メンバー自ら“起源”を語る時が来た──映画「レッド・ツェッペリン:ビカミング」
1969年にデビューアルバムでいきなり世界を熱狂させたレッド・ツェッペリン。その起点というべき時期に、何があったのか? ジミー・ペイジ(ギター)、ジョン・ポール・ジョーンズ(ベース/キーボード)、ロバート・プラント(ヴォーカル)のインタビューに今は亡きジョン・ボーナム(ドラムス)の音声を交え、ライブ映像からプライベート写真まで盛り込んで紐解くメンバー初公認ドキュメンタリー「レッド・ツェッペリン:ビカミング」が、ついに9月26日に公開された。
レッド・ツェッペリンの出発点を描いた、メンバー初公認ドキュメンタリー
生年月日を調べてみたら、ジミー・ペイジが1944年、ロバート・プラントが1948年、ジョン・ポール・ジョーンズが1946年、ジョン・ボーナムが1948年。だから「レッド・ツェッペリン:ビカミング」でインタビューに答える(他界したボーナムを除く)3人の年齢は、80歳前後だ。今にしての、いや、きっと今だからこそのメンバー初公認ドキュメンタリーは、4人の生い立ちからバンドのブレイクまで辿っていく。
映像や写真で振り返る彼らは若く、ミュージシャンとして早々に頭角を現したり苦労を強いられたりとエピソードは興味深い。ペイジはプラントを紹介され、プラントはボーナムを推薦し、ジョーンズはペイジにコンタクトを取り、レッド・ツェッペリンが結成された。4人で初めて演奏したのは、ペイジがかつて在籍したヤードバーズでも弾いていた『トレイン・ケプト・ア・ローリン(Train Kept A-Rollin)』だったという(映画「欲望」でのヤードバーズの演奏シーンが挿入される)。そしてアルバムを制作し、アメリカへ飛んでアトランティック・レコードと契約。アメリカツアーで火がつき、母国イギリスでも人気を拡大していった。
時と場所を超え、大きな物語を紡ぐ
『胸いっぱいの愛を(Whole Lotta Love)』はシングルの発売を阻止するためにアヴァンギャルドなパートを差し込んだ、など楽曲の秘話も面白い。ライブシーンが登場する曲は、『ハウ・メニー・モア・タイムズ(How Many More Times)』『コミュニケイション・ブレイクダウン(Communication Breakdown)』『幻惑されて(Dazed and Confused)』など。プラントのシャウトとボーナムのドラムの迫力は今さら説明不要だ。
ペイジのギターが牽引し、ジョーンズのベースが支える。呆気にとられる観衆、耳を塞ぐ子ども、そんな名もなき人々の表情も忘れがたい。とんだ衝撃に立ち会ってしまった彼らの人生は、どうなっていくのか。今もツェッペリンは心の中で燃えているか、それとも灰になってしまったか。また、ライブに立ち会う機会なくレコードやCDやVHSで追いすがってきた世界中のファンにとっての事情はどうか──。映画はメンバー4人だけでなく、観客それぞれの時を超えた物語も立ち上げそうな勢いだ。
ツェッペリンは空間も自在に突っ切る。飛行船のように高く、『トレイン・ケプト・ア・ローリン』というくらいだから列車のようにどこまでも。作中ではバンドの出来事と、その時々の世界情勢をめぐるニュース映像がモンタージュされるが、終盤に出てくるのはアポロ11号の月面着陸だ。ツェッペリンとアポロ、時代が立体的に再生され、イメージが大気圏外まで膨らむ。タイプは違えど2つのワイルドな知性と情熱が同時期に打ち上がった事実に「おおっ!」となる。
序章の物語をいま語ることの感慨
映画「スクール・オブ・ロック」でジャック・ブラック演じる型破りな“教師”は、子どもたちがツェッペリンを知らないことに「学校は何を教えてるんだ!」と憤慨した。アームストロング船長は授業で教わっても、ジミー・ペイジはきっとテストに出ない。ならば「レッド・ツェッペリン:ビカミング」こそが教科書だ。……と言いたいが、映画の内容あくまでバンドの“序章”で、2時間強の尺で辿るのはセカンドアルバムの時期まで。その先はどうなっているのか。
思いがけず過去の映像や生前のボーナムの音声に触れたジョーンズ、プラント、ペイジが顔を綻ばせるシーンがある。目尻を走る長い皺は、まだまだ物語が続くぞと示唆するようだ。そして、そんな感慨を呼ぶことこそ、歳を重ねたメンバーと映画で出会った意味であると。
文=広岡歩 制作=キネマ旬報社

「レッド・ツェッペリン:ビカミング」
9月26日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷ほかIMAX®同時公開中
2025年/イギリス・アメリカ/122分
監督・脚本:バーナード・マクマホン
共同脚本:アリソン・マクガーティ
撮影:バーン・モーエン
編集:ダン・ギトリン
出演:ジミー・ペイジ ジョン・ポール・ジョーンズ ジョン・ボーナム ロバート・プラント
配給:ポニーキャニオン
©2025 PARADISE PICTURES LTD.
公式HP:https://zep-movie.com/
記事提供元:キネマ旬報WEB
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