神童の兄のそばで現実を見てきたフライ級新王者・那須川龍心が大躍進!
「キックはおまえに任せた」と天心から背中を叩かれた龍心。次戦は3月29日の東京・両国国技館大会が有力
キックボクシング界にニューヒーローが現れた。〝神童〟那須川天心の実弟・那須川龍心(18歳)=TEAM TEPPEN=だ。
昨年12月にはホームの「RISE」千葉・幕張大会で、タイの強豪をボディへのヒザ蹴りの連打で2回KOに沈めた。試合後、マイクを握った龍心は強烈なメッセージを送った。
「今、キックはボクシングやMMA(総合格闘技)より盛り上がっていないけど、僕が先頭に立って盛り上げます。俺を信じてついてきてください」
この10年を振り返ってみれば、キック業界の人気は天心が武尊と激突した22年6月19日開催の「THE MATCH 2022」がピークだった。
会場となった東京ドームが約5万6000人(主催者発表)の大観衆で埋まる、モンスター興行だった。しかしこの大会を最後に、一般大衆を巻き込むような大きな波は起きていない。そんな状況を龍心は懸念する。
「MMAだったらUFCのように世界一を決める舞台があって、そこで王者になれば世界最強を名乗れる。でもキック界はバラバラすぎて世界一を決める場所がない」
キック界を統一するためには、兄のように世間に注目される存在になって結果を残していくしかない。
「ただ、すぐに世界一を決める舞台をつくることは難しい。だったら、前回のTHE MATCHのように日本一を決める舞台をつくるところから始めたい」
このところ龍心はキックボクシング8連勝中で、直近の3試合はすべてKO決着。中でも昨年11月23日、数島大陸に痛烈な左フックを浴びせ、1回KOでRISEフライ級王座を奪取した一戦は記憶に新しい。
会場まで応援に訪れていた天心から「キックはおまえに任せた」と背中を叩かれた龍心は「天心は16歳で王者になっているので、自分もその年でなりたかった。でも、高校生のうちに王者になることができて本当に良かった」と安堵の表情を浮かべる。
急成長の秘密は倒すコツをつかんできたからだ。
「自信を持って闘えるようになったことが大きい」
技術的にも大きな進化が見られた。
「それまではちょっとビビっていたというか、『相手の一発をもらっちゃうかも』という恐怖心があって、あと一歩踏み込めなかった。でも、最近はそれができるようになってきた」
すべては日々の努力のたまもの。数島戦前には対戦相手と同じサウスポーである天心に練習相手を務めてもらったことも大きかったという。
「相手の対策というよりは天心に試合の心構えや闘い方の再確認ができたことが大きかった」
さすが兄弟、龍心の動きは「天心と似ている」といわれる。23年大晦日、RIZINで初めてMMAに挑戦したときは、くしくも天心のMMAデビュー戦と寸分たがわぬ試合展開を披露して周囲を驚かせた。それでも、龍心は兄とは違うところもあると打ち明ける。
「天心はどちらかといえば、前後のステップを使うタイプ。一方、僕は左右のステップが使える。会長(父・那須川弘幸さん)からも『おまえはそこが天心と違う』と言われています」
今や「天心に追いつけ追い越せ」という立場ながら、小中学生のときには当時から神童と呼ばれていた天心と比較されることも少なくなかった。
「おまえは兄(天心)の七光だ」と父親である会長から言われるも、「天心は天心、俺は俺」と現実を見てきた
龍心は「会長からも『おまえは天心の七光だ』と言われていましたね」とあっけらかんと振り返る。
「〝なにくそ〟と思っていた? いや、天心は天心で、俺は俺みたいな。物心ついたときにはすでに天心はプロで活躍していたので、『すごいことをやっている』と思っていたけど、現実をずっと見ていたので」
アマチュア時代はここ一番という試合を落とすことも多かった。龍心は「小6くらいまではずっとやめたかった」と吐露する。
「指導は厳しいし、格闘技も練習も嫌いだったんですよ。会長から『優勝したらやめてもいい』と言われた大会でも勝てなかったのでやめられなかった」
昨年12月21日に千葉・幕張メッセで行なわれた大会ではタイの強豪ペットマイ・MC.スーパーレックムエタイに2回KO勝利を収めた
転機は小学校卒業直後に訪れた。タイで行なわれたアマチュアムエタイの国際トーナメントで優勝したことで、龍心のマインドは大きく変化したというのだ。「そこで格闘技をやっていて初めて楽しいなと思えた。それからは『こんなに楽しいんだから』という感じで続けてきました」
周囲に何を言われようと、楽しいまま絶好調。偉大すぎる兄のプレッシャーに押し潰されなかったからこそ現在がある。
「グレようとしたこと? ないですね。そんなことをしたら、会長から鉄拳が飛んでくるので(苦笑)」
最近は道端で見知らぬ人から激励されることも多くなってきた。選手としての活動の傍ら、ABEMAの恋愛リアリティ番組『今日、好きになりました。』シリーズにも出演。ファン層を広げた。すべてはキック普及のためだ。
「メディアに出れば自分の注目度が高まるとともに、団体や競技のことも知ってもらえる。僕をきっかけに興味を持ってもらえたら、キックにハマってもらえるかもしれない」
天心以上の童顔ながら、それもまた女性ファンのハートを射抜くのかも。最後に会いたいタレントを聞くと、龍心は答えに窮した。「誰だろう、う~ん、橋本環奈さんかなぁ。ナチュラルで、ザ・カワイイという感じじゃないですか」
素は純真な18歳。天心同様、2025年は「世界」に打って出るか。
取材・文/布施鋼治 写真/長尾 迪
記事提供元:週プレNEWS
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