小さな町に年間350万人 !?“未来型”地方リゾート「VISON」の戦略:読んで分かる「カンブリア宮殿」
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小さな町に年間350万人~オンリーワンの味わい
三重・多気町。山あいにある人口1万3000人の町に奇跡が起きていた。
最近できたインターチェンジ「多気ヴィソン VISON」で高速道路を降りると、姿を現したのは緑に囲まれた巨大な施設。敷地面積は119万平米、東京ドーム24個分だという。
【動画】小さな町に年間350万人 !?“未来型”地方リゾート「VISON」の戦略
そこに関東地方からも含めて客が次々と押し寄せてくる。
2021年にオープンしたばかりの“美しい村”「VISON」。巨大な三角屋根がそのシンボルだ。
入るとまずは食べ歩きが楽しい路地「マルシェ ヴィソン」がある。地元でとれた「ゆで牡蠣(マリニエールソース)」(3個790円)は、ホカホカの茹でたてを魚介のうまみを閉じ込めた白ワインのソースでいただく。
橋を渡った「和ヴィソン」のエリアに建ち並ぶのは、味噌やお酢など日本の伝統食の専門店。三重県の名産「伊勢醤油本舗」は、極太の伊勢うどんとコクのある醤油を合わせた「元祖伊勢焼きうどん」(550円)が大人気だ。
「VISON」にはそんな地元を堪能できる店が実に70店舗以上。過疎の町に年間350万人を呼び寄せている。ヒットの裏には、「VISON」をつくり、運営するアクアイグニス代表・立花哲也(50)のさまざまな戦略があった。
〇絶品の秘密1~究極!オンリーワンの味わい
海女の中川早苗さんが、鳥羽の海でとってきたばかりのさざえやあわびなど海の幸を振舞う「海女小屋 なか川」。一方、「第十八甚昇丸」は三重県で唯一、底引き網漁船の漁師が自ら営んでいる店だ。
「個人でやっている漁師さんや肉の生産者さんにお願いに行き、『お店をやってください』と。本当の直営店です」(立花)
「VISON」で味わえるグルメは、他ではあり得ないオンリーワンのものばかりだ。「林商店」の「伊勢たくあん」もその一つ。三重県の伝統野菜、御園大根で作る「伊勢たくあん」だが、今や幻になりつつあるという。
「伊勢たくあんを漬ける人がいらっしゃらない。伊勢で1、2軒です」(立花)
そのうちの1軒が伊勢市の老舗「林商店」。代表の林和代さんは、立花から何度も口説かれて「VISON」への出店を決めたという。
「熱意に負けました。この方だったらついていって大丈夫だなと。私が死ぬまでやろうと思った」(林さん)
VISON盛況の秘密~3食絶品の滞在型&新サービス実験場
〇絶品の秘密2~滞在型「美食リゾート」
1日で回り切れない「VISON」は宿泊施設も充実している。
山の斜面に建てられたのは、露天のジャグジー風呂付きの部屋などがある家族連れに人気の「ホテル ヴィソン」。最近オープンしたのは少しグレードの高い宿「ハシェンダ ヴィソン」。落ち着いた空間はイギリス発の家具やインテリアのセレクトショップ「ザ・コンランショップ」がデザインを監修。窓の外には緑豊かな田園風景が広がっている。
そんな滞在型リゾートの最大の特徴は 「3食美食」だ。
朝食は予約が取れない和食店として有名な東京・恵比寿「賛否両論」の店主・笠原将弘さんが監修している「笠庵 賛否両論」で。
こだわりの食材で丁寧に作られた色とりどりの味わいが楽しめる「笠庵特製 出汁茶漬け御膳」。中でも人気は鯛茶漬けだ。
昼におすすめの美食スポットは「アット シェフ ミュージアム」。フードコート形式で全国の有名シェフの味を楽しめる。
東京・広尾の人気イタリアン「オステリア ルッカ」桝谷周一郎シェフの「小海老とトマトのブルスケッタ」は地元のトマトをふんだんに使った逸品だ。フランスでミシュランの星を持つ「レストラン パージュ」手島竜司シェフの、ミルクの泡をまとったかわいらしい「松阪牛入りハンバーグ」も食べられる。メニューは全部で17種類もある(3品2500円)。
そして夜、「竜吟虎嘯 薪場」で楽しむのは薪で焼く松坂牛。「特製ランク松阪牛 薪焼リブロースステーキ」(時価)は驚くほど柔らかい、うまみが凝縮された味わいだ。
日本では珍しい三食とも美食を味わえる滞在型リゾート。立花が作り出したそのコンセプトについて、「VISON」開業当初から関わる「賛否両論」の笠原さんは、「立花さんから『こういうものをつくってこうしたい』という熱い思いを聞いて、『VISON』という場所から日本中に和食の良さを発信できたら面白いし、料理業界の刺激にもなると思います」と言う。
〇絶品の秘密3 ~企業が集結!未来型リゾートを作れ
「VISON」の滞在客に大人気の施設「本草湯」。温泉ではないが、そのお湯は、客を癒してくれる効果がある薬草が使われている薬草湯なのだ。5日ごとに薬草のブレンドが変わり、実に72種類もある。敷地内の「本草研究所」でその調合を行っている。「『ロート製薬』と三重大学が共同で研究しています。生薬や薬草をベースとした健康学です」(「ロート製薬」瀬木英俊さん)。
地元に工場を持つロート製薬は生薬のビジネスに力を入れていることもあり、「VISON」を研究拠点の一つにしている。
「お客様の声を直接聞くことができる。ここから新しい事業や製品のアイデアが出たらいいなと思っています」(瀬木さん)
一方、敷地内の移動の足となっている自動運転バスは、ソフトバンクの子会社が実証実験として走らせているもの。
「スタッフなしでの運行に挑戦する。『VISONで使われているものをうちの町にも入れたい』となれば、絶対普及すると思います」(「ボードリー」佐治友基社長)
35万坪の全てが私有地の「VISON」ではさまざまな未来のサービスを試すことができる。
「(公的には)特区にならないとチャレンジできず、規制緩和もないが、私有地なので、ここで何かしようと約20社が集まってくれています」(立花)
例えば「ソニー」の新しいサービス、音響体験アプリ「ロケトーン」の「音で巡る、VISON」では、散策の楽しさを演出する音楽を聴きながら、施設内の情報も得られる。ここでのアンケート結果を品質向上に生かすという。
「お客さんがたくさんいる環境に入り込んで生の声が聞けるのは、実証実験する場としてありがたいです」(「ソニー」イノベーション推進室・古賀康之さん)
今までにない斬新なリゾートとして、「VISON」には岸田総理(2024年7月当時)を始め、膨大な数の視察が押し寄せている。
建設会社からリゾート開発へ~350万人集客の原点
立花は、「VISON」を作る以前、建設会社を経営していたという異色の経歴の持ち主だ。三重県の高校を卒業後、土木現場で働き、20歳で独立を果たした。若き立花が、年商15億円まで育てた会社は現在、後輩たちが経営を引き継いでいる。その「takac」代表・井上陵一さんによると、20代の立花は、好奇心の塊だったという。
「いろいろなことにチャレンジする方でした。新しいことにチャレンジするのが好き。情熱的なところは昔からありました」(井上さん)
三重・四日市市から車で30分ほどの距離にある菰野町に、建物のデザインが印象的なアクアイグニスがある。
年間100万人が訪れる、立花が手がけた施設だ。
源泉100%掛け流しの温泉宿として人気だが、ここでも最大の売りは美食の数々。スイーツ店「コンフィチュール アッシュ」は海外の大会で優勝経験のある籏雅典パティシエが手がけている。
また敷地内では温泉の熱を利用しイチゴを栽培。さまざまなおいしさで客を魅了している。
立花が手がける以前、ここは片岡温泉という名の寂しい温泉宿だった。
「引き継いだ時はお客さんが少なくなっていて、経営的には厳しい状態でした」(立花)
後継者がいなくなった片岡温泉の再建を立花が引き受けたのは30歳の時のこと。当時、立花に温泉宿へ客を呼びこむアイデアはなかった。そんな中、気になったのが宿で出していた食事。並んでいるのは、どこにでもありそうな魅力のない料理だった。
「インスタントや冷凍の料理しか出しておらず、お客さん目線で考えると、もっと山なら山らしい地域食材の料理が出たらいいのに、という発想でした」(立花)
立花はこれを改革のヒントにする。
「おいしいものが食べられる場所にこだわり抜けば足を運んでもらえるのでは」と、新たに建設した建物にこだわりの美食を取り揃え、アクアイグニスをヒットさせたのだ。
当時、そんなアクアイグニスの成功を聞きつけた人物が、同じ三重県の多気町の久保行央町長だった。
「賑わいのある観光・商業施設を頭の中に描いていたので、まさにアクアイグニスと。立花社長のおかげで、アクアイグニスから『VISON』というかたちになりました」(久保町長)
久保町長が立花を口説き、「VISON」建設のきっかけを作ったのだ。
立花は多気町にあった広大な私有地を購入。世界的に有名な美食の街、スペイン・サンセバスチャン市を「VISON」の目標に掲げた。
「やはり世界で実績のある街に学びたかった」(立花)
立花はスペインに通い詰め、2017年、多気町とサンセバスチャン市で友好提携を結ぶことに成功。食をキーワードにした街づくりを学ぶ一方、サンセバスチャンにある店「イスルン」を「VISON」に誘致。両国の人材交流も行い、美食リゾートを形にしていった。
今でも毎年のようにサンセバスチャン市とイベントを実施。世界的な美食リゾートを目指し、「VISON」の魅力を磨いている。
小さな町に700人の雇用~全国にも美食宿が続々!
「VISON」 の中には「あずきバー」で知られる「井村屋」も甘味処「菓子舗 井村屋」を出している。人気は、いちごや抹茶でアレンジした「贅沢あずきバー」だ。
三重県に本社を構える企業として、立花が井村屋に出店を依頼した。井村屋は伊賀市の酒蔵を引き継ぎ、「VISON」内に「福和蔵」として移転させるなど、盛り上げようとする立花の後押しをしている。
「すごい美食の街です。この村づくりに協賛できたらいいなと思っています」(「井村屋グループ」取締役会議長・浅田剛夫さん)
「VISON」 は米作りにも乗り出し、さまざまな施設に提供。地元の若者の働く場を増やしている。いまや「VISON」 全体で生み出した雇用は700人を超えた。
さらに今、立花の手掛ける施設は全国に拡大している
福井・永平寺町の工事現場に立花がやって来た。何棟もの宿泊施設が建設中。宿泊施設付きのレストラン、オーベルジュ「歓宿縁 ESHIKOTO」(11月26日オープン)だ。
「黒龍酒造とコラボレーションした、酒蔵と地域の食と宿泊施設のオーベルジュ」(立花)
こだわりは料理だけはない。窓の建具について「建具は大きい場合、普通はアルミを使うのですが、地元の木を使った木建具です」(立花)と、建築部材まで地元産にこだわっているのだ。
地域おこしに熱心な地元の酒蔵、黒龍酒造から依頼を受けたものだという。
「すごくバイタリティーのある社長さんで私も気に入りました。永平寺という場所に世界中の人に集まっていただきたいと思います」(「黒龍酒蔵」水野直人社長)
三重県の田舎町で「VISON」 を成功させた立花にはいま、さまざまな地方から依頼が舞い込んでいる。すでに仙台、淡路島など全国4カ所に、温泉付きリゾートのアクアイグニスを建設。地域の食を発信する拠点として人気を集めている。
「やはり地域と一緒に成長したいし、『できて良かった』と言われないといけない。例えば生産者の人が少しでも今までよりたくさん稼げることが大事。そのプラットフォームになるといいなと思っています」(立花)
※価格は放送時の金額です。
~村上龍の編集後記~
地域は食とデザインで変わる、というのが立花氏の考えだ。建物のほとんどが木造で、テナントにナショナルチェーンが1軒もない。コンビニもないし、自販機も置かない。代わりに、普通なら店を出さないようなブランドが並んでいる。収録前の打ち合わせで「三重県」の地味さが話題になった。「津」を知らないスタッフもいた。三重は、地味だが、観光スポットは伊勢神宮をはじめとしてたくさんある。海女小屋があると知って驚いたスタッフがいた。海女小屋はVISONの中にもある。「食」と「デザイン」で、確かに地域は変わる。
<出演者略歴>
立花哲也(たちばな・てつや)1974年、三重県生まれ。高校卒業後、地元の建設会社で働き、20歳で独立。2003年、片岡温泉を買収し運営を開始。2012年、アクアイグニスをオープン。2021年、VISONをオープン。
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記事提供元:テレ東プラス
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