映倫 次世代への映画推薦委員会推薦作品 —「雪子 a.k.a.」
レコードのように回りながら、不確かな未来を行く
雪子先生(山下リオ)の小学校での毎日は、大好きなヒップホップのレコードのようにはうまく回らない。児童たちに笑顔で優しく接するが、さまざまな問題にぶつかっては自分の至らなさを痛感する。勤務が終われば、もう一つの顔が出現。MCサマーと名乗ってラップ集団に加わり、思いをリリックで吐き出していく。
見慣れた学園物語のリプレイかといえば、そうではない。ここには安直に定番化されたキャラクターが登場しないからだ。ベテランの大迫先生(占部房子)は一見して「お局」だが、イメージはすぐ裏切られる。厳しさはあるが、それは真摯と潔癖、優しさの表れ。紡ぎ出す言葉はありきたりでなく、どこまでも正直で芯がある。わかりやすい「いじめっ子」も「いじめられっ子」も、「問題児」もいない。どの児童もときに迷いながら、そのままを生きている。学校の慣習に則した雪子のやり方に抗議してくる保護者も、「モンスターペアレント」ではない。まっすぐ雪子と向き合い、解決策を見出したいだけだ。
そうした人々が紡ぐドラマは、もちろん勧善懲悪という直線運動にはならない。昼の先生と夜のラッパー、雪子とサマー、月曜から始まる一週間、東京と長崎、すべて対比を際立たせながら、レコードのように巡る円周軌道となる。だとしたら雪子は、30歳を迎えて結婚を視野に、という直線的な人生展望からも解放されるだろう(哀れな恋人を渡辺大知が好演)。やがて迎えるのは、不登校児のピアノ× 雪子のラップという無二のセッション。周囲を旋回するカメラに捉えられた二人は、そのとき円周世界の中心だ。感情と形式が高め合う草場尚也監督の演出が、雪子を肯定していく。
雪子、またの名は――。いつまでも変わりゆく、永遠の白紙解答。だから生きていける。
文=広岡歩 制作=キネマ旬報社(「キネマ旬報」2025年2月号より転載)
「雪子 a.k.a.」
【あらすじ】
記号のように過ぎる日々に、漠然と不安を覚える小学校教師の雪子。不登校児とのコミュニケーションに迷い、結婚を匂わす彼氏には本音を告げられない。ラップをしているときだけは自分をさらけ出せると思っていたが、ラップバトルでそれも否定されてしまった。30歳を迎えても、何も変わらない。それでも一歩を踏み出し、摑んだものとは──。
【STAFF & CAST】
監督:草場尚也
出演:山下リオ、樋口日奈、占部房子、渡辺大知、石橋凌 ほか
配給:パル企画
2024年/日本/98分/Gマーク
1月25日より全国にて順次公開
©2024「 雪子a.k.a.」製作委員会
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記事提供元:キネマ旬報WEB
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