時代を超えて観てほしい秀作。樹木希林さん最後の主演映画『あん』
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介護ジャーナリストの小山さんが、多くの人に見てほしいとおすすめする映画『あん』。作中の「何かになれなくても生きる意味がある」というセリフの通り、人生の意味を問う作品なのだそう。
イチオシスト:小山 朝子
介護福祉士の資格を持つ介護ジャーナリスト。全国の介護現場での取材経験と自らの10年近くの介護経験を踏まえ、各地で講演、執筆活動を展開している。
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医療や介護の従事者にインタビューをすると「患者(利用者)の支えになりたい」、あるいは「患者(利用者)の役に立ちたくてこの職業を選んだ」といった声を聞くことがあります。
一方、患者や利用者からは「誰かの役に立ちたい」といった声を聞くことはほとんどありません。患者者(利用者)が認知症である場合などは、インタビューをすること自体が困難なケースもあります。しかしながら、両者の間に優劣は存在しないと思うのです。
2016年7月、相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」で利用者ら45人が殺傷された事件が起きました。この事件が起きた後、高齢者や障がい者を受け入れている施設で働く職員や利用者は大きなショックを受け、「出入口のセキュリティを強化した」と話してくれた職員もいました。
この事件が起きた後、私は映画『あん』で樹木希林さんが演じた高齢の女性、徳江さんの言葉を思い出していました。
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『あん』のストーリー
刑務所から出所し、どら焼き屋の雇われ店長をしている千太郎。商売熱心とはいえず、惰性的に仕事を続けている彼のもとに徳江という高齢の女性が現れ、働かせてほしいと懇願されます。はじめはその気がなかった千太郎ですが、徳江が作った粒あんのおいしさに驚き、彼女を雇い、その作り方を教わるのです。
その味は評判を呼び、店は列ができるほどの繁盛店に。ところが、徳江がハンセン病を患っていたという噂が流れ、彼女は店から姿を消してしまいます。千太郎は徳江と親しくしていた女子中学生・ワカナとともに、徳江が暮らす療養所を訪れますが――。
「ハンセン病への理解」が大きなテーマのひとつ
この映画の大きなテーマのひとつは「ハンセン病への理解」です。この映画で描かれていた療養所のシーンを見ながら、私にはこれまで取材をしてきた高齢者の施設や障がいをもつ人が働く作業所の光景とが重なって見えました。
何かになれなくても生きる意味がある
作中で主人公・徳江はこのような言葉を残しています。「私たちはこの世を見るために、聞くために生まれてきた。だとすれば、何かになれなくても、私たちには生きる意味があるのよ」
映画の原作者であるドリアン助川さんは、あるイベントで次のようなことを話されています。
「『人の役に立つ』とか『立たない』という次元ではないところで、我々は生まれてきたんじゃないか――。生命の根源に迫る、そういうことを深く考えていきたかった」。
時代を超えて、多くの人に見てほしい秀作です。
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DATA
ポニーキャニオン┃『あん』
監督:河瀨直美
出演:樹木希林、永瀬正敏、内田伽羅、市原悦子
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