髙橋 藍(サントリーサンバーズ大阪)「唯一無二の存在になりたい。バレーボールを夢のあるスポーツにしたい」
実力と人気を兼ね備えた注目のスーパーアスリート、バレーボール男子日本代表・髙橋 藍選手
躍進を続けるバレーボール男子日本代表の主力にして、インスタグラムのフォロワー数は驚異の約280万人。パリ五輪での激闘を経て、装いも新たに開幕した国内リーグ「大同生命SVリーグ」の看板選手としてリスタートした髙橋藍(たかはし・らん/23歳)を直撃。自身の現状、今後の目標からプライベートまで、たっぷりと聞いた。
■「イタリアとは違った難しさがある」バレーボールの国内トップカテゴリーだったVリーグが、2027年までの完全プロ化、30年までに世界最高峰のリーグを目指すという目標を掲げ、今年10月に「大同生命SVリーグ」(以下、SVリーグ)として再スタートを切った。
その新リーグの顔として強豪サントリーサンバーズ大阪に加入したのが、バレーボール男子日本代表の髙橋藍(23歳)である。
人気と実力を兼ね備え、日本代表の主力でもある髙橋だが、実は大学在学中だった21年12月からイタリア・セリエAのチームに所属していたため、国内リーグでプレーするのは初めてである。
サントリーサンバーズ大阪は序盤の8試合を終えて5勝3敗(11月11日時点)。昨季までの4シーズン中3度優勝を遂げているチームとしては、スタートダッシュにつまずいたといえなくもない。
――リーグ開幕からここまで、どんな印象を持っている?(取材は4試合終了時点)
髙橋 まだ数試合しか戦っていませんが、イタリアとは違った難しさがあると感じています。イタリアへ行く際には、世界のトップ選手がそろうリーグで、日本にはない高さやパワーを求め、その中でどうスキルを磨いていくかということを考えていました。
その点、日本へ帰ってきて、高さやパワーの部分では少しレベルが下がると感じることもあります。とはいえ、日本人選手のトスやレシーブなどのプレーのクオリティは高く、特にディフェンス面の細かな戦術やシステムのレベルは高い。
実際、イタリアでは決まっていたようなスパイクが拾われることもよくあり、試合中にストレスを抱えることも少なくないです。
――SVリーグは世界最高峰のリーグを目指し、Vリーグから再編成されました。欧州のトップリーグであるイタリアと比較して感じることは?
髙橋 イタリアではコートにイタリア人が3人いればOKで、外国人選手の保有制限はありません。対して日本では、SVリーグになり外国人選手枠は1枠から2枠へ増え、アジア枠もひとつありますが、イタリアに比べると外国人選手は少なく、競争力が高いとはいえない。
ただし、日本に来ている外国人選手のレベルは高く、例えばウチのドミトリー・ムセルスキー選手(ウクライナ)は身長が218㎝あり、おそらくセリエAにいてもトップレベルの選手。
現状では外国人選手枠などの問題もあり、すぐに世界トップにいけるかといえば、そうじゃない。でも、間違いなく前進していると思います。
――会場の雰囲気は? イタリアといえば、サッカーの熱狂的な応援が有名ですが。
髙橋 イタリアはチーム(地域)を応援する感覚が強くて、ファンもチームと一緒に戦うようなイメージ。日本では好きな選手を追いかけたり、純粋に試合を楽しんでいる人が多いと思う。どちらが良い悪いではなく、文化が違うので、会場の雰囲気は違います。
――イタリアではパドヴァで2シーズンを過ごし、昨季はモンツァでセリエAのプレーオフ決勝も経験しました。望めば、今季もイタリアでプレーできたものの、なぜこのタイミングで帰国を決めた?
髙橋 正直、迷いました。当初はイタリアが一番成長できる環境だと思っていましたから。ただ、パリ五輪が終わりひと区切りつき、次は違う環境でと考えたときに、サントリーサンバーズ大阪から声をかけてもらいました。
SVリーグになっても、日本人選手が活躍しないと盛り上がらないじゃないですか。そうしたいくつかの要因が重なり、帰国することにしました。
■「一応、変装することもありますが......」男子バレーの潜在的な人気は以前から高かった。だが、近年は男子代表が世界の強豪が集うネーションズリーグで好結果を出し(23年3位、24年2位)、実力が伴うことで人気が過熱している。
10月11日、東京体育館で行なわれた大阪ブルテオンvsサントリーサンバーズ大阪のSVリーグ開幕戦は、最高値8万円を含むチケットが発売わずか1時間半で完売。
11月3日に有明アリーナで行なわれた東京グレートベアーズvsサントリーサンバーズ大阪戦では、昨季のVリーグの平均観客数2180人を大きく上回る、今季リーグ最多の1万1599人を記録。
会場内の売店には選手のグッズを買い求める女性ファンが列を成した。中でも最も人気なのがインスタグラムのフォロワー数が300万人に迫る勢いの髙橋だといっていい。
――サントリーサンバーズ大阪のファンクラブの会員数が昨季の10倍以上に増えたそうですね。自身の人気をどう感じていますか?
髙橋 素直にうれしいです。どういうキッカケであれ、注目してもらい、少しでもバレーボールに興味を持ってもらえたらうれしいです。
――髙橋選手はバレーボールやスポーツの専門媒体に限らず、さまざまな媒体に出られています。その意図は?
髙橋 いまは日本のバレーボールを変えるチャンスですし、いろんな方にバレーボールの魅力を知ってもらい、バレーボール人気につなげていける大切な時期。どんな形であれ見てもらえれば、競技の魅力やいろんな選手がいることがわかってもらえるじゃないですか。
そのためには自分が前に出ることが必要だと理解していますし、それが日本代表でもある僕らの責任。いまは僕が一番取り上げられているかもしれませんが、それは最初だけですよ。
――週プレの取材を受けてくれるか、不安もありました。
髙橋 最初は僕も『プレイボーイ』と聞いて、グラビアでもやらないといけないかと思いました(笑)。でも、バレーボールをいろんな層の人に見てもらうためには、さまざまなメディアに出ることは必要。すべては無理でも、できる限り対応したいと思っています。
――熱烈な女性ファンが多いですが、日本に戻ってきて生活で苦労することはない?
髙橋 プライベートで出かけても、すぐに気づかれます。日本のファンの方は基本的に控えめで、人だかりができて大混乱みたいなことはあまりないですけど。でも、家族で温泉旅行に行った際にバレて、待ち伏せされて、しばらくつけ回されたことも(苦笑)。
――変装などもする?
髙橋 一応します。マスクして、メガネをかけて、帽子をかぶって。でも、背も高いし、結局はバレます(笑)。
――イタリア時代、取材で「日本に帰ったらまず何をしたい?」と聞かれたときに、「カラオケに行きたい」と答えていました。普通は「○○を食べたい」とか言いそうなものですが、なぜカラオケ?
髙橋 カラオケは気分転換やストレス解消になるので好きですね。プライベート空間で歌えるのもいいし。絶対歌うのはRADWIMPSさんの『前前前世』。あとは、最近は優里さんとかミセスさん(Mrs.GREEN APPLE)をよく歌います。
■「いつかサッカーや野球のようになれば」今夏のパリ五輪で男子バレーは52年ぶりのメダル獲得はもちろん、金メダルへの期待もあった。だが、フタを開けてみると4戦して1勝、7位に終わった。
準々決勝のイタリア戦は日本時間の20時スタートとテレビ中継の時間帯も良く、平均世帯視聴率は23.1%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)と全競技中で最高を記録。しかし、日本は2セットを先取し、第3セットも24-21としてマッチポイントを迎えたものの、そこから大逆転負けを喫した。
――パリ五輪の記憶はどのように残っていますか。
髙橋 悔しさはいまもあります。無観客だった3年前の東京五輪に比べ、パリは大観衆の中で行なわれ、独特の雰囲気があったのは確か。緊張感もあったし、最後は"あと1点"を取る難しさを痛感しました。
ただ、それが五輪だということもやりながら感じていましたし、その悔しさを晴らすには次の五輪で結果を出すしかない。僕は最後の1点が取れずに負けたと思っているし、その1点を取るために成長したいと思っています。
――悔やまれるのは、やはり第3セット。見ている誰もが「勝った」と思いました。
髙橋 僕自身ももちろん、チーム全員がそう思ったんじゃないですか。でも、そうした少しの気の緩みが逆転負けにつながってしまった。
第3セットを落としても、まだ第4、第5セットはありましたが、相手は強豪イタリア。その時点で気持ち的には追い込まれて、再びエネルギーをフルにして戦うのはキツかったというか、難しかったです。
――「(バレーボール選手として)唯一無二の選手になりたい」。髙橋選手は、さまざまな媒体でそんな発言もしています。どんな経緯でそうした考えを持つようになった?
髙橋 何かキッカケがあったわけではなく、自分の性格なのかなと思います。人と同じことをしたくないというか。もちろん、これまでも人が敷いたレールに乗ることはありました。
例えば、イタリア行きは(日本代表の先輩である)石川祐希選手が成功している姿を見て、自分も行こうと思った部分はありますし。五輪でメダルを取るという目標も、チームメイトと共有しています。
ただ、最終的にどんな選手になりたいかと言われたら、いままでにいなかったようなバレーボール選手になりたい。バレーボールを夢のあるスポーツにしたいという思いもありますし、それはいままで誰もやれていなかったことなので、唯一無二と言わせてもらっています。
髙橋は小学2年でバレーボールを始めたが、その歩みは日本男子バレーの低迷期と重なる。08年北京五輪は出場するも最下位、12年ロンドン、16年リオと2大会連続で五輪出場を逃していた。
――バレーがマイナー競技として扱われ、悔しい思いをしたこともあった?
髙橋 野球やサッカー、バスケと同じようにバレーもずっと面白いと思っていましたけど、例えば、野球やサッカーの選手が何億円ってスゴい契約をしても、バレーには同じような世界はなかったですよね。
それはすごく悔しかったし、いつかバレーもサッカーや野球のようになればという思いはありました。そのためには、男子バレーが強くなる必要がある。ただ、まさか自分が日本代表になって、そこに貢献できるとは思っていなかったですけどね。
――プレー以外の面、ルックスなどにも注目が集まってしまうことに戸惑いは?
髙橋 僕はまったく気にしてないです。僕は、ただバレーボールを楽しく、トップレベルを目指して必死にやっているだけなので。そこはブレないし、どういう見方をされてもバレーボールに関心を持ってくれるキッカケになればいい。だって自分ではどうしようもないですからね(笑)。
――最後にSVリーグで目指すことを聞かせてください。
髙橋「もちろん、勝つことですし、自分自身が強くなること。それがSVリーグの盛り上がりにもつながると思っています。盛り上がれば、それが海外にも伝染し、日本に来たいというトップ選手が増えて、リーグも盛り上がる。そんな流れに少しでも貢献できたらと思っています。
●髙橋 藍(たかはし・らん)
2001年生まれ、京都府出身。20年、東山高校3年時に同校初の「春高バレー」優勝を果たし、日本代表に初選出。日本体育大学在学中の21年に東京五輪出場。同年12月からイタリア・セリエAのパドヴァ、昨季はモンツァに所属。今年7月にサントリーサンバーズ大阪に移籍。ポジションはアウトサイドヒッター。188㎝、83㎏
取材・文/栗原正夫 撮影/ヤナガワゴーッ!
記事提供元:週プレNEWS
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