省エネモードへ切り替え必要 石油備蓄の使い方 共同通信アグリラボ編集長コラム
イチオシスト
米国とイスラエルによるイラン攻撃から1カ月が過ぎた。早期決着は見通せず、石油価格の高騰が続いている。政府は3月26日に国家備蓄の放出に踏み切るとともに、補助金によるガソリン価格の押し下げを実施、日常生活の安定を目指している。
しかし、ホルムズ海峡でタンカーの運航が滞り、湾岸の石油精製施設が攻撃され、供給そのものが最上流の源で減っている。消費への影響は避けられない。ガソリン価格の値上がりをある程度許容し、不要不急の需要を減らし、農業、輸送、医療などエッセンシャル(必要不可欠)な分野への供給を確実にするべきだ。これらの分野の資材調達費用を個別に支援することで、貴重な備蓄と財源を節約できる。
1979年の第二次石油ショック時には、迅速な公定歩合の引き上げによる総需要の引き締め、円高による輸入物価の押し下げ、労使協調による賃金上昇の抑制、省エネルギーの徹底により、危機の影響を最小限にとどめた。つまり「我慢の経済政策」によって、インフレ期待の抑制を最優先した。
一方、高市早苗政権の政策はまったく逆だ。「積極財政」を掲げたまま円安が進み、賃上げを推奨し、巨額の補助金でガソリン価格を押し下げ、省エネは進まない。目先の痛みは回避できても、停戦が長引いた場合の政策手段はますます制約される。将来のパニックを避けるためには、できるだけ早い段階で「痛みを緩和する価格安定」から「痛みを我慢する量の確保」にモードを切り替えることが重要だ。
日本と比べて備蓄水準が低いフィリピン、ベトナム、タイなどでは既に、ガソリン価格の高騰による生活への影響が深刻になっており、ベトナム政府は日本に石油の融通を求めてきた。少量でも融通に応じるべきだ。
日本の備蓄は約254日分(民間備蓄や産油国共同備蓄を含む)の高い水準だが、今回は国家備蓄(約145日分)の約1カ月分に相当する約5300万バレルの放出を決めた。余裕があるわけではないが、省エネを進めれば備蓄日数を延長できる。
アジア全体のエネルギー供給が不安定になれば、結果として日本の物流や輸入にも悪影響が出る。特にベトナムやタイには多くの日本企業が進出しており、現地の工場が止まれば日本の製造業のダメージも甚大だ。日本の10日分の備蓄は、ベトナムの国家備蓄の全量(約9日分)を上回る量に相当し、エネルギー危機を沈静化できる。
苦しい時に助ければ、強力な外交カードになる。ベトナムは世界25位の原油埋蔵量(約44億バレル)を持つ有望な産油国だ。短期的には損に見えても、支援を通じて信頼関係が深まり、地域の安定という大きなリターンを期待でき、日本の国益になる。
ベトナムに対する支援は一例に過ぎない。虎の子の備蓄をどのように使うのが最も合理的なのか。国会で十分に議論してほしい。さまざまなアイデアがあるだろう。ただ、レギュラーガソリンを1㍑当たり170円程度に維持するために約30~48円の補助が必要で、政府は8000億円の追加支出を想定している。22年からの補助金の総額は9兆円に達する可能性が高い。目先の痛みを和らげる使い方が上策だとはとても思えない。
(共同通信アグリラボ編集長 石井勇人)
=末尾になりますが、「アグリラボ編集長コラム」は、本稿が最終回です。これまでのご支援に感謝申し上げます。=
記事提供元:オーヴォ(OvO)
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