「ミスター・ステディ」の復活優勝はトラディショナルな香り【舩越園子コラム】
PGAツアーの西海岸シリーズ第2戦「ファーマーズ・インシュランス・オープン」は、米ジョージア州出身の35歳、ハリス・イングリッシュが2位に1打差で勝利を挙げ、通算5勝目を飾った。
ジョージア大学を経て2011年にプロ転向したイングリッシュは、2013年「フェデックス・セントジュード選手権」初優勝を皮切りに通算4勝の実績を挙げてきた実力者だが、最後に勝利したのは2021年「トラベラーズ選手権」。その後は、腰痛が悪化して手術を受けたり、不調が続いたりで、この4年超の間は、上位争いに何度も絡んだものの、優勝の二文字からは遠ざかってきた。
今大会で再び勝利を挙げるまでの道程を振り返り、込み上げる万感を噛み締めながら涙声で喜びを語ったイングリッシュの姿に、思わず、涙を誘われた。
層の厚いPGAツアーで悲願の復活優勝を挙げた選手が、こらえきれず、うれし涙を流す感動のシーン。それは、世界一のPGAツアーだからこそ目にすることができるトラディショナル(伝統的)な名場面と言っていい。
そして、カリフォルニア州サンディエゴ郊外のムニシパル(公営)の難コース、トリーパインズを舞台に繰り広げられたこの戦いでは、イングリッシュの優勝シーンのみならず、あちらこちらにトラディショナルな趣きが感じられ、PGAツアーらしさで満たされていた。
ノースとサウスの2コースを使用した予選2日間は、荒れ気味の天候と相まって難度が極端に高まり、星野陸也など日本のルーキー3人とPGAツアーで2シーズン目を迎えている久常涼を含む多くの選手が、容赦なくふるい落とされた。
しかし、3日目は一転して「コースセッティングは、きわめてイージー。ショット、パットともコントロールして、スコアメークするだけだった」とは、優勝したイングリッシュの言。3日目が選手たちのスコアや順位が大きく動くムービングデーらしい一日になった展開も、PGAツアーの典型的なシーンだった。
そして迎えた最終日。イングリッシュは単独首位とはいえ、2位との差はわずか1打だった。54ホール・リーダーに立ったのは実に4年ぶり。その状況からもたらされるプレッシャーは多大だったようで、出だしから1番でボギーを先行させ、5番でもボギーを喫した。そんなプレーぶりには、イングリッシュの心の震えが、ありありと見て取れた。
だが、その安定感から“ミスター・ステディ”の異名をとるイングリッシュは6番でバーディを奪うと、そこから先は冷静沈着なプレーでパーを拾い続けた。
1打差で迎えた72ホール目も、ティショットを大きく左に曲げたものの、しっかりとパーパットを沈め、右手を挙げて勝利のガッツポーズ。
「すでに35歳。PGAツアーで過ごしてきたこの14年は決してイージーではなかったけど、ゴルフというゲームと選手たちに常にリスペクトを払って、きょうまでなんとかやってきた。このコースはハードなセッティングでハードなコンディションだけど、僕は難しいほうが好き。今週の舞台は、まるで僕のためにセットアップされていたように思う」
優勝者だからこそ口にできる言葉を、うれし涙をこらえながらしみじみと口にしたイングリッシュの様子は、彼が幼少時代から憧れていたというデービス・ラブIIIやフレッド・カプルス(ともに米国)の輝かしい日々の姿を彷彿とさせた。今年のファーマーズ・インシュランス・オープンはPGAツアーのトラディショナルな香りに包まれた良き大会となった。
文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)
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