「人とかぶるのは好きじゃないんです」 初優勝へ導いた“信念”と思いが詰まった“ド派手ウェア”【臼井麗香インタビュー】
栃木県出身の26歳。黄金世代のひとりとして活躍への期待を背負い続けてきた臼井麗香は、今年3月の「アクサレディス」で念願の初優勝を挙げた。2018年のプロテストに合格して7年目でつかんだ歓喜。しかし、その間には苦しい時期も過ごしてきた。その臼井が14日に参加したカーディーラーショップ「THREE STONES」のイベント終了後、ALBA Netのインタビューに応じ、ゴルフ人生のこれまで、そしてこれからについて語った。また、こだわりの“ファッション”という部分についても、たっぷり話を聞いた。(取材・構成 / 小池文子)
ゴルフ好きだった祖父に「始めたらハムスターを買ってあげる」と言われたのをきっかけにクラブを握ったのは9歳の時。毎日のように「明日、辞めたい」という思いを抱えながら練習へついていったのが、臼井のゴルフ人生の原風景だ。将来プロになるつもりはなかったが、小学6年生の時に「キャロウェイゴルフ世界ジュニアゴルフ選手権」の日本代表に選出。この時点で「もう辞めるなんて言えない。プロを目指すしかない」と決意が固まっていった。
その練習は厳しかったという記憶しかない。態度が悪いと祖父に「栃木の山奥に置いていかれたこともあった。3時間歩いても道がわからなくて、道路を走っていた軽トラックに乗せてもらった」というエピソードも明かされる。ただ、今では「それがあったから今の自分がある」と思える。自分の子供をプロにしたいと考える親に対しては「厳しくした方がいい」と言うほど、今では祖父への感謝でいっぱいだ。
2018年にプロテスト合格を果たし、すぐさま翌年にはレギュラーツアーを主戦場にした。2020-21年には初シードも獲得。21年の「ワールドレディスサロンパスカップ」では2位になるなど、“いつ勝ってもおかしくない”選手のひとりにまで成長した。しかし、翌22年からスイング改造の失敗でスランプに陥り、シードを喪失するなど、歯車が狂いはじめる。この年は出場34試合中、予選通過を果たしたのは7度のみ。最高成績は4月「富士フイルム・スタジオアリス女子オープン」での21位タイだった。
「ゴルフを辞めたくなるくらい辛かったですね」。当時のことを、こう振り返る。それを踏みとどまらせたのは、30歳まではゴルフをやると決めた、強い意思。「引退の日を決めているからこそ足を止めるわけにいかない。その日出来る100%の努力をしていました」。来る日も来る日も、復調を信じ、クラブを振り続けた。
黄金世代のひとりとして「次は私が勝たないといけない」というプレッシャーがあったことも明かす。そして今季自身初戦となったアクサレディスで同世代14人目の優勝者として肩を並べた。この時の優勝会見でも、「(不調の時期は)練習ラウンドで毎回、帰りたくて泣いていました」という話も明かしていたが、自らを追い込み、高みを目指すことができたのも、やはり幼少期の“厳しさ”があったからかもしれない。
そんな臼井は、ファッションアイコンとしても国内女子ゴルフ界を盛り上げ、多くのファンを魅了している。20年からは初めてトーナメントプロとしてゴルフウェアブランド「アルチビオ」とウェア契約を締結。ブランドイメージと、ファッション性に共感したことが契約に至った。ポップな色合いや人目を引くスタイリッシュなデザインが特徴の同ブランドは、臼井が持つこだわりそのものだ。
「私にとってウェアは自分を引き立たせてくれるもの」。個性を大事にし、「コーディネートが人とかぶるのは好きじゃないんでし。色も考えながら人目につくウェアを選んでいます」とも話す。
今季は長袖のボタンダウンシャツや合皮素材のスカート、さらにはメンズの半袖シャツをダボッと着こなした“ビールの売り子”スタイルも印象的だった。ウェアは自宅で支度をする段階で何パターンか組み、あとは試合日の気温を見て前日に決めているという。「チクチクするのはあまり好まなくて、ストレッチの効いたものが好き」と、もちろんアスリートとしてのこだわりも大事に持つ。
勝負カラーは『ピンク』。初優勝を挙げたアクサレディスの2日目は濃いピンクのモックネックを着て、単独トップでフィニッシュしている。この日のイベントにも黒のモックネックとスカートに、ピンクの半袖ダウンで登場。光沢感のある薄ピンクのダウンがブラックコーデのアクセントとなった。そして、トレードマークのリボンも欠かせない。その裏にあるのは、「形から入って、ゴルフに携わる女性が増えたらな」という思い。黄金世代という一大勢力が揃うなかで存在感を示すためにもウェアへのこだわりは人一倍強いのだ。
コロナ禍を機に「男性に着てほしい」ゴルフウェアブランド『Chell classy』(チェル クラッシー)のプロデュースも開始した。試合では自身がデザインした白とゴールドを基調としたキャディバッグとヘッドカバー、バイザーを着用しプレーしている。一見華やかなプロゴルファーという職業だが、その裏は「スポンサーがいないと成り立たない」厳しい世界。「コロナの時期は仕事が無かったし、自分が存在している意味を何も見出せてなかった。それだったら誰かが着たいとか、求められる何かを作り出したい」と思ったのが、ブランド設立のきっかけ。異性のウェアを作ることにしたのは「自分や女性用だと自己満足になってしまう」から。これも、こだわりを感じさせる。
今後は「ブランドの認知度を上げる」ことを目指していく。現在は春・夏のアイテムを発売しているが、ブランドが成長すればラインナップを増やしていきたい意向もある。そしてそのためには試合で結果を残すことが近道だと考えている。「成績が上がれば、その分露出も増える。そうしないとブランドにいきつかない」。あくまでもアスリートマインドは忘れない。
臼井は同じ女子プロゴルファーで、ツアー通算2勝の菅沼菜々と来年2月にアイドルデビューすることを14日に明かした。そこでの衣装を手がることはないというが、「したいなとは思う。でも、ゴルフウェアでこれだけてこずっているからアイドル衣装だともっと伝わらないんじゃないか」と揺れる日々も過ごしているようだ。それでも見に来てくれるファンが視覚的にも楽しんでくれるように細部までこだわっている。
もちろん本職はプロゴルファー。ここからは、来年の活躍を目指し、自分を追い込む冬が本格化する。国内女子ツアーは、女王の竹田麗央や、山下美夢有、明愛と千怜の岩井姉妹、そして下部ツアー挑戦の意向を示す原英莉花と、主力がごっそりと米国に主戦場を移す。そんななか、「私がツアーを盛り上げていきたい」という思いも強い。
22年シーズン以来、シード選手として戦う来年。プレーを支える“強い信念”と、ゴルフ界への思いもつまった“独自のファッションセンス”で、ツアーの主役のひとりとして、コースを沸かせるつもりだ。
<ゴルフ情報ALBA Net>
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