「いじめネット告発」は学校現場の救世主となるか?
イチオシスト

暴露系インフルエンサーがSNSに続々投稿。その功罪は!?
今年に入ってから、中高生のいじめ動画の拡散が相次いでいる。学校の暗部だったいじめが社会の目に留まるようになった背景には、こうした動画を募って発信する「暴露系」「私刑系」などと称されるインフルエンサーがいる。
彼らはいじめ撲滅の救世主か、それとも加害者へのネットリンチをたきつける"愉快犯"か? その功罪に迫る。
【警察と教育委員会が異例のスピード対応】校内のトイレで、無抵抗の生徒を襲うパンチとキックの雨あられ―。栃木県の県立高校で撮影された目を背(そむ)けたくなる動画が、1月4日にネット上に広がった。お正月気分を吹き飛ばすおぞましさから、一部のネット民が〝義憤〟に駆られ、直ちに加害生徒を特定し、本人や両親の実名、住所まで公開した。
SNSでは、「地獄に落ちろ」といった悪罵(あくば)や、加害生徒が女性用水着を着用するコラージュ画像が流布。現実世界でも、学校や自宅に有象無象の動画配信者が押しかけて大声を上げるなどの騒動を引き起こしている。
炎上を受けて、関係当局の動きも早かった。栃木県警は5日には当事者から事情聴取し、その事実を記者クラブに公表した。また、栃木県教育委員会は7日に会見を開き、被害生徒に謝罪した。全国紙社会部デスクが語る。
「警察が立件前の事案について取材で語ることは通常ありえません。閉鎖的で隠蔽体質が強い教育委員会が、早々にいじめを認めるのも異例。
SNSなどでの加害生徒への行きすぎた制裁を止めるため、当局が動いていると社会に伝える狙いでしょうが、結果的に動画がいじめ解決に一定の効果を示したとも言えます」
いじめ動画の拡散は、これだけにとどまらない。大分県、熊本県などの中学生らによる一方的で執拗な暴行動画もネット上で拡散され、一様に加害生徒の特定や糾弾が起きている。
こうした動画を主に発信したとされるのが、Xなどで情報発信する『DEATHDOL NOTE(デスドル・ノート)』(以下、デスドル)というアカウントだ。ウェブ誌ライターが解説する。
「デスドルは2年ほど前からXで発信しています。当初はアイドルのスキャンダルを暴露して知名度を上げましたが、最近はいじめ関連の動画に力を入れていて、フォロワーは100万人を超えています。並行して情報商材の販売も行なっていて、収益スキームを確立していますね」

デスドルが1月に設立した「いじめ撲滅委員会」は、取材した栗本氏が代表の同名団体とは別もの。画像はXより
加害者への苛烈な制裁を伴いつつも、インフルエンサーらによるSNS上でのいじめ動画の拡散が問題の解決に寄与している事実は否定できない。公認心理師で、いじめ問題の解決に取り組む「いじめ撲滅委員会」代表の栗本顕氏は評価できる側面についてこう話す。
「学校や教育委員会は、いじめを認めると印象が悪くなるので認めたがらないし、いじめは隠れて行なわれるので見極めが困難なケースが多いです。
ただ、動画やLINEのトーク画面といった形で証拠に残り拡散されることで、『解決しなければ』という〝外圧〟が関係者に加わり、栃木のケースのように学校や警察が早期介入しやすくなりました」
SNSは被害者にとって副次的効果もあるという。
「被害者は学校や保護者に相談しにくいことが多いですが、近年はSNSやネット投稿での被害相談で対応が進むケースが増えています。対面や電話などに比べて、被害者の心理的負担が低いことが要因だと考えられます」
【誤情報など二次被害の恐れも】ただ、安易な動画の拡散は二次被害を招く恐れがある。デスドルが1月10日に公表した福井県の学校の動画に対しては、「実は2023年に起きた単純なケンカで、すでに当事者間で解決している」と別のインフルエンサーが明らかにし、学校側もホームページで〝被害者〟が動画の削除を求めたことを公言した。
栗本氏も警鐘を鳴らす。
「21年の旭川女子中学生いじめ凍死事件では、バッシングが過熱し、無関係の生徒や教職員の実名と顔がネット上に出るという事態に発展しました。デスドルが告発した大阪の事案でも、加害者の保護者の勤め先としてまったく異なる会社がさらされて、抗議が集中するなどの二次被害が起きています。
動画が広がることで、被害者にとって忘れたいつらい過去をフラッシュバックさせる恐れも尽きません」
一方で、動画拡散で加害生徒が萎縮することはなく、むしろ教職員はいじめの巧妙化・陰湿化に気を配る必要が出てくるのだという。
「動画の拡散以降、いじめが落ち着いたという報告を聞くことはありません。むしろ、カメラに映らないよう加害側がさらに巧妙化する危険性があるので、教員はその心配から負担が増えていると言えます。
いじめの加害者が被害者を陥れるため、はやりのAI動画で被害者が相手を殴るといった動画を作って広めるなんて事態も起きかねず、SNS上の拡散が当然になったことによる変化への対応が必須です」
栗本氏は、インフルエンサーたちのいじめ問題への向き合い方にも懐疑的だ。
「再生数に応じた広告収益や、フォロワー増という私利私欲や知名度の向上のために活動しているケースが少なくありません。予想していたことですが、デスドルは最近増やしたフォロワーを武器に創設者が政界入りを表明しましたし......。
いじめは国民の関心が強いので、取り扱えば注目を集めやすいんですよね。私のXも選挙が近くなると議員さんが急にフォローしてきますし(苦笑)。
いじめにはいろいろな考えがあるので私たちも批判を受けやすいですが、真剣に関わるならば同時に相談窓口を設けるべきです。でも、インフルエンサーたちはそんな作業はやらないですよね」
動画拡散という新たなフェーズを迎えても、いじめ対応の一義的責任は学校にあると栗本さんは考える。
「いじめの教員研修に私も立ち会ってきていますが、私が発した『加害生徒』という言葉に『言葉が激しすぎる』と逆上されたことがあります。
でも殴ったり、物を取ったりするわけで、これは加害です。当事者同士の手を握らせて『はい、解決』なんてことも続いていて、頭がいまだに〝お花畑〟の教員も残念ながらいます。
教員が多忙というのも解決の妨げになっているので、いじめ専任の教員の配置が必要です。充実した体制を敷き、いじめ動画の撮影という事態が起きないように努めねばなりません。
そして加害生徒には出席停止などの厳しい対応を取り、それでもいじめが継続して刑事事件に当たるとなった場合は、警察に取り次ぐという現実的な手段を取ることが求められます」
いじめの可視化は、及び腰だった学校現場に厳しい課題を突きつけている。
取材・文/武田和泉 写真/共同通信社 Adobe Stock
記事提供元:週プレNEWS
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