フォール・シリーズ初戦が“練習試合”に…? 「考えさせられる秋」の到来【舩越園子コラム】
PGAツアーのプレーオフ・シリーズは、トミー・フリートウッド(イングランド)が最終戦のツアー選手権を制して悲願の初優勝を挙げ、年間王者に輝くという素晴らしい締め括りになった。
今季は、スコッティ・シェフラー(米国)がメジャー2勝を含む年間5勝を挙げ、ローリー・マキロイ(北アイルランド)が悲願のマスターズ初制覇を果たしてキャリアグランドスラムを達成するなど、ビッグな出来事が多々あった。
その一方で、フリートウッドは何度も勝利に手を伸ばしながら惜敗を繰り返してきた。しかし、どんなときもグッドルーザーであり続けた彼に最後の最後で光が当たったことは、なかなか評価されなかったプレーオフ・シリーズとフェデックスカップに久しぶりに誕生したグッドストーリーだった。
PGAツアーでは来週からフォール・シリーズが始まろうとしている。その第1戦はカリフォルニア州ナパのシルベラード・リゾートで開催される「プロコア選手権」だが、今、米ゴルフ界ではこの大会に起ころうとしている「異変」が取り沙汰されている。
今年は2年に1度の米欧対抗戦ライダーカップの開催年で、9月26日から28日の3日間、ニューヨーク州ロングアイランドのベスページで熱戦が繰り広げられる。
しかし、米国チームのキャプテン、キーガン・ブラッドリーは、プレーオフ最終戦の「ツアー選手権」終了から4週間を経てライダーカップが開催されるというスケジュールに着目した。12名のチームメンバーが、この4週間のオフの間に試合勘を損なうことを恐れたのである。
そこでブラッドリーが考え付いた妙案が、その間に唯一開催されるフォール・シリーズ第1戦のプロコア選手権にチームメンバー全員を出場させてウォーミングアップを図る、というものだった。
「プロコア選手権に出て、オフでたまる鈍りを払い落とそう」。ブラッドリーの呼びかけに応じ、12名のうち10名が早々にプロコア選手権にエントリーした。フォール・シリーズの大会にトッププレーヤーが大勢出場することは、通常ならほぼ無い。だが今年のプロコア選手権にはシェフラーやジャスティン・トーマス、コリン・モリカワといったメジャー覇者が勢揃いするとあって、大会関係者や地元ファンは大喜びしている。
では、なぜ12名ではなく10名なのか。米スポーツイラストレイテッドによると、ザンダー・シャウフェレは「プロコア選手権に僕らが出ることが、本当に期待されているとは思えない」と語り、エントリーをためらっているという。彼の真意は不明だが、想定されているのは次の2つのパターンだ。
フォール・シリーズの大会には来季のシード権争いや優先順位の競い合いといった意義がある。それなのにライダーカップ選手が大勢で押しかけ、練習ラウンドの場と化してしまったら、大会本来の在り方をないがしろにすることになるのではないか。もしシャウフェレがそう考えているのなら、なかなか思慮深い判断だと感心させられる。
シャウフェレは米国チームで唯一ツアー選手権に進めなかった。そのため「僕だけ1週間オフが長い」と語っているが、それでもプロコア選手権には出るべきではないと考えているようだ。
しかし、それは建前に過ぎず、本音はライダーカップに対する何らかの抗議ではないか、との見方もある。前回大会の際もライダーカップの「お金の流れ」に抗議して、パトリック・カントレーがキャップを被ることを拒否し、シャウフェレの父親が暴露的発言をしたことが騒動につながった。
今、プロコア選手権への出場を迷っているシャウフェレの胸の内に、そうした抗議的な目論見があるのかどうか。エントリー締め切りは9月5日午後6時(米東部時間)である。
もう1人エントリーしていないのはブライソン・デシャンボーだ。LIVゴルフ選手である彼は、PGAツアーの大会にエントリーしたくても許されない状況にある。
だがデシャンボーはライダーカップ・ランキング6位で、早々にチーム入りが決まった主力メンバーの一人。ライダーカップの際は、ゴルフファンに限らず米国民全体がデシャンボーを含めた米国チームに熱い声援を送ることになる。
昨今、世界のトッププレーヤーが一堂に会する場と機会を創出することは「ゴルフ界全体の望み」「必要不可欠だ」と言われている。だが、それでもPGAツアーはLIVゴルフ選手を素直に受け入れることができずにいる。しかし、こんな特殊な状況を迎えている今こそ、デシャンボーをプロコア選手権に招待出場させるといった特例を設け、それを機にPGAツアーにリブゴルフ選手をカムバックさせる方向へシフトしてもよいのではないかと思わずにはいられない。
「何が起こるかわからない」「不可能なことなど何ひとつない」をキャッチフレーズに掲げてきたPGAツアーなのだから、フォール・シリーズがライダーカップの練習ラウンドになることもあれば、ライダーカップの特殊状況を逆利用してリブゴルフとの懸案を解決することも、あってよいのではないか。「考えさせられる秋」の到来である。
文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)
<ゴルフ情報ALBA Net>
記事提供元:ゴルフ情報ALBA Net
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。