雨中の変則プレーオフを制した畑岡奈紗が1295日ぶりの勝利 第一人者ゆえの悩みを克服した26歳が次に目指すもの
イチオシスト
<TOTOジャパンクラシック 最終日◇9日◇瀬田ゴルフコース北コース(滋賀県)◇6616ヤード・パー72>
雨は畑岡奈紗の心にもずっと降っていた。宮里藍が現役を退いた2017年から米ツアーを戦い、新時代をけん引してきた。だが、通算6勝目を挙げた2022年4月の「DIOインプラントLAオープン」を最後に勝てなくなった。
でも、やまない雨はない。パー5の18番をパー3に変更して行われたプレーオフ。1ホール目で2メートルのパーパットを沈めて、復活Vをつかみ取った。突き上げた両手にすべての思いが込められていた。歓喜の涙。そして、茨城の水戸市内でゴルフ工房を営み、今回初タッグとなったジュニア時代から知る木名瀬和重キャディとハグ。朝から降り続く雨はやむことはなかったが、心のなかの暗い雲は消え、晴れやかな笑顔が輝いた。
「緊張して最後のパーパットはどうやって打ったのかも覚えていません。優勝までの期間がこれほど空いたことはなかったので、正直言って焦りもあった。3年間、勝てなかったので、どこか忘れられているような気持ちもありました。辛い時間もあったので、きょう勝てて本当によかった」
スランプに苦しんでいたわけではない。23年は年間女王を決める最終戦「CMEグループ・ツアー選手権」で2位になった。「アムンディ エビアン選手権」は3位、「全米女子オープン」は首位で最終日を出て4位とメジャーでもツメ跡は残した。昨年もトップ10入りは6度。優勝が手に届くところにあった。その分、頂上から見る景色を知っている実力者ゆえの悩みは深くなった。
「悔しい思い出はたくさんあります。最近では23年のペブルビーチの全米ですね。そこで勝てなかったのが一番悔しかった」
勝てない時期に日本からやって来た下の世代が台頭してきた。22年にはプラチナ世代の古江彩佳が初優勝し、23年は1999年度生まれの稲見萌寧がTOTOを制した。昨年は古江がエビアン、2001年度生まれの笹生優花が全米女子オープンで2度目の優勝を果たし、ダイヤモンド世代の竹田麗央がTOTOで優勝。今年は笹生と同学年の山下美夢有、西郷真央がメジャー覇者となり、山下と同じルーキーイヤーの明愛、千怜の岩井姉妹、竹田も早々に結果を出した。
「どこか忘れられているような気持ち」は偽らざる本音だろう。米ツアー9年目を迎えた1998年度生まれの黄金世代の意地も見せつけた3年ぶりの頂点。4月の試合で短い距離から3パットして以降、悩んでいたパッティングは「悪いときはいろいろ考えてしまう」という負のスパイラルをシンプル思考で克服した。「セットアップしたら意識するのはタッチと距離感だけ」。長年の経験による処方箋の多さも黄金世代の武器だ。
降雨によるコースコンディション不良で競技が止まり、2時間の中断の末に最終ラウンドは中止となった。そこからプレーオフまで約1時間半。「クラブハウスのレストランで最初は中断したホールの2打目のことなど考え、時間的に再開は無理かなと思ったあとはプレーオフのことを考えていた」。3日目終了時点でトップに並んでいた7学年下の荒木優奈との最終決戦。「時間の使い方が分からなかった」とうなだれた20歳とは対照的に、心と体を整えてフェアウェイのつま先下がりの“特設ティ”に立っていた。
苦しんだ先にあった米ツアー通算7勝目。「メジャー優勝がないので、そこを目指していきたい」。自信も復活。また強くなった。ツアー10年目を迎える来季こそは念願のタイトルをキャリアに加える。(文・臼杵孝志)
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