"AC祭り"フジテレビ、経営危機のリアル。スポンサー撤退、社長・会長辞任、大株主ファンドからの圧力......そのダメージは?
1月27日の記者会見は社長をはじめ幹部5人が出席したが、経営に絶大な影響力を持つとされる日枝久相談役(写真)の姿はなかった
何もかも前例のない事態だ。中居正広氏の女性トラブルを発端として、フジテレビから大半のCMスポンサーが撤退。その上、社長・会長・副会長とトップ3人のクビが飛ぶ事態となった。フジテレビの経営は今後どうなる? 倒産や買収もありえるのか!?
■CM総撤収は前代未聞!フジテレビが今、揺れに揺れている。『週刊文春』の女性トラブル報道によって追い詰められたタレントの中居正広氏が謝罪文をホームページに掲載し、事態の焦点がフジテレビへと移ったタイミングで行なわれた1月17日の会見は、放送メディアやウェブメディアを締め出したおざなりの内容。
事件の当事者であるにもかかわらず、被害者の人権に配慮するという理由で説明不足に終始した。
これに批判が殺到した結果、フジテレビは1月27日に10時間にも及ぶ釈明会見に追い込まれた。企業統治や風土の刷新を早急に行なうとしたものの、信頼を得るには至らぬまま会見は終了。先行きはまったく読めない状況だ。
メディア研究家・炎上ウオッチャーの城戸譲氏によると、国内テレビ放送の歴史において、今回の事件は「スポンサーの対応が前代未聞」だという。
「これまでに、放送業界で国民的な大問題に発展した事件がなかったわけではありません。
坂本堤(つつみ)弁護士のインタビュー映像をオウム真理教幹部らに見せ、殺害事件の発端となった『TBSビデオ問題』や、関西テレビの『発掘!あるある大事典Ⅱ』が納豆ダイエットのデータを捏造した不祥事などがあります。
しかし今回のように、70社を超えるスポンサーが一斉にCM出稿を差し止めたことは過去に例がありません」
スポンサーが迅速に動いた背景は2点ある。まず、非常に閉鎖的な会見を拙速に行ない、フジテレビは問題の本質を認識していないという疑念をスポンサーに与えてしまったこと。加えて、港浩一前社長には事態発生直後に報告が上がっていたにもかかわらず、1年半も放置したことだ。
「スポンサーにとって、人権侵害を隠蔽するテレビ局にCMを出稿すること自体が、大きなリスクになると認識したのだと思います。
スポンサー判断でCMを止めた場合でも、1月の広告費は請求しないとしており、当然2月以降もこの措置は続くでしょうから、放送収入の激減は避けられません」
とはいえ、1月27日の会見で社長と会長の退陣を発表したことで、事態収拾に向けた最低限のスタートラインに立ったとは言えるだろう。今後の展開はどうなるか。
「今回の問題について、第三者委員会による調査を受けることが発表されました。3月末に報告書が公開されますが、その内容を超えた自主的かつ抜本的な改善案が求められるでしょう。スポンサーの納得を得られなければ、CM契約を更新しない企業が続出する可能性があります。
とはいえ、いずれにせよ4月の番組改編には間に合いません。つまり4月に始まる新番組のCMは引き続きACジャパンまみれとなる可能性が高いということです。さらに6月には株主総会を控えていますから、フジテレビの苦境はまだまだ続きます」
株主総会には、この機に存在感を示したい著名人や物言う株主が乗り込み、ひと暴れしようと考えているはずだ。
「現状を打開するには、『フジテレビの天皇』ともいわれる日枝久(ひえだ・ひさし)相談役の退陣が必須ですし、同時に企業風土を徹底的に見直す必要があるでしょう。7%以上の株式を保有する米ヘッジファンドのダルトン・インベストメンツも経営改善を強く要求しています。
港前社長が現役だった1980年代以降に確立した、『楽しくなければテレビじゃない』という娯楽至上路線をはじめとする古い価値観が時代にそぐわなくなってきており、こうした『あしきフジテレビらしさ』の延長線上に今回の大炎上があると思います」
■売り上げは300億円が吹っ飛ぶこの一件はフジテレビの経営にどのくらいのダメージを与えるだろうか。
まずは収益構造を確認しよう。ポイントは、フジテレビがフジ・メディアHDの子会社だという点。つまりフジテレビの経営を考える上では、HD全体の業容をとらえる必要がある。
同HDはフジテレビのほかにBSフジや音楽会社のポニーキャニオン、ラジオ局のニッポン放送を合わせた『メディア・コンテンツ事業』と、『都市開発・観光事業』で構成されている。
グループの総売上高は近年約5200億~6300億円の間で推移しており、2024年3月期は約5700億円。その75%を占めるメディア・コンテンツ事業の中核がフジテレビだ。
フジテレビは1月からの広告費を受け取っていないので、そのダメージは3~4ヵ月分のスポット(単発)広告料金相当というのが現実的な想定だ。経営戦略コンサルタントで経済評論家の鈴木貴博氏に、経営へのインパクトを推定してもらった。
「まずは今後のメインシナリオを確認しておきましょう。第三者委員会の報告書が3月末に出て体制が一新された結果、スポンサーからお許しが出る。4月改編には間に合わないが、5月頃にはなんとか平常運行に持っていく。これが現実的なラインです」
その上で、今回の一件による売り上げ減はざっくり言って300億円と同氏はみる。
「算定根拠としては、まず昨年のフジテレビの売上高が約2382億円。このうち、スポット広告の収入が736億円でした。4ヵ月分の減収でこの3分の1が消え、さらにレギュラーの広告で多少値下げをする枠が出てくると想定しています。
約13%の売り上げ減は大きいですが、HD全体で純資産は8771億円ありますし、倒産を心配するような話ではまったくないですね」
より悲観的なシナリオとしては、第三者委員会の調査において、別の大きな問題が出てくるという可能性が考えられる。また、フジ以外のテレビ局が自主的に進めている内部調査において新たな事案が見つかり、フジテレビだけにとどまらない大問題に発展することもありえなくはない。
「とはいえ、これ以上火の粉を広げたいという人がいるとは考えにくく、不測の事態が生じる確率は低いでしょう」(鈴木氏)
買収される可能性は!?
ただし気になるのが、果たしてスポンサーがすんなり戻るのか?ということ。フジテレビに充てていた広告予算を他局に振り替えてもおかしくないと思えるが......。
「基本的に、スポンサーは『枠』を見ています。視聴率の高い番組に広告を出したいし、自社の商品の購買層が見ている番組の枠は絶対に手放したくない。
つまり、フジテレビのイメージが許せる程度に回復することが前提ではありますが、自社のビジネスにとって同レベルの価値を持つ枠が他局で偶然空いていない限り、スポンサーは移ることができないんですよ。
それに、他社が降りるなら代わりにCMを流したい企業はいくらでもいる。スポンサー枠は需給バランスが圧倒的にテレビ局側に有利なわけです。なので、喉元過ぎれば広告が戻る確率は高いでしょう」
このあたりの事情は人材についても同様だという。テレビ局の正社員は極めて厚待遇で、転職しようにも行き先は限られる。経営陣が一新され、CMが再開されれば、遠からず社員の心情も落ち着くだろうと鈴木氏は推測する。
というわけで、結局のところ今回の事件がフジテレビの経営に与える影響は案外小さいようだ。ちまたではフジテレビ倒産の可能性さえささやかれるが、数字を追えば現実味は乏しいと言える。ただし、国からの干渉は強くなる可能性が高いと鈴木氏は語る。
「放送免許の取り消しや停波といった事態はないでしょう。ただ問題は、親会社であるフジ・メディアHDが、上場企業の中でも社外取締役の人数が非常に少ない会社だということ。総務省の指導が入り、外部から経営陣が入ってくる可能性はあるでしょう。
買収についても、まずないと思います。ここがこの事件の不思議なところで、フジ・メディアHDの株価は上昇を続け、過去1年の最高値に近づいてるんです。
普通なら、本業に直結する不祥事が起きた会社の株価は下がるのが当然で、極めて例外的なことが起きています。その理由は個々の投資家のみぞ知るところですが、何はともあれ買いやすい株価にならないなら、買い手は出てきにくいですよね。
というわけで、株価の暴落でも起こらない限りは、6月にはひと通りのことが落ち着くのではないでしょうか」
結局のところ、フジテレビが生まれ変われるかどうかにすべてがかかっていると言えそうだ。3月末の第三者委員会の報告書を受けて膿を出し切れるかがひとつのターニングポイントとなる。
取材・文/日野秀規 写真/共同通信社 時事通信社
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