中谷潤人、防衛戦直前独占インタビュー<前編>「井上尚弥選手は遅かれ早かれ、やる事になる選手だと感じています」
WBCバンタム級チャンピオン・中谷潤人
2月24日に防衛戦を控えたWBCバンタム級チャンピオンの中谷潤人が1カ月間のLAキャンプを終えた。29戦全勝22KOの中谷に対し、メキシコ人挑戦者、ダビド・クエジャールの戦績は28勝無敗(18KO)。
身長172センチと、バンタム級では長身である中谷だが、チャレンジャーも同じくらいの上背がある。
「僕より背が高いという情報もあります。相手より頭の位置を低くすることを、一つのテーマとして練習しています」
今回、LAではバンタム級、スーパーバンタム級、フェザー級、ライト級と4名のパートナーとのスパーリングをこなした。2月5日までに計143ラウンド。終盤となった2月1日は16ラウンド、3日に12ラウンド、5日は16ラウンド、そして、最終日の6日には1ラウンドを10分に設定し、4回と、いつも通り己をイジメ抜いた。
「キャンプでは、2度疲労の山を作るのですが、もう2回目が来ています。これを越えると体が動くようになるんですよ」
スパーリング後のサンドバッグ打ちで歯を食いしばるシーンも見られたが、中谷はそういった厳しいメニューを楽しむメンタルがある。キャンプ中、WBCバンタム級チャンプと16ラウンドのスパーリングをこなした20歳のライト級選手は言った。
「チャンピオンはスマートだね。頭がいい。カウンターが上手いし、前の手のフェイントとポジショニングが抜群。学ぶことばかりだよ」
15歳で単身、L Aに乗り込んだ中谷は今や3階級を制した世界王者となり、パウンド・フォー・パウンド・ランキングにも顔を出す。ご存知のように今日、バンタム級の主要4団体のベルト全てが日本人の腰に巻かれているため、中谷は「すぐにでも」と統一戦を希望するが、他の王者たちにそこまでの意欲はない。なぜなら勝ち目が無いことを理解しているからだ。
このところ話題となっているのが、井上尚弥への挑戦である。WBA/WBC/IBF/WBOスーパーバンタム級チャンピオンである"モンスター"との対決は、間違いなく日本ボクシング史上最大のファイトとなるであろう。井上を抱える大橋ジムは、2024年5月7日のルイス・ネリ戦で東京ドームに4万3000人を呼び込む興行を成功させた。
WBC、WBAのストロー級(現ミニマム)で世界王座に就き、昨今、ジム経営者として辣腕を振るう大橋秀行は、収益が10億円を超えたことを認めている。だからこそ、自身の持ち駒である井上尚弥と中谷潤人をぶつければ、いかに大きなビジネスとなるかを把捉しているのだ。2度目の東京ドーム興行として、中谷以上に話題となる挑戦者は見受けられない。
WBOフライ級のベルトが自身にとって初めての世界タイトルだった中谷も、井上尚弥戦を現実的に捉えるようになった。
「ボクシングを始めた中学生の頃は、ただ単に世界チャンピオンを目指していました。でも、いざ世界戦が決まる頃になると、他団体のベルトを持っている強い選手がいるわけです。だから素直に戦いたくなりましたね。色んなチャンピオンがいるので実力者に勝ちたい、という気持ちになったんです。
毎日練習して筋肉が付いて、体が大きくなればウエイトも増えますから、自分が動きやすいクラスでやるべきだと感じています。それで、バンタム級になったということです。何階級を制したいという思いはありません。ただ、バンタム級で統一戦は是非やりたいですね。話題にもなるでしょうし」
井上尚弥戦についても質した。
「遅かれ早かれ、やる事になる選手だと感じています。僕が不利と予想する人が多いことも分かっています。でも、そういう状況の方が自分を追い込めます。ユース王座決定戦のユーリ阿久井政悟選手(現WBAフライ級王者)との試合でも、下馬評は相手の勝利でした。『何くそ』という思いで、自分を掻き立てられたんですよ。
世界チャンピオンを目指して渡米する前も、少なからずネガティブな声や視線がありましたね。反発心って向上するエネルギーになりますよね。ここまで、成長しながら試合を重ねてこられましたし、決まれば勝ちに行きます」
中谷は決して大言壮語するタイプではないが、静かな語り口から闘志を感じさせる。
取材・文・撮影/林壮一
記事提供元:週プレNEWS
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