Steamの「モデレーション崩壊」が開発者を追い詰めている?世界最大のPCゲームストアで何が起きているのか
イチオシスト

あなたが遊んでいるゲーム、そのレビュー欄は「安全」ですか?
PCゲーマーなら、ほぼ毎日のように目にするSteam。月間同時接続ユーザー数は約4,200万人、事実上PCゲーム配信の「一強」プラットフォームです。ゲームを買うとき、多くの方がまずチェックするのがユーザーレビューでしょう。「好評」か「不評」か——その評価が購入の決め手になった経験、ありませんか?
しかし今、そのレビューやフォーラムが深刻な問題を抱えています。英ガーディアン紙が2026年に公開した調査報道によると、Steamのモデレーション(投稿監視)体制が機能不全に陥っており、差別的・攻撃的なコンテンツが野放しになっているというのです。しかも、被害を受けているのはプレイヤーだけではありません。ゲームを作っている開発者たちが、直接的な経済的ダメージを受けています。
何が起きているのか?3つの問題の核心
① ヘイトレビューが「表現の自由」として放置される
記事で証言したゲームデザイナーのナタリー・ローヘッド氏は、自身のゲームページに投稿された明らかに中傷的なレビューの削除を求め、2年間にわたってSteamと格闘しました。あるレビューには反ユダヤ的な人種差別表現が含まれ、別のレビューでは過去の性的暴行の告発を「嘘」と断じる内容が書かれていました。
驚くべきことに、Steamのモデレーターはこれらのレビューを通報後に「問題なし」と判定。ローヘッド氏がSNSで助けを求め、第三者が再通報してようやく一部が削除されたものの、Steam側の回答は「レビューの正確性を検証する立場にない」「削除は検閲と見なされうる」というものでした。
② 「反WOKE」キュレーターによる組織的ネガキャン
Steamには「キュレーター」という仕組みがあります。これはユーザーが自発的にゲームを推薦・批評するリスト機能で、本来はゲーム選びの参考になる便利なツールです。
ところが今、このキュレーター機能が武器化されています。「NO WOKE」と名付けられたキュレーションリストでは、LGBTQ+キャラクターが登場するだけで低評価の対象にされています。SF冒険ゲーム『Caravan SandWitch』は、クィアキャラクターの存在だけを理由に「Too LGBTQ」とネガティブレビューを浴びました。開発元Studio Plane Toastのエミ・ルフェーヴル氏は、「Valveがモデレーションを拒否することで、Steamのレビューとフォーラムがカルチャーウォーの戦場になっている」と指摘しています。
さらに悪質なケースでは、右派活動家の暗殺に対する開発者の反応を「採点」するキュレーターまで登場。ゲームの内容とまったく無関係なレビューが投稿されても、Steam側は「オフトピックとは、クッキーのレシピのような、ゲームと明らかに無関係なもの」と回答し、対処を拒んでいます。
③ 開発者が「人質」状態に置かれている構造
ここで問題をさらに深刻にしているのが、Steamの市場支配力です。PC向けゲーム配信において、SteamはEpic Games StoreやGOGなど競合を大きく引き離す圧倒的なシェアを持っています。「Steamに出さなければ、パブリッシャーに相手にされない」とローヘッド氏が語るように、インディー開発者にとってSteamは事実上の「必須インフラ」です。

Steamのレビュー評価はストア内での表示順位に直結します。つまり、組織的なネガティブレビュー攻撃は、単なる嫌がらせではなく売上を直撃する経済的暴力でもあるのです。それでも開発者はSteamから離れられない——この構造が、問題を一層根深くしています。
なぜValveは動かないのか?「放任主義」の背景
Steamを運営するValve社は、社員数400人未満とも報じられています。週に数十万件のサポートチケットをこの規模で処理すること自体、物理的に困難です。2022年にはボランティアモデレータープログラムが廃止されており、現在のモデレーション業務は外部委託されているとみられていますが、Valveは詳細を一切公表していません。
ガーディアン紙の複数回にわたる取材要請にも、Valveは一度も応じなかったとのこと。この沈黙こそが、Valveの姿勢を雄弁に物語っています。
Valveはかつてから「プラットフォームは中立であるべき」という思想を持つ企業として知られてきました。2018年にも「明らかに違法、またはストレートな荒らし」以外はほぼ何でも販売を許可する方針を打ち出しており、今回のモデレーション放任もその延長線上にあると考えられます。
これは「ゲーム業界だけの問題」ではない
この問題を「ゲーマー同士の揉め事」と片付けるのは危険です。巨大プラットフォームがモデレーションを放棄するとき、その影響はクリエイターの生計を脅かし、コミュニティの文化そのものを変質させます。
同様の課題はX(旧Twitter)やYouTubeなど他のプラットフォームでも繰り返し指摘されてきましたが、Steamの場合はレビューが直接売上に連動するという点で、被害がより可視化しやすく、より切実です。
一部の開発者は自費でモデレーターを雇い、あるいは差別的レビューを逆手に取ったマーケティングで対抗するなど、個々の自衛策を講じています。しかし、それは本来プラットフォーム側が担うべき責任を開発者に転嫁しているに過ぎません。
まとめ
Steamを日常的に使う一人のゲーマーとして、できることはあります。
まず、レビューの「参考になった」ボタンを意識的に使うこと。Steamのアルゴリズムはユーザーのフィードバックを反映するため、質の高いレビューを上位に押し上げる行動は、小さいけれど確実な一歩です。次に、明らかに差別的・攻撃的なレビューを見かけたら通報を行うこと。モデレーターが見逃したとしても、通報数が増えれば再審査のきっかけになりえます。
そして何より、この問題が存在することを知っておくこと。私たちが毎日使っているプラットフォームの裏側で、ゲームを作る人々がどんな困難に直面しているのか。その認識を持つだけでも、レビュー欄の風景は少し変わるはずです。
ローヘッド氏の言葉が、すべてを凝縮しています。「これが普通であってはならない」——その声に、耳を傾ける時です。
出典:【The Guardian】
※サムネイル画像はスマホライフPLUS編集部が撮影したものです。
記事提供元:スマホライフPLUS
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