狂犬病の犬が、逃げ場のない母と子に襲いかかる スティーヴン・キング原作の動物ホラー 『クジョー』
飯塚克味のホラー道 第128回『クジョー』

以前、『チルドレン・オブ・ザ・コーン』(1984)の回でも書いたが、1980年代は右を見ても左を見てもスティーヴン・キング原作のホラー映画ばかりだった。キングの人気と共に、視覚効果や特殊メイクのレベルがグンと上がり、実現不可能とされていた映像が作り出せるようになったことがその映画化を後押ししたのだが、もちろん全ての映画やドラマが成功した訳ではない。中には公開時に散々な結果になってしまい、誰もが忘れ去ろうとした頃に、再評価されるようになったものも多い。今回、紹介する『クジョー』(1983)もそんな一本だ。
日本での公開は1984年4月7日。ちょうど春休みが終わったタイミングなのだが、この時の春休み映画で一番ヒットした洋画が、ジャッキー・チェンの『プロジェクトA』(1983)。その他には『ジョーズ3-D』(1983)やブルック・シールズ主演の『サハラ』(1983)などもあったが、あまりパッとせず、大きな宣伝をされなかった『クジョー』も丸の内ピカデリーという大劇場での公開にもかかわらず、記録的な不入りで、わずか1週間で打ち切られてしまった。
内容はというと、町はずれにある自動車修理工に、調子の悪い車を直しに来た母子が、狂犬病の犬に襲われ、車の中から脱出できなくなるという話。巨大なサメやワニが出てくるわけでもなく、密室劇的な展開なので、映像表現的にも限られた世界になってしまい、宣伝的にも難しいと判断されたのだろう。

監督は『アリゲーター』(1980)を成功させていたルイス・ティーグ。ドラマ部分を丁寧に描くことで、後半のパニック描写を盛り上げていたが、本作でも犬に襲われる女性の背景をしっかり描写することで、後半、夫が出張でなかなか助けに来られないことなど、納得の展開が楽しませてくれる。撮影は『スピード』(1994)や『ホーンティング』(1999)の監督も務めたヤン・デ・ボン。うだるような暑さを感じさせ、襲い来るクジョーの怖さもしっかり伝えてくれる。また追い詰められていく母親と息子がいる狭い車内を内側から一周するミラクルショットも見せてくれる。今のような小型のデジタルカメラがない時代、どのような技法を使ったかはメイキングで明かされるので、ぜひチェックしてもらいたい。
ヒロインの母親を演じるのは本作のちょっと前の『E.T.』(1982)でエリオット少年の母親を演じたディー・ウォレス。炎天下の車中で、ぜんそく持ちの息子を守るため、クジョーと戦う決意をする母親を気丈に演じている。車から出られなくなり、自身の病気とも戦うことになる少年タッドを演じたのはダニー・ピンタウロ。意識を失いかける場面など、子役と思えない演技を見せてくれる。映画への出演は少ないが、本国ではテレビなどで今も活躍している。
この度、リリースされたブルーレイは4Kレストアされたマスターを採用し、非常にクリアな画質になっている。修理工のある田舎の風景や、主人公一家の生活感、そして何より狂犬病にかかって、よだれを垂らし、悪魔のような姿に変貌したクジョーの姿など、その場にいるような感覚で映画を楽しめるはずだ。英語音声も5.1hにリミックスされ、クジョーが襲いかかる場面などは飛び上がりそうになる迫力となっている。特典も監督の音声解説や、2007年製作のメイキング・ドキュメンタリーなど充実の内容だ。
すでに春にアナウンスされているが、本作はNetflixから同じ原作で、再映画化をすることが発表されている。どのような作品になるのか未知数だが、完成前に本作をチェックしておくことはホラーファンにとっては欠かせないはず。是非、BDを入手して、作品を楽しんでもらいたい。
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飯塚克味(いいづかかつみ)
番組ディレクター・映画&DVDライター
1985年、大学1年生の時に出会った東京国際ファンタスティック映画祭に感化され、2回目からは記録ビデオスタッフとして映画祭に参加。その後、ドキュメンタリー制作会社勤務などを経て、WOWOWの『最新映画情報 週刊Hollywood Express』の演出を担当した。またホームシアター愛好家でもあり、映画ソフトの紹介記事も多数執筆。『週刊SPA!』ではDVDの特典紹介を担当していた。現在は『DVD&動画配信でーた』に毎月執筆中。TBSラジオの『アフター6ジャンクション』にも不定期で出演し、お勧めの映像ソフトの紹介をしている。

【商品情報】
・作品名:クジョー 4Kレストア版
・発売日:好評発売中
・価格:6,800円 (税抜)
・発売元:是空/ハピネット・メディアマーケティング
・販売元:ハピネット・メディアマーケティング
・(C)表記:© 2024 Paramount Pictures, All Rights Reserved.UNDER LICENSE FROM PARAMOUNT HOME ENTERTAINMENT INC. LAYOUT AND DESIGN
記事提供元:映画スクエア
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