映倫 次世代への映画推薦委員会推薦作品 —「兄を持ち運べるサイズに」
イチオシスト
ダメ兄の死をきっかけに“家族のカタチ”を描く、再生の物語
湯を沸かすほどの熱い愛」(16)や「浅田家!」(20)など一貫して〝家族〞を撮り続け、唯一無二の感動をもたらしてきた中野量太監督。兄の人生の後片付けをすることになった妹の数日間を綴った村井理子のノンフィクションエッセイ『兄の終い』に心動かされた監督が、柴咲コウやオダギリジョー、満島ひかりら日本映画界に欠かせない俳優を揃え、映像化したのが本作だ。
幼い頃から母親に溺愛され大人になってからも経済的に依存、妹の理子には金の無心……。周りに迷惑をかけまくり、自分勝手に生きた兄が急死した。「何で私が……」と重い腰を上げながらも、ふいに脳裏をよぎるのはそんな兄との忘れがたい思い出(いいものも、悪いものも)。そして、ずっと蓋をしていた心の奥深くに語りかけてくる〝自分にしか見えない兄〞の存在。自分は兄が好きだったのか、それとも嫌いだったのか——。

家族とは「支えであり、呪縛ではない」。劇中、何度か出てくるこの言葉に少し心が軽くなる人は多いのではないだろうか。家族だからといって何でも許さなければいけないわけでもないし、壊滅的に気が合わないこともある。理子の言葉を借りれば「家族とは、ひとつ屋根の下に暮らした人」。偶然に偶然が重なり、たまたま家族というチームを形成することになった人間同士。家族について柴咲は「形は別々なはず」、オダギリは「簡単なものではない」、満島は「ひとりひとり違う個性や人生がある」とコメントしている。では自分にとって家族とは何だろうか……と、否が応でも考えずにはいられなくなる。本作を通じてそれぞれが心に思い描いた〝家族〞が、自らを振り返るきっかけや、これからの人生を前向きに歩んでいくヒントになれば幸いだ。
文=原真利子 制作=キネマ旬報社・山田 (『キネマ旬報』2025年12月号より転載)

「兄を持ち運べるサイズに」
【あらすじ】
突如警察から、疎遠だった兄(オダギリ)の急死を知らされた作家の理子(柴咲)。遺体を引き取るため兄が住んでいた東北へ向かった彼女は、兄の元妻・加奈子(満島)と姪の満里奈(青山姫乃)、一時的に児童相談所に保護されている甥・良一(味元耀大)と7年ぶりに再会し、兄を荼毘に付す。そしてゴミ屋敷と化した兄たちのアパートの片付けをするが……。
【STAFF & CAST】
監督・脚本:中野量太
出演:柴咲コウ、オダギリジョー、満島ひかり ほか
配給:カルチュア・パブリッシャーズ
日本/2025年/126分/Gマーク
11月28日(金)より全国にて公開
©2025「兄を持ち運べるサイズに」製作委員会

記事提供元:キネマ旬報WEB
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