「トクリュウ×ヤクザ×中国系マフィア」の巨大犯罪グループが爆誕していた!
暴力団事務所の家宅捜索をする捜査員ら。トクリュウと協力関係にあるとして、暴力団に対する締めつけが強くなっている
闇バイトで世間を大きく騒がせている「トクリュウ」。そんな彼らと裏社会で手を組んでいるとして、暴力団事務所への捜査・摘発が増加している。
ところが、日本国内で融合した両者は海外にまで手を伸ばし、悪名高い中国系マフィアとも癒着しているという。三位一体の巨大犯罪グループの実態に迫った。
■「トクリュウファースト」警察庁長官が大号令組織の実態を持たず、インターネットなどを通じて集めたメンバーによる犯罪行為を繰り返す「トクリュウ(匿名・流動型犯罪グループ)」。
彼らの最大の特徴は匿名性と自由度の高さであったが、ここにきて暴力団、いわゆるヤクザとの結びつきの強まりが顕著になってきた。代紋への拘泥とがんじがらめのおきてで構成員を統率するヤクザ組織との、アンマッチな結合の背景に迫った。
今、トクリュウとヤクザの融合をうかがわせる事件報道が相次いでいる。
大阪・ミナミで客引きをしていた男性に対し、呼び出したトクリュウの男らと共謀し、「この場所でキャッチをするな」「殺したれ」と脅迫したとして、大阪府警は6月、暴力行為等処罰法違反の疑いで特定抗争指定暴力団山口組直系の一心会会長・能塚恵容疑者ら男5人を逮捕した。
また、愛知や大阪で活動したトクリュウ「ブラックアウト」(6月に解散届を提出)の〝ケツモチ〟をしていたとして、同じく大阪府警が三重県内の山口組直系弘道会傘下の組事務所を家宅捜索した。全国紙社会部記者が解説する。
「若い不良がヤクザの道には進まず、トクリュウとしてヤクザと密接な距離を保っている現状がうかがえます。2024年12月、当時の警察庁長官が全国の警察幹部を集めた会議で、トクリュウを『日本の治安対策上の最大の脅威のひとつで、国民の体感治安に大きく影響を及ぼす要因』とハッパをかけました。
そして『組織犯罪対策の軸足を、暴力団からトクリュウにシフトすべき転換期にある』として、資金源の解体と中枢メンバーの検挙を号令しました。つまり、組織犯罪捜査の力点を従来のヤクザから『トクリュウファースト』へ移行するという画期的な路線変更の表明です。
警察はその前後から、ヤクザではない不良グループの逮捕発表では軒並み『トクリュウ』と呼称しており、摘発アピールに躍起です」
今年1月、仮装身分捜査の導入を発表した露木康浩元警察庁長官。警察は5月にこの捜査法で容疑者の検挙に成功した
ただ、組織犯罪対策部(組対部)のやみくもなトクリュウ認定には、現場でも困惑の声が広がっている。東日本にある警察本部の刑事部捜査1課で殺人事件などの捜査に当たる捜査員が冷ややかに語る。
「そもそも、トクリュウとは『ルフィグループ』のように明確な組織を持たず、SNSを通じて見ず知らずの者を勧誘し、詐欺や強盗、窃盗といった犯罪を起こして、犯行が終われば解散して別のメンツで新たな〝プロジェクト〟に移行していくという行き当たりばったりに悪さをしていく連中のことだったはず。
例えば一心会の件は、以前であれば『準構成員』や『半グレ』と呼ばれていた地元の不良を使って脅した事件で、こいつらをひとくくりに『トクリュウ』と呼ぶのは違和感がある。
要は、新しい犯罪集団が跋扈(ばっこ)しているというイメージをつくって、組対部が人員拡充と予算要求をしたいだけのように映るんです。実際、警察庁と警視庁には、トクリュウ対策の新部署ができるようですしね」
裏社会事情を学術的に研究する社会学者でノンフィクション作家の廣末登氏も、安易なトクリュウ認定に疑問を投げかける。
「暴力団や半グレは『属性要件』といって、特定の組織に属しているかどうかが判断の基準になる。一方で、トクリュウは匿名で流動型の犯罪を行なうという『行為要件』で見極める必要がある。しかし、今の警察の認定方法はこの基準に照らしてみると、雑だと感じます」
■ヤクザとトクリュウの危険な依存関係明確な組織を持たないがために、その実態がつかみにくいトクリュウ。暴力団関係者のA氏は、ヤクザとの関係を踏まえながら次のようにとらえる。
「トクリュウをひと言で言えば、テレグラムやシグナルのような匿名アプリを使って犯罪を行なうヤツら。そんなトクリュウと、暴排(暴力団排除条例)でシノギが乏しくなったヤクザの共通項は、特殊詐欺に尽きます。
特殊詐欺は国内の取り締まりが厳しくなったし、海外のほうがかけ子たちを監督しやすいということで、拠点を日本国内から東南アジア、特に最近はカンボジアへ移していて、一説には1000人近くも滞在しているという。
そうなると、海外にアジトを設けて電話回線を用意し、日本から海外までやって来るかけ子を募り、そいつらのためにメシと住まいを手配し、マネロンや海外送金の手段を整えたりと、国内でやるよりも煩雑な作業が必要となる。
こういったことは暴力と脅しに特化してきたヤクザの範疇を超えているので、トクリュウに委ねて、ケツモチとして上前をはねようとなります。名だたるヤクザはどこも、海外での特殊詐欺に関わっていると言ってもいいでしょう」
こうした見方に、前出の廣末氏が補足する。
「トクリュウも、ヤクザの安全保障の下にいれば、ほかのヤクザや犯罪グループの襲撃を防げる。こうして両者は依存関係を深めています。
彼らが行なう特殊詐欺の現在の主流は、SNS投資詐欺と国際ロマンス詐欺です。私が実際にロマンス詐欺にダマされたふりで調査した際は、世界の紛争地帯で活動する国連の女性医師で、日系アメリカ人という肩書の人物が現れましたが、きちんと偽造身分証を用意するなど周到な準備がなされていました。
また、かけ子のトーク力も熟練の域に達しています。甘えてきたり、かと思えば突然怒ったりと〝感情のジェットコースター〟で相手を翻弄し、金を引っ張る技術を磨き上げている。最近は、1件当たりの被害額の平均が1000万円ともいわれています。
ヤクザ・トクリュウ側は、架空の身分証を使って接触してくる『仮装身分捜査』まで駆使するようになった日本警察に、こうした手だれを捕まえられたくない。だから、捜査の手が及びにくい海外を拠点化しているという事情があるようです」
暴力団が関係を深化させるのは、トクリュウだけではない。警視庁は今年6月、暴力団員の身分を隠して23年3月に山梨県内のホテルに宿泊したとして、住吉会系2次団体総長と、中国残留日本人の2世によって結成された日本の首都圏を拠点とする準暴力団「チャイニーズドラゴン」の幹部の男ら5人を逮捕した。
このホテルでひそかに行なわれていたのは、住吉会の幹部と香港系マフィア組織「14K」の構成員との五分の兄弟盃だった。前出の社会部記者が語る。
「14Kは、香港マフィアの『香港三合会』のひとつ。香港やマカオを本拠に、アメリカや南米、ヨーロッパに拠点を持ち、構成員は数万人規模とみられます。この14Kと住吉会系2次団体との間で仲介や通訳を担ったのが、チャイニーズドラゴン幹部です。
この盃事があった23年は、沖縄の暴力団旭琉會(きょくりゅうかい)の幹部が、台湾の任侠団体『華松山(かしょうざん)』のトップに就任。継承式が沖縄で開かれ、台湾マフィアが来沖するなど、ヤクザが国際化を深化させた一年でした」
日本の暴力団と中国系マフィアの接近に、廣末氏は危機感を募らせる。
「両者は以前から麻薬取引で関係がありましたが、近年ビジネスパートナーとして結びつきを深めているように見受けられます。彼らのビジネスの象徴が、東南アジアにおける特殊詐欺です」
90年代末に日本で勃興したオレオレ詐欺を端緒とする特殊詐欺は、今や中国系マフィアにとっても重要な資金獲得源になっている。
ミャンマー東部のタイ国境地域における中国系国際詐欺組織の拠点に高校生を含む日本人らが軟禁され、暴力支配の下、特殊詐欺に従事させられていたという今年初頭のニュースは記憶に新しい。
「日本人はSNSでの『海外でテレアポをやりませんか』といった誘い文句に乗って海外に渡り、アジトに連れ去られて詐欺に加担させられた。こういうリクルート活動が、SNSを熟知したトクリュウならではのシノギです」(前出・A氏)
恐ろしいのは、こうした誘いの行き着く先が詐欺への加担だけにとどまらないことだと廣末氏は指摘する。
「詐欺従事の先にあるのが人身売買と臓器売買です。近年、中国の医療技術が進化し、臓器移植が流行しています。例えば、中国政府から厳しい弾圧を受けている気功集団の『法輪功』は、拷問の末に臓器摘出されていると訴えています。それを犯罪グループが行なっていても不思議ではありません。
今回のミャンマーの事件で誘拐・監禁された中国人俳優は、顔や腹は殴られず、足を叩かれたり、電気ショックといった暴行を受けたと明かしています。これは、臓器を傷つけないためのせっかんでしょう。このような、詐欺だけでなく生命にまで危険が及ぶ犯罪を下支えしているのが、トクリュウなのです」
今年4月の会見で国が重視する施策を発表した石破茂首相。闇バイト対策もそのひとつだ
悪質極まりない犯行を担うトクリュウだが、その裾野の広さが社会の脅威となる。
「ヤクザとしては食っていけず、かといって現役組員として特殊詐欺に関わると組織に迷惑がかかるので、偽装離脱する組員たち。また、暴力団を脱退したものの社会復帰できない人たち。トクリュウは、あらゆる犯罪で金儲けをしようと考える連中の受け皿になっているのです」
暴排の波の中でシノギを失った暴力団が、任侠といったメンツをかなぐり捨ててたどり着いた特殊詐欺という金脈。彼らの補完勢力として台頭してきたトクリュウだが、その獲物は犯罪の国際化も相まって金銭だけにとどまらず、人命にまで及び、危険度が高まっている。
取材・文/武田和泉 写真/時事通信社
記事提供元:週プレNEWS
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