山をひらき、場をつくる。ほったらかしキャンプ場オーナーの新たな挑戦【アウトドアで働く人】
イチオシスト
川と山しかない岐阜で育った

山梨県山梨市で「ほったらかしキャンプ場」を立ち上げ、いまや全国屈指の人気キャンプ場へと育て上げた田口美郷さん。
1979年に岐阜県で生まれ、20歳で山梨に移住。1999年のオープン当初から「ほったらかし温泉」の現場に立ってきました。温泉施設の運営で培った“自分たちでつくる”経験を生かし、2016年にキャンプ場事業へ挑戦。
そして2025年9月、清里エリアに新たな拠点として「あのへんの森キャンプ場」をオープンしました。
原体験は「アウトドア」ではなく、日常だった自然

田口さんの原点は、岐阜の山あいでの暮らし。アウトドアという言葉を意識する前から、自然の中にいるのが当たり前だったそうです。
実家の近所って、川と山しかないんですよ。だから子どもの頃の遊びも、そういうのばっかり。木を削って遊んだり、根っこ掘り出して(ゴルフの)ドライバーを作ったり、川で魚を捕ったりしてましたね。
いま思うと、ほぼ自然の中で完結していた感じです。中学くらいからは部活もありましたけど、結局、外で体を動かしていましたね。
ほったらかし温泉で「手づくり」を覚えた

1999年、20歳のときに山梨に移住。父親の紹介でオープン前の「ほったらかし温泉」に住み込みで入ることになります。
地元で一回就職したんですけど、合わなくて辞めちゃったんです。そしたら何もやることないじゃないですか。親父が“やることなきゃ山梨行け”って。ほったらかし温泉の社長と知り合いだったんです。
温泉なんて正直よく分からないですし、山梨は知り合いゼロで右も左も分からない。正直、放り込まれた感はありましたね。

当時のほったらかし温泉は、いま以上に手づくり感満載の施設でした。資金が潤沢ではない分、できることは自分たちでやるという方針。基礎工事や配管なども含め、当時現場で覚えたことがそのままキャンプ場づくりにも役立っているそうです。
社長に直談判「キャンプ場をやらせてください」

温泉で働き続ける中で、環境や体制が変わるタイミングが訪れます。その変化をきっかけに、田口さんは「次に自分ができること」を考えるようになりました。そこで出てきたのが、キャンプ場経営という選択です。
会社の方針が変わる時期って、いろいろありますよね。僕は別の形でチャレンジしたいなと思って、“キャンプ場をやらせてください”と直談判したんです。正直、ダメ元ですよ。
そしたら“いいよ”って返ってきて。驚きましたけど、やるって決めたら、前に進むしかありません。

2015年に会社を立ち上げ、2016年にほったらかし温泉の横の土地に「ほったらかしキャンプ場」をオープン。2020年のキャンプブームが来る前で、正解が見えていたわけではありません。それでも「一回、事業としてやってみたい」という気持ちが勝ったそうです。
仲間と手を動かして、居場所を整える

ほったらかしキャンプ場となった土地は、もともと手が入っていない山でした。田口さんは当時をこう振り返ります。
最初は何もないところからのスタートでした。地形を見ながら、キャンプとして過ごしやすい“居場所”を少しずつ整えていった感じです。
道や動線も含めて、どうしたら安全で気持ちよく過ごせるかを考えながら形にしていきました。
全部を大げさに変えるというより、必要なところにだけ手を入れていくイメージですね。最初は10サイトからで、半年くらいで形になりました
口コミだけで広がったキャンプ場

一番の不安は、工事よりも「お客さんが来るかどうか」。最初は隣の温泉との距離感も活かしつつ、少しずつ認知が広がるのを待ちました。派手なマーケティングではなく、体験の強さで伝わっていく。そんな増え方だったと言います。
SNSで何かやったわけでもないですし、招待もしてません。そもそもキャンプ業界のネットワークもありません(笑)。ですので、増え方としては口コミしかありません。
最初はケータイひとつで予約取ってたんですけど、ある日急につながらなくなってしまって。問い合わせてみたら、電波の問題ではなく、電話が集中しすぎて回線がパンクしてたっていうんです。 そのとき、“これはちゃんと届いてきたな”って実感しましたね。

その後は、サイトを広げ、設備を整え、運営のオペレーションをアップデート。その積み重ねが、いまの規模へとつながっていきました。
「つくるのが好き」——更新を止めない原動力

田口さんの話を聞いていると、拡大志向というより「手を入れて、良くしていくこと」が先にある印象を受けます。お客さんの反応が次の改善を呼ぶ。その循環がモチベーションになっているようです。
つくるのが好きなんですよ。特にユンボで山を削ってる時間が楽しくて。つくったら、お客さんが来て、喜んで帰ってくれるじゃないですか。それを見ると、また次をつくりたくなる。そういうのをずっと繰り返してきた感じです。
大きく見せたいとかより、“もっと良くしたい”が先に来るんですよね。
ピンチを次の一手に変える思考

もちろん順風満帆なことばかりではありません。設備投資や人材のことなど、経営者としての苦労もあるそうです。それでも、そこで立ち止まるより、前に進むための考え方を自分の中に置いているのが田口さん。
ピンチはチャンス。実際つらいことはいろいろありますけど、“このピンチがあったから次の手が出せる”って考えたほうが前に進めるんです。愚痴は酒飲みながら言ってるかもしれないです(笑)。でも、相談できる仲間がいるのは大きいし、乗ってくれる人がいるのはありがたいですね。
あのへんの森でつくる、次のフィールド

田口さんが次のフィールドとして選んだのが、清里エリアの標高1,580mに位置する「あのへんの森キャンプ場」。決め手のひとつは涼しさ。夏の暑さが年々厳しくなる中で、標高の高いキャンプ場は大きな価値になります。
ほったらかしって、夏は40度近くになるんです。そうなると、涼しいところがあるなら、そこが一番いいじゃないですか。
ここは運営委託の話が来たので見に行ったら、すごく良くて。水とか電気とか、ライフラインが整っていたので、ほったらかしと比べたら楽じゃん、って思ったんです。でも蓋を開けたら、直すところも意外と多くて。いま苦しんでいるところです(笑)。
完成図を決めないから、面白い

今後は、コテージなど“次の遊び方”も視野に入れているそうです。ただ、田口さんは最初から完成図を固めるより、「動かしながら整える」タイプ。ほったらかしで培った現場感覚を、今度は別の土地の条件に合わせて置き換えていく。そのプロセス自体が、田口さんの仕事の醍醐味なのでしょう。


成功するかどうかは、正直やってみないと分かんないです。でも、面白そうならやる、それだけです。結局、やらないと人に出会えないし、やらないと景色も変わらない。
ほったらかしを始めたことで出会えた人たちがいて、いまはそのつながりが新しい現場でも力になってる。ありがたいですよね。
山を切り、場をつくり、人を迎える。その営みは“完成”ではなく、いつも更新の途中にあります。清里の森で田口さんが次に何を足し、何を削っていくのか。そこにまた、新しい景色が生まれていきます。
「M1582 あのへんの森」インスタグラムはこちら
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記事提供元:CAMP HACK
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