20万人を超える大学生が自転車で深夜に大移動! 中国「チャリオフ」大ブームの怪
中国の大学生による深夜のチャリンコ大移動は、どのように発生したのか?
10月上旬から盛り上がりを見せた中国の大学生による深夜のチャリンコ大移動。これはどのように発生し、そして政治的な意味はあったのか?
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■中国の学生ノリはスケールがデカすぎ!20万人を超える大学生たちが片側6車線の道路をほぼ完全封鎖! 10月初旬から毎週金曜日に約50㎞にも及ぶ深夜の大移動を自転車で行なったという中国発の謎ムーブ。どうしてこうなったのか?
そして政治的な影響などはあったのか? 中国経済、IT、ネット事情に精通するジャーナリストの高口康太さんに解説してもらいます!
――この深夜の大規模サイクリングはどのようなきっかけで始まったのでしょうか?
高口 今年6月に中国河南省鄭州市の女子大生4人組が「開封市に肉まんを食べに行こう!」とSNSに投稿して、約50㎞離れた開封市までシェアサイクルで行ったのがきっかけです。
ただ、この時点では彼女たちのサイクリングはまったく注目されず、これがバズり始めたのが10月の上旬。そこから、鄭州市から開封市までの深夜のサイクリングは中国のSNSで「#夜騎開封」として拡散され、最大で20万人以上が同時に移動することになってしまったのです。
――ある意味、SNS発信の超大規模チャリンコオフ会となっていますが、女子大生4人組が6月に投稿したものが、なぜ10月になってバズったのでしょうか?
高口 もともと、昨年から大学生たちによるバックパッカー的な〝中国国内貧乏旅行ブーム〟がありました。マイナーな地域で弾丸ツアーを行ない、行程やご当地のグルメを紹介するSNS投稿が人気だったのです。
その国内貧乏旅行に関連して、女子大生4人組の投稿がSNSのアルゴリズムで上位に表示されるようになったのが10月。そして、近隣の大学生が自発的に参加していったという経緯です。
今年6月に「チャリで肉まん食いに行く!」と初めて50㎞の深夜サイクリングを決行した女子大生4名様。これが10月にバズり、ピークだった10月中旬には大量のリア充が出現する事態に発展。しかし、11月に入ると参加者の様子が変わってきたという......(写真は中国のSNSから)
――これは道路を完全に封鎖しているわけですから、彼らが通過する自治体側にとっては相当な迷惑行為ですよね?
高口 でも、10月中は近隣自治体も、深夜のサイクリングをバックアップしていました。なぜなら、貧乏旅行ブームでグルメや名所を若者がSNSに投稿してバズると、その地域に一気に観光客が殺到します。
それこそ、これまで何も特徴のない地方都市の串焼きや麻辣湯が、国中から人が押し寄せる大人気グルメとなるほどでした。
もちろん、バズった地域の観光収入も大幅にアップ。それもあり開封市も鄭州市から自転車でやって来る大学生を応援していたのです。新聞も「大学生が青春を謳歌!」と好意的に報道していたほどでしたから。
――そんな、大学生ウエルカムだった状況が変化したきっかけは?
高口 11月8日の深夜サイクリングには、20万人を超える人が参加。これは地域住民の生活を阻害しますし、「人集まったし、学生運動でもやるか?」というノリになることを政府が恐れ、規制されることになりました。
その一方、10月の時点では大学生が中心でしたが、それ以降には若者世代の現役・退役軍人や政治的なアピールをにおわす人たちも参加するようになりました。10月初旬からの参加者たちのSNSをチェックすると、「最初のほうが楽しかった......」といった11月8日の状況にドン引きしている投稿も見られました。
これは中国の盛り上がったイベントの特徴なのですが、例えば注目度の高いイベントで退役軍人が「われわれは祖国のために頑張ったのに補償が少なすぎる!」とアピールすると、それが公式に認められることがあるのです。
それもあって、深夜の大規模サイクリングには学生ノリの初期からの参加者と、自分たちの主義主張をアピールしたがる人たちとの間に温度差が生まれていたのです。
なぜか大量に出現する若き現役・退役軍人たち。そして政治的アピールをにおわせる方々も登場......。こういった大規模イベントが盛り上がると彼ら出現しがちで、大学生たちとの温度差が。こういった方々が多くやって来る理由とは?(写真は中国のSNSから)
――ところで中国人の〝学生ノリ〟とはどういった感じなのでしょうか。中国人YouTuberで『マイティ・ポー【中国人アル】』チャンネルのPooちゃんに聞いてみました。こういった大勢で同じことをやって楽しむ学生ノリはあるんですか?
Pooちゃん あるんだよな。オレが学生だった頃は期末試験が終わると、なぜか学校のみんなが破った参考書や問題用紙で紙飛行機を作って、それを校舎から校庭に飛ばすんだよ。最終的にはゴミとか投げてるやつもいるんだ。なんで、こんなことやってんだかよくわかんないんだけど、とにかく同じことをみんなでやるのが楽しいんだよ。
あと、例えば「李くんと林くんが、◯◯市場でケンカするぞ!」ってなったら、学校中のやつらがそこに集まってくるんだ。遠くてもみんな自転車で行くから、やってることは深夜のサイクリングと一緒なんだよ。
――ちなみに、Pooちゃんも地元で深夜サイクリングがあったら参加する?
Pooちゃん 絶対に行く。正直、肉まんなんてどうでもいいんだよ。ただ、そこに行けば女のコとワンチャンあるかもだし、それがなくても友達とワイワイやりながらサイクリングするのは楽しいに決まってる。
オレが、みんなでケンカを見に行ったときも、結局ケンカよりも、そこに行くまで仲間としゃべって屋台で串焼き食べたりするのが楽しかったんだ。
若い世代の中国人にもそういった経験って絶対にあるし、深夜のサイクリングも途中でSNSにアップしたり屋台で飯食ってるじゃん。これは、オレから見ると中国人にとっての小中高の学生ノリが、そのまま延長しただけって感じなんだよな。
あと、9月は中国では新入学シーズンで、10月はちょうどみんなが仲良くなってきた時期。それもあって深夜のサイクリングが一気に盛り上がったんだと思うよ。
――高口さん的にこの学生ノリはどう感じましたか?
高口 中国の肉まんって、どの地方で食べても味に大差ないんですよ(笑)。なので、参加者の多くは肉まんよりも仲間と騒いでサイクリングを楽しんだという部分が大きいと思います。
一部の報道では「経済的に不満のある中国の若者による大規模サイクリング集会!」とかもあったりしますが、そんなんじゃないですよね。そもそも、どんな集会も一発でアウトになる「打倒! 共産党」というのもありませんでしたから。
ただ、私としては中国的な学生ノリもありつつ、日本の2ちゃんねる文化のような懐かしさも感じました。例えば、〝田代砲〟と称して、米タイム誌のパーソン・オブ・ザ・イヤーに田代まさしさんをネット投票で1位にしようと集団で楽しんでいた、悪ノリな状況と似ているのではと思いました。
大学生たちが利用したシェアサイクルが大量に乗り捨てられた中国開封市。開封市に到着した大学生たちのほとんどが帰路はノープラン(写真は中国のSNSから)
行政的には「これで大学を休むとは、けしからん!」と怒りつつも、大学生たちに高速鉄道の列車を無料開放する温情プレイも発動され、駅には大学生が殺到した(写真は中国のSNSから)
――SNSから派生する学生ノリな現象は、今後も中国で増えると思いますか?
高口 増えるでしょうね。道路を封鎖した上に大量のシェアサイクルを放置した彼らがめちゃくちゃ怒られたというわけでもない。それどころか、「これで学校を休ませるわけにはいかん!」と、大学生たちに鄭州市行きの高速鉄道を無料開放したほどです。
ただ、これらの大規模サイクリングを中国政府が事前に規制できませんでした。中国は監視社会で街中にカメラがありますが、それとSNS投稿から事前に通行規制を行なえたはずです。
しかし、事前規制ができなかったということは〝中国の監視社会が機能していない説〟が浮き彫りになった印象があります。これだと大規模な政治的なデモも行なえる可能性もあり、中国政府的に今後の大きな懸念点となるでしょう。
――政治的な意味はなくても中国の学生ノリは大規模すぎて、近隣住民にとっては大迷惑。これだけは、日本には波及しないことを願います!
取材・文/直井裕太 写真/VCG/アフロ
記事提供元:週プレNEWS
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