大根仁監督作品ドラマの魅力。色あせない人間らしさがあふれてる!
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『ハロー張りネズミ』『まほろ駅前番外地』など、数々の人気作品の脚本を手掛ける大根仁監督。ドラマガイドの竹本さんは、「人間臭くても嫌味がなく表情豊か、ノスタルジックな描写も色あせを感じさせない不思議な魅力にあふれている」と絶賛。イチオシの作品群のご紹介を通じて、大根仁監督の魅力を教えていただきました。
イチオシスト:竹本 道子
『太陽にほえろ!』のスクラップブックをつくり友人と盛り上がったこども時代。夕方の再放送が見たくて一目散に帰宅した青春時代。撮影現場を垣間見た平成時代。尽きないドラマへの好奇心は令和もつづく。All About ドラマ ガイドを務める。
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大通りじゃなくて路地裏、フランス料理じゃなくて街の中華料理、真昼間じゃなくて夜明け前、勝手な思い込みかもしれませんが大根仁監督の作品には特別な匂いがプンプンします。
人間臭くても嫌味がなく表情豊か、ノスタルジックな描写も色あせを感じさせない不思議な魅力にあふれています。
すべてのエピソードが心にしみる大人の物語『ハロー張りネズミ』
弘兼憲史原作の漫画『ハロー張りネズミ』が実写化されたのは2017年。この作品で第94回ザテレビジョン ドラマアカデミー賞を受賞しています。あかつか探偵事務所を舞台に、世知辛い現代を生きるちょっと不器用で個性豊かな人物たちを骨太に掘り下げている人間ドラマですが、各エピソードへのアプローチの毛色が違い、視聴者にとっては既存の連続ドラマとは違う楽しみ方ができます。この手法は、エピソード毎に異なる監督が担当し、異色のテイストを楽しめた『私立探偵 濱マイク』を彷彿とさせます。
大根作品はマニアックな手法ではなく、ホラーテイストあり、探偵の木暮久作(森田剛)と料理人の栗田(國村隼)の濃厚な2人芝居による映画のような世界ありと、わかりやすい手法で、エンターテインメントの可能性をあらゆる角度からデザインしています。
あかつか探偵事務所の七瀬五郎(永山瑛太)、四俵蘭子(深田恭子)、木暮久作(森田剛)、風かおる(山口智子)のアンニュイな雰囲気に酔わされる贅沢な時間を堪能してください。
ワケありクセありのひとたちが織り成す極上ドラマ『まほろ駅前番外地』
ワケアリの依頼を解決する便利軒の日々を描いた三浦しをん原作の『まほろ駅前番外地』は、背小説も何度も読み返してしまう大好きな作品です。原作にはないオリジナルのエピソードも登場していることもドラマの見どころのひとつ。通じているはずの心が、いつの間にか絡まってしまう日常に、中学校の同級生バディ多田啓介(永山瑛太)と行天春彦(松田龍平)の、ちょっとしんどい切なさや依頼者たちのやるせなさに胸がキュンとなるものの、時間の流れを緩やかに調整しながら、物語に余白と余韻をつくる大根監督が作品にやさしい風を吹かせています。
大根監督が描く女性たちの輝きが美しい『SUNNY 強い気持ち・強い愛』
韓国映画『サニー 永遠の仲間たち』のリメイク版『SUNNY 強い気持ち・強い愛』は高校時代の仲良しグループが大人になって再び出会う物語です。脚本も手掛けた大根監督が描く女性たちの物語というだけで胸が躍りますが、キラキラした時代を想いだしながら、つい口ずさみたくなる90年代のヒットメロディーにワクワク。彼女たちの着飾った美しさではなく、まさに強い気持ちと強い愛の美しさが画面からあふれ、”自分の人生を生きることの尊さに胸をはれ”と教えてくれる作品です。漫画、小説、青春ものにハードボイルド、映像化するにあたり、常にボーダーレスな大根監督の透明感にも触れてください。
マンガの世界を躍動させた映像と遊び心が光る『バクマン。』
週刊少年ジャンプを舞台に漫画家を目指す作画担当の真白最高(佐藤健)と原作担当の高木秋人(神木隆之介)という高校生コンビの激動の日々を描いた『バクマン。』では、プロジェクションマッピングによる斬新な描写が話題となりました。従来の映画とは違う躍動感が刺激的です。劇中の漫画作品も充実、2人のライバルとなる個性的な漫画家たちへの想いが膨らみます。
青春特有のピリついた空気や苛立ちといいペン先から生まれる線に命が吹き込まれていく過程といい、繊細な部分からダイナミックな部分まで取りこぼすことのない描写も大根監督ならでは。遊び心あふれる圧巻のエンディングは何度見ても楽しく、不思議と画面から紙とインクの匂いが感じられる快作を、ぜひ体験してください。
俳優と物語の親和性が極上の世界へ誘う『リバースエッジ 大川瑞探偵社』
ドラマを観ていると、あの作品のあの俳優はイマイチ合ってないんじゃないかと感じることもあるものですが、大根監督の作品にその違和感を感じたことが、まずありません。キャスティングが巧いのか脚本の妙なのか、テレビの前で思わず「好きだわ!」とこぼしてしまいます。
隅田川沿いの雑居ビルにある大川瑞探偵社が舞台の濃厚な人間ドラマ『リバースエッジ 大川瑞探偵社』では、主人公の探偵を演じるオダギリジョーの旨みを噛みしめながら、ワケアリの依頼者たちの淡々にも見える全力の生きざまに、深夜胸をカッと熱くさせる瞬間が何度もありました。エロチックな世界や荒々しい世界も心にちゃんとしみます。
深夜ドラマ×ショートドラマのおかしさと愛しさと『去年ルノアールで』
喫茶室ルノアールでの主人公(星野源)の特異な妄想を描いた10分間のショートドラマ『去年ルノアールで』は、トリッキーな人物を演じる俳優陣や星野源の演技にすごいぞ!自然だぞ!とグイグイ引き込まれるコメディです。おかしいのになぜか癒される、くだらないのになぜか満たされる、ある意味不思議なミステリアスが”やみつき”になります。どの作品も俳優陣のカッコよさを見せるためのカタログ雑誌として存在することはありません。俳優陣の持ち味を最大限に引き出すことや新しい一面を見せることに集中する、言わば正しく攻めた作品づくりで、一見シンプルに見えますが、俳優に手放すことも求めるわけで、想像以上に難しさがあるはずです。ぶれない信念を持つ者だけが想いをかなえられる現場には厳しいものがありますが、だからこそ いい作品が生まれるのでしょう。
クールな音楽やファッション性も大根ワールド
クールな音楽やファッション性も大根ワールドには欠かせません。高級感や先鋭をよしとする価値観にとらわれない圧倒的なセンスは、ノスタルジックなのに古めかしくない、雑多なのに洗練されているといった世界観で私たちを誘います。『ハロー張りネズミ』のSOIL&"PIMP"SESSIONSや『リバースエッジ 大川瑞探偵社』を彩ったEGO-WRAPPIN'『湯けむりスナイパー』のクレイジーケンバンドなど、いつも「やられた」と感じますが、研ぎ澄まされた感性は決して尖っていなくて、初めて聴くひとにとっても作品に溶け込んだ音楽の持つ熱量や色香に想いが膨らんでいくはずです。
「わかるひとだけにわかればいい」というスタンスではない作品の門戸は広く、音楽から入ってもよし、ファッションから入ってもよし、自由に楽しんでOKの大根監督らしいおおらかさこそ、自由な風の源と言えそうです。
豪華俳優陣の実力も引き出す! 大根監督の今後
深夜ドラマの名手と言われた大根監督。2020年10月にスタートしたテレビ東京の掟破りの問題作『共演NG』(毎週月曜夜10時放送)では脚本と演出を担当し、こんな作品をつくるのだとまたまた意表を突かれました。中井貴一、鈴木京香、里見浩太朗ら豪華俳優陣の実力を存分に引き出しながら、大いに笑わせ、いつの間にか感動させる究極のドラマは必見です。圧巻の俳優陣と現場のパワーに圧倒されてください。※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。