攻撃が行なわれています。
僕たちが前線で取材した地下の攻撃拠点なども、敵に場所を特定され、地上にある建物ごと破壊されたら、たぶん生き埋めになってしまうと思います。
複数の弾薬を投下できるように改造された大型業務用ドローン。8枚プロペラがついているオクトコプターに弾薬を3つ搭載できる
カスタム師 ちなみに、最近のFPVドローンに夜間攻撃用の赤外線サーマルカメラがつけられないのは、ドローンが電波による無線操縦だった以前と違って、今は光ファイバーによる有線操縦が主流だからなんですね。
光ファイバーの特性上、カメラはデジタルにせざるをえないんですけど、FPV用のサーマルカメラは現行品としてはアナログ方式しかないので、使えないと思います。
――え! 今の攻撃用FPVドローンって、無線じゃなくて有線もあるんですか!
カスタム師 さっきもジャミングの話が出ましたが、電波を使った無線操縦の場合、スペクトラムアナライザーを使って、相手が使用する周波数帯がわかれば対処されてしまうので、最近は長い光ファイバーケーブルを使って操縦するタイプのFPVドローンも活躍するようになっています。
スペクトラムアナライザー。ドローンが発する電波の周波数帯と出力を波形で表示し、指向性アンテナで方向を把握する
――確かに、有線だったら、電波妨害はできないですね。
カスタム師 電波を使わない有線操縦は敵にドローンの位置を感知されにくいという点でも有効で、逆に攻撃される側の立場になれば、電波でドローンの位置や、操縦者のいる場所を探知することができなくなる。
横田 そうなると結局、ドローンの「音」で確認するぐらいしかない。だから「ブーン」っていう、でっかいスズメバチが飛んでくるような音が遠くから聞こえてきたら、ともかく逃げるしかない!
カスタム師 あれって、羽根の枚数やモーターの回転数が多いほど高い音がするんですよね。攻撃用のFPVドローンはスピードや操作性、俊敏性を高めるために高回転のモーターを使っているから。
――想像するだけで怖い......。
部谷 実際に目撃した人や、私たちが行なった実験に参加した人に聞くと「FPVの音は大きくてうるさいのに、どこから飛んでくるのか方向がわからない」という声が多くて、それがまた怖いんでしょうね。まさにカメラも含めてメディア兵器です。横田さんは一度FPVドローンで死にかけているんですよね?
横田 ああ、あれは夜だったんですよね。当時はまだ無線式のFPVがサーマルカメラをつけてブンブン飛んでいた頃だったから......。
夜、ドローンの赤いライトの点滅が見えたと思ったら、ドリフトするようにこっちを向いたんです。狙われてるのがわかったので「ヤバい」と思って、重い防弾服を着た状態で必死に走って逃げました。
サーモグラフィーで夜も飛行可能に。高精細サーマルカメラを搭載したドローンは夜でも人の体温を感知して丸見えだ
――大丈夫だったんですか?
横田 ウクライナ側のドローンだったので助かりました。
部谷 でもそれ、ウクライナ側が横田さんと気づかなかったら、やられていたかも。
横田 そう。後でウクライナ兵から「なんでそんな所にいるんだ!」って怒られました。
■導いた結論は見つかったら終わり――お話を聞いていると、どんどん怖くなってきました......。では、実際に戦場でドローンに狙われたとき、生き延びるためにはどうしたらいいのでしょう。例えば、アサルトライフルで撃ち落とすとか、無理ですか?
横田 うーん、イタリアの銃器メーカーが対ドローン用のショットガン(散弾銃)を開発したみたいだけど、有効射程が短くて50mぐらいしかないらしいので、ちょっと厳しいかなあ......。
対ドローン用ショットガン。散弾するショットガンはドローン対策に有効だという考えはあるが、装填して構える余裕があるかは疑問
部谷 結局、一種の保険でしかないんですよね。まずは複数の探知装置でドローンを見つける努力をして、運良く見つけたらジャミングをかけてみて、それでダメなら専用ショットガンとかを持ってみる。ともかく、いろんな保険を積み重ねて死ぬ確率を下げることしか方法がない。
カスタム師 まあ、攻撃型のFPVドローンは高出力な分、バッテリーがもったとしても飛行時間は10分ちょっとだし、構造上、プロペラが何かに引っかかると飛べなくなるので、林みたいな場所に逃げ込んで、ドローンが飛べなくなるまで逃げればチャンスはある。
横田 さっきの話ですけど、僕もすぐに50mくらい先にあった林に駆け込みました。逆に、丸見えの平地みたいな場所は避けないとだめですよね。
――そういえば、ウクライナのドローン攻撃を受けていた北朝鮮の部隊は平地の何もない場所にいた気が......。
部谷 ああ、あれはかわいそうだけど、たぶん囮(おとり)にされたんだよね。北朝鮮の部隊をわざとドローンに狙われやすい場所に配置して、ロシア兵は別の場所からドローンがどこから飛んできているのか見ているんですよ。
電波を中継するリピータードローン。ドローンの電波は建物などの遮蔽物に弱い。その弱点を補うのが、高高度を飛んで電波を中継するリピータードローンだ
――うわぁ、悲惨だ......。
カスタム師 市街地だったら、電波の届かない地下鉄に逃げ込むとかね。でも、光ファイバーだったらだめか......。ともかく、ドローンから見えにくくて丈夫な遮蔽物(しゃへいぶつ)がある所に隠れる。それから海とか川とか、水の中に隠れるというのもアリかもしれない。
横田 それも、水の中で息が続かなくなって水面に頭を出すところを狙われていたらアウトですけどね(笑)。やっぱり基本的には無理じゃないですかね。音が聞こえた時点で終わりだと思います。
――結局、どこまで行っても逃げ切れないかあ......。いずれにせよ、FPVドローンは急激な進化を続けていて、手軽で高性能な兵器なだけに、この先、ウクライナのような戦場だけでなく、国内のテロで使われる可能性も否定できなそう。最新のドローン攻撃から身を守るために何ができるのか。日本でも真剣に対策を研究しておくべきかも?
●量産型カスタム師 Ryosangata Customshi
防衛技術コンサル会社技術顧問・現代戦研究会幹事。技術者・ハッカー。ドローンやAIを使った課題解決、現代戦に特化した装備品開発など国内外で多岐にわたり活動
●横田 徹 Toru YOKOTA
報道カメラマン・ジャーナリスト。1997年のカンボジア内戦をはじめ、アフガニスタン、シリアなど世界各地の紛争地を28年間にわたり取材
●部谷直亮 Naoaki HIDANI
慶應義塾大学SFC研究所上席所員。専門は米国政軍関係、同国防政策、技術と安全保障全般。著書に『ドローンが変える戦争』(共著)など
構成/川喜田 研 写真/時事通信社 ウクライナ特殊作戦軍テレグラム
記事提供元:週プレNEWS
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