「ドレミファ娘の血は騒ぐ」の伊丹十三の役名から黒沢清を読み解く キネマ旬報YouTube〈あの懐かしの映画を語ろう〉第4回(後編)
黒沢清の「ドレミファ娘の血は騒ぐ」はロマンポルノになるはずだった──
9月19日(金)から配信された「キネマ旬報」公式YouTubeチャンネルのオリジナル番組〈あの懐かしの映画を語ろう〉の第4回の前編。そこでは、ピンク映画「神田川淫乱戦争」(1983年)で商業映画デビューを飾った黒沢清の『気持ちのいい歪み』に才気を見出した山田氏が、ロマンポルノの苦境を打破するために監督を任せ、圧倒的な存在感を放つ洞口依子をヒロインに、伊丹十三が出演した「女子大生 恥ずかしゼミナール」が、ロマンポルノとしては成立しなかったことが語られた。
〈前編の視聴はコチラから〉
本日配信となった後編では、前編から引き続き洞口依子についてスタート。ディレクターズ・カンパニーの事務所の隅っこで本ばかり読んでいた姿が強く印象に残っていると、懐かしげに語る山田氏。その後の彼女は、本作の共演も縁となり、伊丹十三の監督作「タンポポ」(1985年)、「マルサの女2」(1988年)、「あげまん」(1990年)に出演することになる。
続いて話は黒沢監督について。山田氏は伊丹十三が演じた教授の名前〈平山周吉〉が、「東京物語」で笠智衆が演じた役名と同じであることに着目。小津監督作品において笠智衆は、周平、周吉という名前の男を何度も演じているのだが、「ドレミファ娘の血は騒ぐ」の伊丹が演じた教授の名前〈平山周吉〉はそこから取っていると推測する。さらに、小津作品の会話のシーンでの、ワンフレーズ・ワンカットをバストショットで切り替える特徴的な撮り方を、黒沢監督はアレンジして、横顔のカットバックを撮っているのではないかと指摘。伊丹の役名と合わせて、その撮り方から『小津監督の薫陶を受けているぞというアピール』だろうと解説する。
ロマンポルノとして世に出るはずだった「女子大生 恥ずかしゼミナール」はにっかつでは大問題を引き起こし、図らずも一般映画として公開された「ドレミファ娘の血は騒ぐ」。追加撮影したシーンについて『何のために付け足したのか未だに分からない(笑)』という山田氏だが、これが思わぬヒットを上げたというのは皮肉な話。ディレクターズ・カンパニーの社長・宮坂氏から聞いた話では、ディレクターズ・カンパニーの作品で唯一の黒字作品だったそうだ。
番組終盤には、オールラッシュを観た後、あまりの悔しさに『ロマンポルノなめてるのか』と、監督を相当責めてしまったことに対して後悔の念を口にする山田氏。今にして思うと、「女子大生 恥ずかしゼミナール」を上映していれば、ロマンポルノも違った展開を見せたかもと言う……。そして、この作品が山田氏自身のにっかつでの立場を危うくしてしまったことに話は及ぶ。『ぼくの転落人生』と笑いながら話すが、実際のところは相当大変だったことは想像に難くない。天敵・死神と呼ぶ本部長からの締め付けや、他の作品でも興行的な失敗が続き、にっかつを去ることになる山田氏だが、その後、自ら会社を立ち上げ、引き続き映画やドラマの製作に関わっていく──。
“その後”の話は、すでに配信されている本シリーズの第2回「私をスキーに連れてって」、第3回の「ベッドタイムアイズ」で語られているので、今回の後編と合わせて、ぜひお楽しみいただきたい。
文・制作=キネマ旬報社
キネマ旬報公式YouTube 〈あの懐かしの映画を語ろう〉
第1回「家族ゲーム」
前編:https://youtu.be/MQdGi9lI2ZM
後編:https://youtu.be/ZPkQQ0ZCdJo
第2回「私をスキーに連れてって」
前編:https://youtu.be/DTmZNlDRplQ
後編:https://youtu.be/cLEuN8b0nRA
第3回「ベッドタイムアイズ」
前編:https://youtu.be/dIt0TQOmneU
後編:https://youtu.be/n6AHw9X3_jg
第4回「ドレミファ娘の血は騒ぐ」
前編:https://youtu.be/h7D5bTySzks
〈今後の配信予定〉
「死んでもいい」
「木村家の人びと」
「ドレミファ娘の血は騒ぐ」
監督:黒沢清
脚本:黒沢清、万田邦敏
企画:丸山茂男、宮坂進
プロデューサー:山本文夫
撮影:瓜生敏彦/照明:片山竹雄/ 録音:銀座サウンド/編集:菊池純一/ 音楽:東京タワーズ、沢口晴美/助監督:万田邦敏
出演:洞口依子、伊丹十三、麻生うさぎ、加藤賢崇、暉峻創三、岸野萌圓 勝野宏
1985年/日本/80分
©EPIC・ソニー/ディレクターズ・カンパニー
記事提供元:キネマ旬報WEB
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