横山秀夫原作のドラマで味わう燻し銀の演技とミステリー
『臨場』『クライマーズハイ』『64(ロクヨン)』など、数々の推理小説を世に送り出してきた作家・横山秀夫。ドラマガイドの竹本さんによると、持続的な面白さと物語をじっくり見せようとする姿が魅力なんだとか。イチオシ作品を教えていただきました。
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もしかすると小説家・横山秀夫が描く作品は、ドラマとしては地味ではないかと感じるかもしれません。しかし、刑事たちがじっくりと粘り強く事件を追い、やがて真相にたどり着く作品には、瞬発性ではなく持久性を堪能するおもしろさがあります。誰かを引き立たせるための作品ではなく、物語そのものをじっくり見せようとするのが横山秀夫作品のすばらしさです。
『クライマーズ・ハイ』『64』『臨場』『陰の季節』――どれも粘り強く闘う人間の姿から目が離せません。
「横山秀夫」原作こそ光る、燻し銀の演技に注目
横山秀夫(よこやま ひでお)氏は東京生まれの小説家で、ミステリーやサスペンスといった推理小説の作家であり、漫画・ドラマの原作者としても知られています。ノベルス・コンテスト「このミステリーがすごい!」に、『臨場』(2005年9位)、『64』(2013年1位)、『クライマーズ・ハイ』(2004年7位)などが選出。数々の作品が映画・ドラマにと映像化されています。
また、各局の2時間ドラマ枠で「横山秀夫サスペンス」と呼ばれるシリーズが人気を博し、TBS系では、月曜ドラマスペシャル「陰の季節シリーズ」(主演:上川隆也《二渡警視》)、月曜ミステリー劇場「第三の時効シリーズ」「三ツ鐘署シリーズ」、テレビ東京系では「水曜ミステリー9」など、サスペンスドラマ枠としても愛され続けています。
ドラマガイドである私としては、横山秀夫原作だからこそ燻し銀の演技が光る映画・ドラマ作品になったと感じる場面があります。今回は、横山秀夫原作の映像化作品を紹介します。
すべてのひとの人生に心を寄せる主人公に心が泣く『臨場』
2009年と2010年に連続ドラマが放送されたあと、2012年に劇場版が公開された人気シリーズ『臨場』は、主人公の検視官・倉石義男(内野聖)が検視を通して被害者の人生を根こそぎひろうことで、事件の真相を解明していく物語です。横山秀夫が描く組織内でのお互いの距離感の妙を、俳優陣たちが静かに演じているのが魅力的でした。
協調性という名の下、妥協することを拒否し仕事に没頭する倉石の痛みと深みが、事件の背景にある人間ドラマを鮮明にしています。時間が許す限り、映画も含め全編見てほしい作品です。
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テレビ朝日『臨場』
原作:横山秀夫『臨場』
脚本:坂田義和ほか
監督:橋本一ほか
プロデューサー:佐藤凉一、目黒正之、横塚孝弘
横山秀夫が描く組織で生きる男たちが味わい深い『陰の季節』
松本清張賞を受賞した『陰の季節』は、2000年には上川達也主演、2016年には仲村トオル主演で制作されています。警務課調査官である主人公の二渡真二が、警察組織におけるそれぞれの立場を奔走しながら調整を試み、問題を解決。それぞれの意地と競り合い探り合いを見せる人間模様は群像劇の様相ですが、俳優陣の燻し銀的演技が光り、組織の悲喜こもごもを経験する誰もが唸るおもしろさもあります。もちろんミステリーとしても秀逸。仲村トオル版は映画『64』につながり、粋な演出に胸が高鳴ります。
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TBS『陰の季節』
出演:仲村トオル、和久井映見、長谷川朝晴、北見敏之、矢島健一ほか
原作:横山秀夫「陰の季節」「黒い線」(文春文庫刊『陰の季節』所収)/「刑事の勲章」(オール讀物2002年2月号所収)「動機」(文春文庫刊『動機』所収)
脚本:窪田信介
監督:榎戸耕史
企画:越智貞夫
プロデューサー:伊藤正昭
アソシエイトプロデューサー:木村理津
主題歌:小田和正「風は止んだ」(アリオラジャパン)
胸に刻みたいあの夏を知る『クライマーズ・ハイ』
地方の新聞記者だった横山秀夫が、日本航空の墜落事故をテーマに書いた渾身の一作『クライマーズ・ハイ』。2005年のNHKでのドラマ化に続き、2008年には映画が公開されました。主人公は、遊軍記者を貫く悠木和雅(映画版では堤真一)。ジリジリした夏の匂いや土埃が画面の中で沸き立ちます。壮絶な現場を前に心が落ち着くことはなく、報道として何もかもが山積みなのに、何をするべきか途方に暮れる苦悩と混乱、そこから奮い立つ人間のありようを私たちは知ることができます。
堤真一、堺雅人、滝藤賢一らのすさまじい演技が、記憶に刻むべきあの夏を鮮明に感じられます。佐藤浩市主演のテレビドラマも秀逸、作品の熱量もぜひ心に刻んでください。
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東映『クライマーズ・ハイ』
出演:堤真一、堺雅人、尾野真千子、高嶋政宏、山崎努ほか
原作:横山秀夫『クライマーズ・ハイ』
脚本:加藤正人、成島出、原田眞人
監督:原田眞人
音楽:村松崇継
主題歌:元ちとせ「蛍星」(イメージソング)
プロデュース:久保理茎
二転三転のスピード、息をのむ心理戦、1秒も見落とせない『ルパンの消息』
横山秀夫のデビュー作『ルパンの消息』は上川達也主演でWOWOWが制作、時効まで24時間という事件を追う緊張感と事件が二転三転していくスピードを一気に見せる1時間58分があまりに濃密で、手に汗握りっぱなしです。女性教師の転落、タレこみ、三億円事件、タイムリミットまでのめまぐるしさのなか、人間ドラマをじっくり見せる巧さは格別。取調室のシーンでまったく身動きできなかったことを覚えています。上川達也はもちろん、遠藤憲一、津田寛治、長塚京三、塩見三省らの円熟した演技も作品をひきしめています。
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WOWOW『ルパンの消息』
出演:上川隆也、佐藤めぐみ、岡田義徳ほか
原作:横山秀夫
監督:水谷俊之
脚本:田辺満、水谷俊之
プロデューサー:青木泰憲
オールスターキャストによるジリジリした空気は圧巻『64(ロクヨン)』
わずか7日間という昭和64年を舞台に、警察の広報官を主人公に未解決事件を描いた『64』は、NHKでもドラマ化された名作。原作とは違う映画版の結末に賛否が入り混じりましたが、警察の広報を描いた希少な作品であることと、ベテラン勢の重厚な演技とともに、社会派の作品において、綾野剛、窪塚正孝、永山瑛太、坂口健太郎ら若き俳優陣たちの迫真の演技が光る力作であることはたしかです。時効間近の誘拐事件、組織の不毛な辻褄合わせ、伏線を散りばめながらミステリーと組織を取りこぼすことなく描いた横山秀夫に感服です。
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東宝『64-ロクヨン- 前編』『64-ロクヨン- 後編』
出演:佐藤浩市、綾野剛、榮倉奈々、夏川結衣、緒形直人、窪田正孝ほか
原作:横山秀夫『64(ロクヨン)』
監督:瀬々敬久
脚本:久松真一、瀬々敬久
脚本協力:井土紀州
音楽:村松崇継
主題歌:小田和正「風は止んだ」(Little Tokyo / アリオラジャパン)
エグゼクティブプロデューサー:平野隆
企画:越智貞夫
プロデューサー:木村理津、大原真人、渡邉敬介、浅野博貴、伊藤正昭
共同プロデューサー:藤井和史、山田昌伸
ラインプロデューサー:武石宏登
美しい謎が静かに幕を開ける『ノースライト』
2019年に発表された『ノースライト』は、『64』から6年を経ての待望の新作。西島秀俊主演でドラマ化、12月12日と19日にNHKで放送されます。今までとは違う美しい大人のミステリーは「家族」がテーマ。建築士の主人公がどこに向かっていくのか、静かに静かに見守ってください。DATA
新潮社┃ノースライト
著者:横山秀夫
発売日:2019年2月22日
ページ数:417ページ
粘り強く闘う人間の姿に目を惹かれる横山秀夫作品。お気に入りの作品を見つけて、年末は登場人物たちが向かう世界に浸ってみませんか?
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