真摯で、哲学の通った音 【コラム カニササレアヤコの NEWS箸休め】
イチオシスト
私の通う東京藝術大学雅楽専攻に、見学で来ている外国人学生が何人かいる。遠い国から日本に留学し、雅楽に興味を持って毎週熱心に稽古の様子を見てくれている。
オーストリア人のソフィーとは去年の春に知り合った。奇特な人だなあと思った。こんな恐ろしくテンポの遅い、何が起きているのかわからないような古い日本の音楽を、にこにこと目を輝かせながら聴いている。話を聞くと、音楽の都ウィーンの出身で、実はハープ奏者なのだと流暢(りゅうちょう)な大阪弁で語った(昔大阪に住んでいたらしい)。ちょうどハープと笙(しょう)のデュオをやってみたいなと思っていたから、夏が終わる頃、試しにちょっと合わせてみようよと誘ってみた。
ソフィーがはじめて音を出した瞬間、ただその1音を聴いただけで、すごく後悔した。
なんでもっと早く彼女の音を聴かなかったんだろう。こんなに豊かで、真摯(しんし)で、哲学の通(かよ)った音が彼女の中にあったのに私は全然気がついていなかった。1音聴いただけでも、これまでソフィーが音楽に捧(ささ)げてきた時間、情熱、思索の膨大さがありありと感じられて涙が出そうだった。
演奏が終わり、最後の音の響きが消えた時にため息とも叫びともつかない声が出た。絶対一緒にやろう、とその日からデュオを組んで、学園祭や、私の地元の江の島のお寺や、蛍の飛ぶ田んぼの前など色々な場所で演奏した。

「私はまだ言葉が完璧じゃなくて・・・。つい、大阪弁が出てまうんやけど」
会場、大ウケである。私なんかよりよっぽどMCが上手(うま)い。ありがたいやら、情けないやら。
10月には神奈川県藤沢の白旗神社で、中秋演奏会に出させて頂いた。中秋の名月の日に合わせて毎年野外で夕方から開催される。その日はあいにくの曇り空。せめて音楽で月を感じましょうと、笙とハープでドビュッシーの「月の光」などを演奏した。最後はドイツ語圏で広く親しまれている「月が出た」という曲。私が笙で伴奏し、ソフィーがハープを弾きながらドイツ語で歌ってくれた。
するとちょうどそのタイミングで、雲が突然切れて明るい月がぽっかり顔を出した。お客さんから、わぁ、と歓声が上がるのが聞こえた。月明かりが差し込む中、2人で満月を眺めながら演奏を続けた。
12月には荒川区ムーブホールで、そして来年6月にはウィーンで演奏予定。2人で見る景色がこれからもとても楽しみだ。
【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No. 45からの転載】

かにさされ・あやこ お笑い芸人・ロボットエンジニア。1994年神奈川県出身。早稲田大学文化構想学部卒業。人型ロボット「Pepper(ペッパー)」のアプリ開発などに携わる一方で、日本の伝統音楽「雅楽」を演奏し雅楽器の笙(しょう)を使ったネタで芸人として活動している。「R-1ぐらんぷり2018」決勝、「笑点特大号」などの番組に出演。2022年東京藝術大学邦楽科に進学。
記事提供元:オーヴォ(OvO)
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