日本のゴルフ場にはどんな生き物が現れるか? 安全対策と動物がらみのゴルフルールも紹介!
ゴルフ場は森林を伐採したり土地を造成したりして造られた、人工的な場所です。しかし、住宅や工場、倉庫などと違い、広大な緑地であることも間違いありません。ほどよく人の手が入った森や林がコースをふちどり、ホール内には池やクリークといった水場があるため、さまざまな動植物の生息地にもなっているのです。そんな生き物たちは、エサを求めるなどしてゴルファーの前に姿を現すことは少なくありません。中にはゴルフ場やゴルファーにとって招かざる動物や虫もいますが、それもふまえてゴルフと言えるでしょう。本記事では、日本のゴルフ場で出くわす生き物と、ゴルフルールとの関係などについて紹介します。
1.ゴルフ場で遭遇しやすい動物や虫たち
少し古いデータになりますが、1990年に公益社団法人ゴルフ緑化促進会(GGG)がゴルフ場の生物多様性に関するアンケ一ト調査を行ったところ、ゴルフ場に現れる哺乳動物トップ5はタヌキ、ウサギ、キツネ、イノシシ、リスという結果が出たと発表しました。特にタヌキに関しては、実に全国80%のゴルフ場に出現したとあります。
現在は、夏の猛暑など気候変動による影響から当時とは違った結果になっているかもしれません。しかし、生態系の分布は変わったとしても、ゴルフ場やそのまわりが多種多様な生き物の棲み家になっていることは間違いありません。
シカやイノシシ、スズメバチなど、ゴルフ場やゴルファーにとって害となる生き物もいますが、それも緑豊かな証拠です。そこで、ゴルフ場に出没する生き物と、その注意点や対処法について解説していきます。
林野庁(農林水産省)は2024年10月、2023年度の野生鳥獣による森林被害面積は全国で約5,000ヘクタール(東京ドーム約1,070個分)、そのうち、シカによる枝葉の食害や剥皮被害が全体の「約6割」を占めていると発表しました。シカによる被害は拡大、且つ、深刻化しており、国も対策を講じています。
ゴルフ場やその近辺でも、シカの被害が報告されています。コース内の芝を食べる、樹木の幹の皮を食べる、フンを落としていくなどのほか、ゴルフ場へ向かう車とシカが衝突して廃車になったケースもあるそうです。
ゴルフ場は柵の設置、ワナによる捕獲などの対策を進めています。
ゴルフ場におけるイノシシの被害も深刻です。
イノシシは地中にいるミミズや虫などを食べるため、夜中にコースに侵入して鼻で芝を掘り返してしまうからです。フェアウェイやラフが広範囲にわたってズタズタに掘り荒らされ、実に痛々しい状態になっているのを見たことがあるゴルファーもいるのではないでしょうか。
2024年1月には、九州の某ゴルフ場内にイノシシが入り込んでゴルファーやスタッフに突進し、3人が大ケガを負うケースが発生しました。
ゴルフ場は外周に電気柵を張り巡らしたり、イノシシの嫌がる音が出る装置を設置したりするなどの対策に乗り出していますが、イノシシとの攻防戦には終わりが見えていません。
警戒心の少ないうり坊(イノシシの子ども)は、昼間でもゴルフ場内に入り込んでくることがあります。その姿はとても愛らしいのですが、探しに来た母イノシシが興奮して人に襲いかかる可能性もあるので、決して近づかないようにしてください。
サルはシカ、イノシシに次ぐ第3の害獣とされており、群でやって来ては農作物に被害を及ぼすため、大きな問題になっています。
ゴルフ場でサルの群れに遭遇した、というケースも聞かれます。サルはすぐ人に慣れるうえ威嚇してくることもあるので、近づかないにこしたことはありません。
サルが出没するという某ゴルフ場は、ホームページ中で、「(コース内でサルを見かけた際)、目を合わさない・近づかない・追っ払うなど攻撃しない」と注意を促しています。
ましてや、食べ物を与えたりしてはいけません。
日本人にとって、身近な動物であるタヌキ。タヌキは都市郊外から里山、低山にかけての、ある程度人の手の加わった緑地を好むため、人の目につきやすいのも特徴です。そのため、ゴルフ場でタヌキを目撃したという情報も少なくありません。
タヌキは雑食性のため、ゴルフ場の果実類、カエルやネズミなどを食べるようです。
「いい場所に運べたのに、そのボールを持っていかれた」「カートに置いていたお菓子を食べられた」「カートバッグの中を荒らされた」など、ゴルファーの実害報告が多いカラス。
カラスはカートに人が誰もいないスキを狙って、荷物をあさることもあります。未開封のお菓子を袋ごと、時に交通系ICカードが入ったポーチごと持ち去られたというケースもあり、カラスの被害をなめてかかると痛い目に遭います。
カートバッグはジッパーなどで口が閉まるものを選び、面倒でも開けたら必ず閉めるようにしましょう。バッグが小ぶりで軽いとバッグごと持っていかれるケースもあるので、上に水筒など重いものを置いてカバーするといいでしょう。
食べ物はカートに置きっぱなしにせず、未開封の状態でもバッグの中に入れてください。バナナの皮など食べ物のゴミをまとめたビニール袋は口を閉じ、カートバッグの下などに隠して持っていかれないようにすると安心です。
ゴルフ場はカラス対策として、カートの荷物置き場の上にかけるシートを用意したり金属のフタを付けたりしているところもありますが、まずは自衛することが大切です。
コース内の深いラフなどに設置されている「マムシ注意」の看板は、ゴルファーのロストボールに対する未練を断ち切るためものだという噂がありますが、真偽はさておき、日本の緑濃きゴルフ場にヘビがいても不思議ではありません。
マムシ(ニホンマムシ)は日本全国に広く分布しており、ネズミ、小鳥、カエル、トカゲなどを食べます。また、国内にいるヘビの中で最も強い毒を持つとされるヤマガカシは本州、四国、九州に分布し、主にカエルをエサとしています。いずれも水辺を好むので、池のそばのラフに入る時は注意しましょう。特に春から秋にかけて遭遇する可能性が高まります。
ヘビを見かけても決して近づいたり、クラブでつついて追っ払ったりしないこと。ゴルフ場のスタッフに連絡をして、目撃した場所を伝えるようにしてください。
ボールを林に打ち込んで探しに行ったら、大きなスズメハチがブーン……。林はハチにとっては心地よく、巣づくりに絶好の場所です。
ハチは樹木の枝や穴、根本、切り株の跡、土中などに巣をつくります。運悪く林の中に入らなければならない時は、あたりにハチが飛んでいないかチェックしましょう。スズメバチの活動期は春から秋で、特に夏はハチに刺される事故が多いので注意が必要です。
スズメバチは外敵が巣に近づくと、「これ以上近づくな」という意味で間合いを取りながら空中で停止したり、相手のまわりを飛び回ったりします。そんな行動が見られたらゆっくりと身をかがめ、焦らず少しずつ後ずさりして、その場から逃げましょう。
ギョッと驚いて手や帽子などで追い払いたくなりますが、そうすると逆にハチを刺激して攻撃されてしまうので大変危険です。
不幸なことにスズメバチに刺されてしまったら、ゴルフ場のスタッフに連絡してプレーを中断し、クラブハウスで安静にしていましょう。氷のうなどで冷やすのも効果的です。
吐き気、寒気、発熱、頭痛、じんましん、息苦しさなどハチの毒に対するアレルギー反応が少しでも見られたら、まわりの人にすぐに救急車を呼んでもらいましょう。アナフィラキシーショックによる死亡例は毎年報告されているので、軽視したり我慢したりすることは大変危険です。
夏ゴルフは短パン&ショートソックスなど身軽な格好でプレーをしたいものですが、そんな無防備なゴルファーの肌を狙っているのが蚊です。
気づいたら刺されていて、不快なかゆみがしばらく続くばかりか蚊に食われたあとがシミとなって残ること(炎症後色素沈着)もあり、「蚊め!」と悔しい思いをした人もいるでしょう。また、感染症になる場合もあるため、なめてはいけません。
蚊の対策としては、肌の露出を避けるのが一番。真夏でも長袖とロングパンツを着用しましょう。ソックスは短いと裾から侵入した蚊に刺されることがあるので、ロングソックスを履いてください。
夏らしく半袖&短パンでプレーしたいなら、その下に長袖&ロング丈の機能性インナーを着るといいでしょう。日焼け対策にもつながり、一石二鳥です。ただし、名門ゴルフ倶楽部ではその組み合わせをNGとしているところもあるので、事前にドレスコードをチェックしておくと安心です。
ウェアは、黒などの暗い色ではなく、白っぽい明るい色のほうが刺されにくいとされています。
肌の露出がある場合は、「ディート30%」や「イカリジン15%」という成分が含まれた虫除けスプレーが有効です。蚊など吸血害虫の感知能力を撹乱し、吸血行動を阻止する効果を持っています。ディートの方が対応する虫の種類は多いですが、イカリジンは小さな子どもから大人まで使用できる点で、安心です。
虫除けスプレーは、露出部分に薬剤が適量かかるよう使用し、ムラがないよう全体にまんべんなく塗り拡げてください。虫除け剤には、殺虫成分や蚊が嫌がる成分が含まれていないため、有効成分がかかっていない部位は刺されてしまうからです。
“虫除け”は、虫を“寄せ付けない”というわけではなく、塗った皮膚から有効成分が揮発することで、寄ってきた蚊などの感覚をマヒさせ、刺せないようにするものです。
また、虫除けスプレーは商品によって効果の持続時間が異なる(ディート30%で約6時間、15%で5時間、10%で3時間が目安)ため、定期的な塗り直しが必要です。夏のゴルフでは汗とともに有効成分が流れ落ちてしまうので、なおさら注意してください。
ブヨ(ブユ)はハエの仲間で、春から夏にかけて水辺近くの草むらなどに生息しています。ノコギリのような口で皮膚をかじって血をすすり、強い毒素を持った唾液を皮膚の中に注入するのですが、その毒性の強さは蚊の比ではありません。
蚊同様、刺されている最中の自覚症状はありません。しかし、半日~1日経ったあとに強い腫れとかゆみが現れます。しかも、時間とともにそれらの症状が強くなり、人によっては強いアレルギー反応によってその部位がパンパンに腫れ上がり、ひどい痛みが出ることもあるのです。
ブヨに刺されたことがわかったら、早めにステロイド成分が配合された市販の治療薬(OTC医薬品)を塗りましょう。わからない時は、薬剤師に聞いてみてください。市販のステロイド外用剤を使用しても症状が改善しない場合、また、痛みや腫れがひどい場合はすみやかに医療機関を受診しましょう。
ブヨ対策は蚊と同様、肌を露出させないこと、虫除けスプレーを使用することが有効です。
プレー中に動物や危険な生き物との接点が生まれた時はどうしたらいいのか、ありがちなケースとその回答について解説します。
Q.ティイングエリアから打ったボールが、たまたまコース内にいたシカに当たってしまいました(ごめん!)。
A. シカにとっては災難で誠に申し訳ないのですが、偶然であればゴルファーは無罰です(規則11.1a)。ボールが止まったところからプレーを続けましょう(規則11.1b)。
Q.カラスがボールをくわえて飛び立ち、別の場所に落としてしまいました。そんなバカァな~!
A.プレーヤーはボールが元あった位置(あったと思われる位置)に無罰で戻すことができます。ただし、カラスが球を拾い上げたり、動かしたりしたことがわかっている、または事実上確実であることが必要です(規則9.6)。
Q. 丸い塊がいくつもつながったイノシシのフンの山の頂に、ボールが落ちていました。どう打つべきか、フン切りがつきません。
A.動物のフンは、「ルースインペディメント・Loose Impediment」(ゴルフコース上に存在する簡単に取り除ける自然物のことで、木の枝や落ち葉、小石、虫の残骸など)に該当するため、ボールが動かないなら無罰でフンを取り除くことができます(規則15.1a)。
しかし、フンの上にボールがある場合、フンを取り除こうとするとどうしてもボールが動いてしまうでしょう。そのため、プレーヤーはそのまま打つか、1罰打を加えてそのボールをリプレースするか、なかなかにシビれる選択が迫られます(規則15.1b)。
Q.シカかイノシシと見られる動物の足跡のくぼみの中に、ボールがスッポリ入っていました。
A.動物の足跡は「地面の不整箇所」とみなされ、救済を受けることはできません。あるがまま、つまり足跡の中にあるボールを打たなくてはなりません。
ただし、モグラなど穴を掘る生物が掘った穴にボールが落ちた場合は、「動物の穴」には該当するため、救済が認められます(規則16.1)。
Q.ボールの近くにヘビがとぐろを巻いていた! 恐ろしくてとても近づけません……。
A.あるがままにプレーすると、ボール近くの危険な動物によりプレーヤーが重症を負う可能性(恐怖!)がある場合、罰なしの救済を受けることが可能です(規則16.2)。
ゴルフ場には、ゴルフ場やゴルファーにとっては招かざる生き物も現れますが、それはごく一部。中には絶滅危惧種の生息が確認されることもあり、多様な生き物の生息地や避難場所になっていることがわかります。
ゴルフはそんな豊かな自然の中で行うのですから、球技スポーツであると同時に、自然を相手にする「アウトドアスポーツ」の一面も確実にあるのです。最後に、ゴルフ場と自然保護の関係を見ていきましょう。
かつてゴルフ場は森林伐採、農薬や肥料による水の汚染など、環境破壊の象徴とされていた時がありました。しかし、その後関係者の努力によって、生物多様性に配慮したさまざまな取り組みが行われ、近年はゴルフ場=環境破壊というネガティブなイメージは薄れつつあります。
それどころか、ゴルフ場は適度な管理がなされた広大な緑地であることから、現代の里山として機能しているという声もよく聞かれるようになりました。ゴルフ場の森林がCO2を吸収固定することも報告されています。
プレー中は自分のスコアだけでなく、そうした自然環境や生き物たちの存在に、もっと目を向けてみてはいかがでしょうか。
ゴルフ場によっては、グリーンフィやキャディフィ、ゴルフ場利用税とともに支払う「緑化協力金」。これは、公益社団法人ゴルフ緑化促進会(GGG)の会員ゴルフ場を利用したゴルファーが納めるお金で、金額はプレー1回当たり50円となっています。
緑化協力金は、ゴルフ場のコース管理のために使われるものというイメージがあるかもしれませんが、同会のホームページによると、「公共の学校や福祉施設、公園や河川などをはじめとした緑化事業を促進し、人々の生活環境の改善とゴルフが国の環境整備に貢献することを主な目的としています」とあり、また、被災地復興支援として海岸防災林の再生や保全、まちづくりにも力を注いでいます。
同ホームページではさまざまな活動を紹介しているので、「緑化協力金って何だ?」と興味がわいた人は一度のぞいてみてはいかがでしょうか。ゴルフと自然とのつながりが、より実感できるでしょう。
ゴルフの発祥地とされるスコットランドには、「ゴルフは自然との戦いである」ということわざがあるそうです。最近はインドアゴルフが普及し、天候関係なくプレーしたり、スイングデータをチェックしたりするには最適な場所ですが、大自然の中でラウンドするのとは別モノです。
雄大な自然の中に身を置き、さまざまな生き物が暮らしていることを感じることは、現代人にとって大変貴重な時間となるでしょう。注意すべきことはしっかり対策をしつつ、ぜひ自らも自然の一部となってゴルフを楽しんでください。
<ゴルフ情報ALBA Net>
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