米進出とともにクラブ変更にも挑戦 山下美夢有の全英制覇をサポートした日米クラブ担当者の協力体制
先週、海外メジャー「AIG女子オープン」(全英)で山下美夢有が優勝を成し遂げた。クラブセッティングをともに作り上げているダンロップ(住友ゴム工業)のツアーレップ“ふたり”も、その勝利を会場で見届けた。
昨年まで日本ツアーを戦っていた山下は、今年から米ツアーへと主戦場を移した。そのため、日本女子ツアーでクラブを担当する同社の鎌田将太氏から、米女子ツアー担当で米国在住の山脇翔平氏にバトンタッチ。「(米転戦で)日本にいる期間が少ないので、米国で対応してもらっています。山脇とはめちゃくちゃ連絡を取っていて、2週間に1回はオンラインでミーティングをしています。山下選手を含め、ダンロップ契約選手についての意見交換をして、日米でサポートしています」(鎌田氏)と、いまの体制を明かす。
「山下選手は球筋を大事にしていて、日本ツアーでは右に出て返ってくる球を全番手で求めていました。特に、ドライバーの調整は常に行っていました」。鎌田氏がこのように昨年までの山下の“好み”を話すと、同じような言葉が山脇氏からも聞こえてくる。「LPGAだとツアーバンが他のメーカーと共有で狭いので、アイアンのセットが組みづらいんです。なので、ウッド系がメーンになります。“ドローボールでキャリーが出る”ということを大事にされています」と山脇氏は話す。
2勝を挙げた昨年は、同社の前モデルのドライバーを使用していたが、12月に行われた米最終予選会(Qシリーズ)で、いきなり最新モデル『スリクソン ZXi』を投入した。“キャリーが欲しい”というリクエストに応えるために、急きょ組まれた1本。日本でテストした際にも感触は悪くなかったのだが、シーズン中は“女王戴冠モデル”を継続使用。そのため、直前でバッグインを決めたことには、山脇氏も驚いたという。
「日本ツアーではキャリーが出なくてもランが出れば、転がって飛距離を稼げるんですが、米ツアーだとフェアウェイバンカーが効いていたりして、キャリーもある程度出てほしいんです。ドライバーでは常に飛距離を求めています。ちょこちょこいじって、新しいことを試して、合わなかったら戻して…を、毎週繰り返して取り組んでいます」(山脇氏)。コースの違いから一概に比較はできないが、昨年日本で236.36ヤードだったドライビングディスタンスは、フェアウェイキープ率78~79%をそのままに245.22ヤードに伸びている。
米ツアー挑戦にあたり、山脇氏は山下にあることを持ちかけた。「もともとアイアンは“5”を使用していましたが、Qシリーズを終えて、ソール幅がより小さい“7”のテストを提案しました。米国は日本に比べて地面が硬く、ボールが沈みます。打ち込むようなゴルフをするためには、ソール幅が大きいと跳ねてしまうんです」。その提案をもとに、鎌田氏ら日本チームが調整を担当。プロ入りからかねて“5”を愛用してきた山下だが、オフシーズンに調整をし、『スリクソン ZXi7』に変更した。14本すべてを米国仕様にアップデート。こうして海を渡った。
「“5”は2つの素材を合わせて作られているので、当たったときに弾き感があって飛距離が出ます。“7”はひとつの鉄で作られているので、吸収して打感が良い。山下選手の変更は意外とすんなりでした。女王になったセッティングから、新しいことに挑戦するタイミングでクラブ変更にも挑戦しました。“7”に替えたのは、環境の変化が大きいと思います」(鎌田氏)。ちなみに契約フリーで開幕時にはアイアン『スリクソン ZXi5』を使用していた渋野日向子も、途中から『ZXi7』にスイッチしている。
米国に来てからも、クラブへの挑戦意欲は止まらない。開幕時から使用する最新ウェッジ『クリーブランド RTZ』は、6月「ショップライトLPGAクラシック」から「見た目、打感によるもの」とメッキからノンメッキに変更。さらに4番ユーティリティに代わるクラブとして、高さが出て止まるようにと、7番ウッドも併用するようになった。「お父さんがコーチを務めていますが、クラブに関しては基本的に1対1で話をしています。良いものは良い、悪いものは悪いとキッパリ。データ派ですね」(山脇氏)。
2度の日本ツアー女王戴冠も現地で見守っていた鎌田氏、今年からメインサポートを務める山脇氏は、ともにこの歴史的快挙をサポートできたことをよろこんだ。日本チームと米国チームが協力し、日米の両体制で密にコミュニケーションを図ってきたことが、山下の細かいフィーリングやリクエストに対応できた大きな理由のひとつだろう。(文・笠井あかり)
【山下美夢有の全英制覇セッティング】
1W:スリクソン ZXi(9.0°/スピーダーNXグリーン40SR)
3W,5W:スリクソン ZX MkII(15,18°/スピーダーNXグリーン50SR)
4,5UT:スリクソン ZX MkII(22,25°/ベンタス ブルー7S)
6I:スリクソン ZXi5(ダイナミックゴールド85 R300)
7I~PW:スリクソン ZXi7(ダイナミックゴールド85 R300)
48°:クリーブランド RTZ(ダイナミックゴールド85 R300)
52,58°:クリーブランド RTZ(ダイナミックゴールド95 R300)
PT:テーラーメイド スパイダー ツアーX
BALL:スリクソン Z-STAR XV
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