暗号通貨詐欺撃退の救世主となるか!? 盗まれた資産の在処(ありか)を割り出す「被害回復サービス」とは?
イチオシスト

他愛のない雑談から脈絡なく仮想通貨のチャートを示し、投資を進めてくるロマンス詐欺師
今年秋に過去最高値を更新したビットコイン。上昇トレンドは続いており、個人投資家から熱い注目が集まっている。
「この3年間で1BTCが200万から1700万円まで急騰し、暗号資産市場はにぎわいを見せています。実物のゴールドも過去最高値を更新していますが、上昇幅は3年間で2倍ほど。さすがに過熱感は出てきましたが、インフレへの懸念も相まって積立投資などで購入している人が増えており、メジャーな投資先となっています」(経済紙記者)
だが、その一方で仮想通貨を媒介した詐欺も急増している。2024年に起きた暗号資産に関わる詐欺被害は世界規模でみると1.5兆円。これは、近年問題になっているタイやカンボジアでの特殊詐欺の増加と相関が深い。
「いまや東南アジアが詐欺の一大拠点となり、世界各国に向けて複数のスキームが展開されています。代表的なのがSNS型投資詐欺やロマンス詐欺。著名人になりすましてSNS広告から接触し、投資話を持ち掛けるのが前者で、日本国内での被害額が急増しており、2024年は700億円超にのぼりました。
ロマンス詐欺はSNSやマッチングアプリを使って標的を捕捉し、ネット空間で恋愛関係に持ち込んでから投資話をもちかける手口ですが、〝相手を太らせてから喰う〟ことからPigButchering(豚の屠殺)と呼ばれており、日本では50~70代の高齢者男性や、婚活女性を中心に被害者が出ています」(前出・記者)
【毎日増えるお金に興奮して有り金をオールイン】いずれの手口でも、詐欺師たちは「被害者からいかに多くの金を安全に巻き上げるか」というスキームを練り上げ、ブラッシュアップし、仕掛けてくる。その巧妙さや狡猾さは「怪しいと思ってても引っかかってしまう」ほど洗練されている。
物流会社に勤める崎田綾香さん(仮名・30代女性)はその毒牙にかかった一人だ。結論からいえば、全財産を詐欺に絡めとられてしまった。
「マッチングアプリで知り合った男性がいて、『素敵だな』と思ったのでLINEのIDを伝え、毎日連絡とるようになりました。彼は商社勤めのエリートサラリーマンで、裕福な暮らしを送っている雰囲気で。『いろんな投資をしているけど、ビットコインがかなり調子いい。綾香さんもやりなよ』と言われて、手ほどきを受けながら口座を開設して入金したんです。最初は30万円ほどでした」(綾香さん)
綾香さんが開設したのは、国内大手の暗号資産取引所の口座だ。この時点ではまったく不信感は抱かず、むしろ良きアドバイザーを得たことに高揚感すら覚えていた。問題は、次のステップだ。
「もっと稼げるやり方があると言われて、『グローバル』という投資サイトに口座を開設し、ここに暗号資産を移しました。すると、30万の元金でも毎日、数万円増えていく。何もしなくても増えていく数字にゾクゾクして、興奮が止まりませんでした。
彼からは『暗号資産は今が稼ぎどき。追加入金するなら早めに』と煽られたこともあり、50万、100万と追い銭を入れてしまった。それでも数字は毎日どんどん増えていって......あっという間に倍になった」(綾香さん)
だが、この『グローバル』というサイトは偽物だった。数字はダミーで、投資の実績はなく、ただ集金用に作られたものだった。綾香さんが「これ以上、追加できる資金はない」と伝えた数日後、〝彼〟からの連絡は途絶えた。典型的なロマンス詐欺だったのだ。
【〝最後の所有者〟を割り出すのが被害回復の第一歩】合計180万円をだまし取られた綾香さんは、「グローバル」に何度も出金申請をかけ、DMを送ったがなしのつぶて。連絡はとれなくなった。警察や弁護士にも相談したというが、今のところ有効な手立ては取れていない。前出の経済部記者が解説する。
「暗号資産は、銀行振り込みよりも資金移動が容易なので、取り締まる側からすると追跡が困難です。元々あった被害者のお金がどこにあるのか、ハッキリしてからでないと警察も動けない。詐欺をする側はこの点を熟知しているので、暗号資産を介した詐欺スキームをあの手この手で繰り出してくるのです」(前出の経済部記者)

匿名性の高さから、一度奪われると奪還は困難といわれる仮想通貨だが、救世主とも言えるサービスが現れた
では、このようなケースで返金の端緒を掴むにはどうすればよいのか。その第一歩は、騙し取られたお金の行き先を割り出すことだ。
「お金の最終地点は、海外の暗号資産取引所だったり、あるいは詐欺師個人のウォレットだったりします。詐欺師は簡単には追跡されないよう、ブリッジやスワップといった手法で隠ぺいを行いますが、ビットコインの特性として〝所有者の履歴〟を辿ることは、手間をかければできる。まずはここから始めるのが、暗号資産詐欺の被害回復のセオリーです」
そう語るのは、仮想通貨詐欺返金支援センターの西田祥太さん。これまで、2000件もの被害回復にあたってきたこの道のエキスパートだ。
「国内でも海外でも、弁護士から暗号資産取引所に情報開示や返金を求めても何もしてくれない。それが現状です。警察からの要請でのみ、突破口は開けます。それに必要なのが最終地点の割り出しなんです。
暗号資産の取引には、〝トランザクション〟といって取引履歴が都度発行され、これを丹念に追っていくことで最終地点を割り出すことができる場合があり、私たちはその調査を行っています。首尾よく割り出せたら、被害者の方から警察に行って、詐欺師の口座やウォレットをロックする。もしここに暗号資産が残っていたら、返金の可能性が出てきます。残っていない場合でも詐欺師が逮捕に至れば、示談交渉で返金されるケースもあります」(西田さん)
たった一回の過ちで、全財産を失いかねない暗号資産詐欺。今後、AIによる画像や映像生成によってこの市場はより膨らむことは容易に想像できる。相手の手口を知り、また対策を知ることでしか防衛はできない。
文/新田勝太郎 写真/photo-ac.com 関係者提供
記事提供元:週プレNEWS
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