観音菩薩が解き放たれた諸行無常と並ぶ仏教の根本命題である一切皆苦とは!?【般若心経】
「度一切苦厄」という部分は、現存するどのサンスクリット原典にもなく、玄奘より後代の漢訳にもありません。玄奘の前に般若心経を漢訳した鳩摩羅什(くまらじゅう)と玄奘の訳だけに存在します。
おそらく漢訳の際、最後のほうにある「能除一切苦(よく一切の苦を除く)」を強調するため、ここに挿入したのでしょう。その狙いどおり、重大なメッセージが伝わる一文です。
「苦=思うままにならないこと」からの解放「諸行無常(しょぎょうむじょう=すべては流動変化する)」と並ぶ仏教の根本命題が「一切皆苦(いっさいかいく)」です。ここでいう苦は「楽しい」の対義語の「苦しい」ではなく、「思いのままにならない」という意味です。
「生まれること」「老いること」「病むこと」「死ぬこと」(生老病死=しょうろうびょうし)という四つの根本苦を「四苦」といいます。これに、「愛する者と別れる苦(愛別離苦=あいべつりく)」「憎む者と会う苦(怨憎会苦=おんぞうえく)「求めて得られない苦(求不得苦=ぐふとくく)」「人間は五つの要素(五蘊)が仮に和合した存在で、本質的に思い通りにならないという苦(五取蘊苦=ごしゅうんく)」を加えて八苦といいます。
観自在菩薩はこれら一切の苦を「度したもうた」というのです。「度」は、ここでは「解き放たれる」という意味です。
「どんなヴィジョンを得たら、そんなことが可能になるのか」
「そのためにはどうすればいいのか」
誰しもそう思うでしょう。大本ではその質問を、代表して舎利子がするという流れになっています。
そして、次から観自在菩薩の答えが語られるのです。
【出典】『眠れなくなるほど面白い 図解 般若心経』
著:宮坂宥洪 日本文芸社刊
執筆者プロフィール
真言宗の僧、仏教学者。1950年、長野県岡谷市生まれ。高野山大学仏教学科卒。名古屋大学大学院在学中、文部省国際交流制度でインド・プネー大学に留学し、哲学博士の学位取得。岡谷市の真言宗智山派照光寺住職。
記事提供元:ラブすぽ
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。