【堂本光一 コンマ一秒の恍惚Web】角田選手は、レッドブル昇格のチャンスをつかんでほしい!
「角田選手にはチームメイトに勝って、VCARBがコンストラクターズ・ランキング6位の座を取り戻すような走りを期待しています」と話す堂本光一
F1は短いインターバルを終え、いよいよシーズン最終章に入った。第19戦のアメリカGPを皮切りにメキシコ、ブラジルと3連戦が行なわれるが、その緒戦はフェラーリのシャルル・ルクレールが制した。2位にはカルロス・サインツが入り、フェラーリが今季2度目のワンツー・フィニッシュを達成。
フェラーリはコンストラクターズ選手権で2位のレッドブルに8点差まで肉薄した。首位のマクラーレンにも48点差に迫っており、フェラーリがタイトル戦線に名乗りを上げてきた。今週末のメキシコGP(決勝10月27日)はどんな展開が待っているのか!?
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■チャンピオンを争いふたりのバトルに感嘆!アメリカGPはすごいレースになりました。チャンピオンを争うマックス・フェルスタッペン選手とランド・ノリス選手がレース後半、3位のポジションを巡って超接近戦のバトルを繰り広げました。
残り5周のところでノリス選手がフェルスタッペン選手をターン12でオーバーテイクしたのですが、その際にコース外を走行してアドバンテージを得たとして5秒加算のタイムペナルティが科されました。そのためノリス選手は4位に降格し、フェルスタッペン選手が3位表彰台を獲得します。
このスチュワード(審査委員会)の裁定に関してはちょっと思うところがあるというか、コースレイアウトに問題があると感じました。ノリス選手が追い抜きを仕掛けたコーナーの両脇はアスファルト舗装のランオフエリアが設けられています。そうすると、攻める側も守る側もタイムロスがほとんどないのでどうしてもコース外のスペースを走行してしまいます。
もし、それが砂利や芝生などを敷いたグラベルだったら、コース外を走行すれば大きくタイムロスしますし、場合によってはマシンにダメージを受けリタイアせざるを得ないかもしれない。そういうリスクがあれば、もっとスリリングなレースになるし、コース外を走行することもないと思うのですが......。
いずれにせよスチュワードの判断でレースが決まってしまうのはファンとしてはスッキリしません。それでもフェルスタッペン選手とノリス選手のバトルは本当に素晴らしかったし、手に汗を握りました。特にフェルスタッペン選手の巧みなディフェンスは見事でしたね。さすがチャンピオンだと感じました。
ノリス選手は結局、アメリカGPではスプリントレース、決勝ともにフェルスタッペン選手の後塵を拝し、ドライバーズ選手権でのポイント差が52から57と広がってしまいました。残りのレースは5戦、逆転でチャンピオンを獲得するのは難しい状況になりましたが、第21戦のブラジルと第23戦のカタールではスプリントレースがあります。
まだまだチャンスはありますので、ノリス選手には残りの全レースで優勝を狙いに行って、最終戦のアブダビまで楽しませてほしいです。
■天候を味方につけたフェラーリアメリカGPで見事なワンツー・フィニッシュを決めたフェラーリ。マシンに関しては特に大きなアップデートがなかったにもかかわらず、ルクレール選手とサインツ選手がともに決勝では安定した速さを披露していました。アメリカでは天候がフェラーリには味方しましたね。
4番グリッドからスタートを決めて1コーナーでトップに立つと、そのまま圧勝。今季3勝目を飾ったフェラーリのルクレール。「楽観的な目標かもしれないが、コンストラクターズ・タイトル獲得を目指す」と語る
決勝日の路面温度は45度を超え、タイヤに非常に厳しい状況になりました。実際、多くのチーム、ドライバーがタイヤの摩耗に苦しんでいましたが、タイヤに優しいマシン特性を持つフェラーリにとっては高い路面温度が有利に働いたと思います。
2台そろって安定感があるのは、なんだかフェラーリらしくない感じもしますけど(笑)、ワンツー・フィニッシュを決めたことで、コンストラクターズ選手権で2位のレッドブルに8点差まで迫りました。48点差があるマクラーレンに追いつくのはちょっと難しいかもしれませんが、最後まで頑張ってほしい。
新しい空力パッケージを持ち込んできたレッドブルは、決勝ではタイヤの摩耗に苦しんでいましたが、土曜日のスプリントレースでは久々の優勝を飾っています。中盤戦以降はマシンのアップデートがうまくいかずに苦しんでいましたが、ようやく速さを取り戻してきているようにも見えます。ただ7位に終わったセルジオ・ペレス選手はマシンバランスに不満を抱えており、まだ扱いづらいところは残っているのかもしれません。
マクラーレンはアメリカGPに関しては、マシンの最適化がうまくできておらず、本来の速さを発揮できていなかったように感じましたが、これほど勢力図がコロコロ変わるシーズンは珍しいですね。
開幕からライバルを圧倒していたレッドブルのパフォーマンスが急降下したこともありますが、フェラーリも夏休み前にはレッドブル、マクラーレン、メルセデスと形成するトップグループから脱落しそうな雰囲気でした。でも夏休みが明けると復調し、好調をキープし続けています。
今シーズンはサーキットごとに強いチームが入れ替わり、本当に面白い展開になっています。残りのレースでも、さらに混沌とした戦いが見られるかもしれません。
■好対照の結果に終わったVCARB上位勢以上に熾烈な戦いを続けているのが、ビザ・キャッシュアップRB(VCARB)、ハース、ウイリアムズなどによる中団グループです。アメリカGPでの角田裕毅(つのだ・ゆうき)選手はタイヤ戦略がうまく機能せず、苦しいレースになってしまいました。
柔らかめのミディアムタイヤでスタートした角田選手は、序盤は中団グループのトップを走行していましたが、硬めのハードタイヤに交換したあとのペースがよくなかった。それは角田選手だけではありません。上位からスタートした多くのドライバーがミディアムからハードというタイヤ戦略を採りましたが、多くのドライバーがレース後半に使用したハードタイヤに苦労していました。
逆にハードタイヤでスタートしたドライバーが大きく順位を上げることになりました。今回からVCARBのステアリングを握ることになったリアム・ローソン選手がそのひとりです。後方の19番手からスタートしたローソン選手はハードタイヤで30周以上も周回しましたが、ペースがほとんど落ちなかった。後半にミディアムに交換した後もペースを維持して9位でフィニッシュ。約1年振りの復帰戦で見事にポイントを獲得しました。
ローソン選手と同じ作戦を採ったメルセデスのジョージ・ラッセル選手はピットスタートから6位、ウイリアムズのフランコ・コラピント選手も後方の15番手からスタートして10位にそれぞれ入賞していたことからも、アメリカでは硬めのハードでスタートしたローソン選手の作戦のほうが"当たり"だったと思います。
■ハースで日本人ドライバーがいつか走ってほしい角田選手は苦しい展開だったにもかかわらず、レース終盤までアルピーヌのピエール・ガスリー選手とトップ10争いを繰り広げていたのですが、痛恨のスピンで順位を大きく落とします。ポイントを取れなかっただけでなく、対チームメイトの戦いにも敗れたのは痛かった。
さらにコンストラクターズ・ランキングで6位の座を争うハースにも逆転を許してしまいました。アメリカGPの週末、地元のハースは好調で、スプリントレースでダブル入賞を飾り、決勝でもニコ・ヒュルケンベルグ選手が8位でフィニッシュ。ハースは合計7点を稼ぎ、VCARBを2点差で逆転します。
これからの角田選手にはチームメイトに勝って、VCARBがコンストラクターズ・ランキング6位の座を取り戻すような走りを期待しています。それができればレッドブル昇格につながっていくと思います。とにかく残り5戦、角田選手には結果を残してもらって、レッドブルのシートをつかんでほしい。
アメリカGP前にトヨタとの業務提携を発表したハースは、小松礼雄(こまつ・あやお)さんが代表に就任してから非常に調子がいい。それ自体はすごくうれしいのですが、今、ハースの直接的なライバルになっているのが角田選手の所属するVCARBです。角田選手を応援している身としては本当に困ったなあ......と感じています。
ハースはこれからトヨタとパートナーシップを組み、ドライバー育成や車両開発の分野などで協力していくといいます。何年後になるのかわかりませんが、ハースで日本人の若いドライバーが乗ってくれたらいいなと、そんな勝手な夢を見ています。
☆取材こぼれ話☆F1を主催する国際自動車連盟のベン・スレイエム会長は、F1ドライバーたちにレース中の無線で"Fワード"などの汚い言葉を使わないように要請したことに対しドライバーが反発し、大きな議論を呼んでいる。
「英語での表現についてはよくわかりませんが、スポーツだけでなく、エンターテイメントの世界でも使ってはいけない言葉の規制が厳しくなっています。でもレース中はアドレナリンが出ているドライバーに対して、無線でFワードと使うなというのは難しいですよね。例えば、僕たちの舞台でも袖で早替えをしている際は時間との戦いですので、スムーズに行かなかったり、水が飲めなかったりしたら、思わずちょっとした汚い言葉が出ます。それは表に出ないですが、現代のF1はレースの裏側を表に見せるようにして、それがエンターテインメントのひとつになっています。時々、ピー音だらけの無線がありますが、スポーツに関しては汚い言葉の部分は放送しなければいいと思います」
スタイリング/渡邊奈央(Creative GUILD) 衣装協力/Karaln ヘア&メイク/大平真輝)
構成/川原田 剛 撮影/樋口 涼(対談) 写真/桜井淳雄 Lrwen Song
記事提供元:週プレNEWS
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