映画『何がジェーンに起ったか?』から学ぶ親の心情とは
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介護ジャーナリストの小山さんがおすすめするのは、1962年のサスペンス映画『何がジェーンに起ったか?』。そこに描かれている老年期に入った女の情念を知ることで、親との関係や介護に悩む人も、今より優しくなれるかもしれない、のだそう。
イチオシスト:小山 朝子
介護福祉士の資格を持つ介護ジャーナリスト。全国の介護現場での取材経験と自らの10年近くの介護経験を踏まえ、各地で講演、執筆活動を展開している。
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私には介護施設で出会った忘れられない女性利用者がいます。彼女は自分の親よりやや年上でしたが、重度のリウマチを患っており、私が介助の手を差し出すと、いきなりその手に噛みついてきたこともありました。
私が彼女に対して苦手意識を抱かなかったと言ったら、正直嘘になります。ところが、この映画を見てから、彼女に対して抱いていた複雑な感情が幾分か和らいだのです。
映画のタイトルは『何がジェーンに起ったか』(『WHAT EVER HAPPENED TO BABY JANE?』)。1962年にアメリカで制作されたサスペンス映画です。
ストーリーは……?
古い屋敷に暮らす初老の姉妹、ブランチとジェーン。ジェーンは、子役スター「ベビージェーン」として一世を風靡しますが、やがて仕事もなくなって世間から忘れ去られていきます。一方、子供のころは目立たなかった姉のブランチはスター女優へと成長。そんな矢先、ブランチが自動車事故により半身不随となり、女優生命を絶たれてしまうのです。ジェーンは車椅子の身となった姉のブランチのために介助を行いますが、嫉妬やプライドからか、次第にブランチに対して異常な行動をとるようになります。ブランチは不自由な身でありながらも、2人で暮らす屋敷から必死に逃亡を試みるのですが……。
介助方法は「ダメ! ゼッタイ」のオンパレードだが
私がこの映画をとくにイチオシしたい理由。それは、ジェーンの姉・ブランチに対する介護のあり様ではありません。鳥の死骸を食べさせようとしたり、手足の自由を奪って監禁するという恐ろしい行為は、もはや「虐待」。ジェーンのブランチに対する介護は、むしろ「ダメ! ゼッタイ」と言うべき行為のオンパレードです。
それでもなぜ私がこの映画を「イチオシ」に選んだのか。
それは、たとえ自分の親との関係がぎくしゃくしても、「この人は、もしかしたらジェーンのように、"人生で失ったなにか"があるのではないか」と想いを馳せることで、今よりも優しくなれるのではないかと思ったからなのです。
「喪失体験」を重ねてきた親との違いに気づく
人は65歳以上の老年期になると、子供の独立、定年退職、配偶者や友人といった大切な人との死別などの「喪失体験」が増えます。この映画の主人公、ジェーンについてみても、自分を可愛がってくれた親、「子役スター」という栄光、世間からの「注目」、若さ、美貌などを「喪失」しているのです。しかし、彼女は哀れにも「喪失」した数々のことを受け入れることができず、頑なに「老い」を拒みます。
映画のストーリーが展開していくとともに、その容貌がますますホラー化していくジェーン。彼女をホラー化させている正体、それは過去に対する「執着」なのかもしれません。
子供は親の老いを目にするとついあれこれと言ってしまいがちです。しかしそれは「自分の思い」であって、「喪失体験」を重ねてきた親の真の思いとは隔たりがあるとも言えます。親に比べると喪失体験が少ない子どもの立場では想像もつかないこともあるでしょう。
親が自分の言うことを受け入れてくれず、イライラが募ったとき、心のなかで密かにこう呟いて接してほしいのです。
「この人、もしかしてジェーンかもしれない」と――。
DATA
ワーナー・ブラザース│『何がジェーンに起ったか?』(字幕版)
監督:ロバート・オルドリッチ
出演:ベティ・デイビス、ジョーン・クロフォード、 ヴィクトロ・ブーノ
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