【はばたけラボ 連載「弁当の日の卒業生」⑨】「子育てを楽しむこころ」「仕事の段取り力」が身につきました
イチオシスト
未来世代がはばたくために何ができるかを考えるプロジェクト「はばたけラボ」の新連載「弁当の日の卒業生」。「弁当の日」、その日は買い出しから片付けまで全部一人で。2001年に香川県の小学校で始まった食育活動は、約25年を経て全国に広がっています。その提唱者である竹下和男氏が「弁当の日」の卒業生の今をつづります。
▼「子育てを楽しむこころ」「仕事の段取り力」が身につきました
10月18日に開催した「第3回集まれ!全国の弁当の日応援団in高松」に招待するためにM君に電話をしたら、東京に住んでいました。「東京じゃ参加は難しいな」というと、「行けますよ」と即答です。「今、一年間の育休期間中です。イベントに合わせて香川に帰りますよ」。そのことを、当時の学年主任(教員)に話をしたら、「イヤー、Mくんは好青年に成長しています。話をしているとこちらまで元気になってきます」。まさにその通りだった。
2024年度は、男性の育児休業取得率は全国で約40%とありましたが、たぶん短期間の取得も含めていると思います。でもMくんが「一年間」と言い切ったのはすごいです。彼は妻が産休期間を終えてから、一年間も育児に専念することを選択したのです。私は講演の中で「自分が作った料理を食べてもらう経験を積んでいる人は、子育てを楽しむ心も育んでいる。昔は、祖母が孫娘を幼いうちから台所仕事に就かせていました。それはいい嫁に育てるためです。いい嫁とは、まず嫁ぎ先で健やかな子どもを産み育てられる人です。専業主婦の方が多く、共働きは少なかった時代でした。美人でも、賢くても、何より孫を産まないのでは困るのです。産んでも子育てをしてくれなくては困るのです」と話しています。戦後すぐの教育も、明らかに男女差別が残りました。いま現在約60歳以上の人は中学生時代に技術科を習い、女子は家庭科を習いました。衣食住と育児の家事労働の内容は家庭科にしかありませんでした。「結婚したら家事は女性の仕事」という義務教育を受けてきたのです。
でもいま現在約40歳未満の人は、技術・家庭科という授業を男女一緒に学んでいます。情報(コンピュータ)教育等の新しい内容が含まれているのに全体の授業時数が減少しているので、「ごはんとみそ汁の朝ごはん」が作れないまま中学校を卒業しているのが実態です。
「中学時代の3年間の『弁当の日』で何が一番に役立っている?」と問うと、Mくんは少し考えて「一分間、時間をください」と言いました。そして一分後に「段取り力です」と答えました。「登校の時刻までに献立通りの弁当を完成させるため、仕事の順番と組み合わせを考える力が付きました。今、就職試験に取り組む学生たち相手にセミナーを開設していますが、そのカリキュラム作成は弁当作りと共通することが多いのです」
私は思わずスマホに「ありがとう」と言ってしまいました。
竹下和男(たけした・かずお)/1949年香川県出身。小学校、中学校教員、教育行政職を経て2001年度より綾南町立滝宮小学校校長として「弁当の日」を始める。定年退職後2010年度より執筆・講演活動を行っている。著書に『“弁当の日”がやってきた』(自然食通信社)、『できる!を伸ばす弁当の日』(共同通信社・編著)などがある。
#はばたけラボは、日々のくらしを通じて未来世代のはばたきを応援するプロジェクトです。誰もが幸せな100年未来をともに創りあげるために、食をはじめとした「くらし」を見つめ直す機会や、くらしの中に夢中になれる楽しさ、ワクワク感を実感できる体験を提供します。そのために、パートナー企業であるキッコーマン、クリナップ、クレハ、信州ハム、住友生命保険、全国農業協同組合連合会、日清オイリオグループ、雪印メグミルク、アートネイチャー、ヤンマーホールディングス、ハイセンスジャパン、ミキハウスとともにさまざまな活動を行っています。
記事提供元:オーヴォ(OvO)
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