宮藤官九郎脚色の新たな代表作、菅田将暉主演のヒューマン・コメディ! 映画「サンセット・サンライズ」
東京のサラリーマンがコロナ禍のリモートワークを機に、東北の宮城県・南三陸へ“お試し移住”してみたことから、新たな生き方や自分なりの幸せのカタチを見つけていく、菅田将暉主演のヒューマン・コメディ「サンセット・サンライズ」。宮藤官九郎による脚本ならではの笑いと感動に心を揺さぶられる本作のBlu-rayとDVDが、7月9日にリリースされる(レンタルDVD同時)。ドラマ『不適切にもほどがある!』(24)『あまちゃん』(13)など、独創的なオリジナル脚本で注目を集めてきた宮藤だが、映画「GO」(01)やドラマ『季節のない街』(23)『池袋ウエストゲートパーク』(00)など、原作のある脚本も多数手掛けており、実は脚色も上手い。楡周平の同名原作を最大限に活かしつつオリジナリティも発揮した「サンセット・サンライズ」は、宮藤脚色の代表作の一つといえる。
南三陸の“家具家電完備、4LDK一軒家、家賃6万円”の神物件で釣り三昧
物語の舞台は、新型コロナウイルスのパンデミックで世界中がロックダウンに追い込まれた2020年。東京の大企業に勤める釣り好きの晋作(菅田将暉)は、空き家情報サイトで宮城県南三陸・宇田濱町の“家具家電完備の4LDK一軒家で家賃6万円”という神物件に一目惚れ。リモートワークは絶好のチャンスだと、海が近くて大好きな釣りが楽しめる三陸の町で、お気楽な“お試し移住”を始めようと現地へ向かう。一方、その一軒家の大家・百香(井上真央)は、過疎化に悩む宇田濱町役場で空き家問題を担当しており、手始めに空き家となっていた自宅の離れを貸し出してみたものの、未知のウイルスに警戒する田舎町に、コロナがまん延する首都圏から〈よそ者〉が来るのは想定外。とはいえ、移住する気満々でやって来た晋作の勢いにおされ、すぐに追い返すわけにもいかず、家の中で二週間の自主隔離をお願いする。
しかし能天気な晋作は、百香から「地元の人間とは接触しないで」と言われたことを“地元の魚なら接触してもいいよね”と都合よく解釈。仕事の合間に海へ通っては、釣り三昧の日々を過ごす。釣って、さばいて、食べてのパラダイスを満喫する晋作だったが、都会の〈よそ者〉らしき釣り人と、百香の離れに怪しい男が住み着いたという噂は、小さな町であっという間に拡散。父・章男(中村雅俊)と暮らす百香への思いをこじらせた独身男たち(三宅健、竹原ピストル、山本浩司、好井まさお)は、特に気が気でなく、晋作に干渉してくる。自主隔離期間が無事に過ぎた晋作は、一癖も二癖もある地元民の距離感ゼロの交流に戸惑いながらも、持ち前のポジティブな性格と行動力で、いつしか町に溶け込んでいく。そして、晋作は自分が借りた家が空き家だった理由にも気付き……。
震災、コロナ、過疎地域など、さまざまな社会問題を背景にした社会派エンタメ
本作の背景にはコロナ禍と共に、2011年3月11日に発生した東日本大震災がある。宮城県出身の宮藤は、これまでにも『あまちゃん』『季節のない街』『不適切にもほどがある!』などで震災を描いてきたが、本作の公式コメントで宮藤は、「震災の話になると、僕は疎外感を味わうというか、なんかこう切なくなるんですよね」と語っている。そして本作のクライマックスの芋煮会のシーンで主人公の晋作が語る台詞は自分の本音で、それに対して地元民のケン(竹原ピストル)が語る台詞には、「ずっとモヤモヤしていたことに対する答えを現時点で言葉にするなら、こういう感じかなとしっくりきたんです。それが僕の一番言いたかったことかな」との思いを明かしている。
主人公の語る台詞は、部分的に切り取るとかなり刺激的だが、被災者との距離感に悩む主人公が、この物語を通して発しているからこそ言える本音であり、宮藤なりの震災に対する率直な思いを、かなり踏み込んだ表現で誤解を恐れずに描いている。それに対する地元民ケンの台詞は、宮藤が2000年頃に石巻に行った際に地元の方にかけられた言葉が基になっているそうで、この芋煮会のシーンは、地元が被災しながらも震災当時は東京で暮らしていた宮藤が、震災を身近にも遠くにも感じてしまう複雑な心境がよく表れている。これを被災者の方がどう見るのかはわからないが、決して傷つけるような描き方はしていないし、震災を軽視しているわけでもなく、双方の立場を汲んだ上で、それぞれの立場の人々が感じている思いの一端を上手く表現しているように思う。
宮藤は宮城県で行われた完成披露舞台挨拶で「宮城県を舞台に、震災とコロナという二つのシリアスな問題を扱いつつ、ハートフルなコメディにするという離れ業を自分としては割と頑張ったつもり」とも言っている。前半は東京から来た主人公と地元民による“未知との遭遇”が生む騒動に笑わされっぱなしだが、後半はさまざまな現実や仕事も絡んできて笑ってばかりではいられなくなる。しかし、切なく泣かせた後に笑わせ、泣きながら笑ってしまうような展開が次から次へと押し寄せ、観客の感情を激しくゆさぶる。宮藤の脚色作品といえば、第75回キネマ旬報ベスト・テン脚本賞や第25回日本アカデミー賞最優秀脚本賞などを受賞する高い評価を受けた出世作の「GO」もあるが、個人的には同作にも匹敵する、宮藤の脚色作品の新たな代表作だと思う。これまで宮藤作品はオリジナルものしか見てこなかったという人でも、ぜひ見てみていただきたい。
監督は、「あゝ、荒野」(17)で第91回キネマ旬報ベスト・テン読者選出日本映画第1位をはじめ多数の映画賞に輝き、「正欲」(23)では第36回東京国際映画祭の最優秀監督賞と観客賞を受賞した岸善幸。岸監督も、山形県生まれの東北出身者で、父親は宮城県生まれのため、特別な思いを込めて撮っている。そして、主演の菅田将暉は、岸監督とは「二重生活」(16)「あゝ、荒野」に続く約7年ぶりの再タッグで、能天気だが人懐っこくて裏表のない好青年を等身大で演じている。ほかに、ヒロイン役の井上真央をはじめ、三宅健、竹原ピストル、白川和子、池脇千鶴、小日向文世、中村雅俊ら実力派の多彩なキャストが集結。それぞれが類型的ではない人間臭い人物を好演している。
劇中に登場した美味しそうなご当地グルメや現場の菅田将暉の様子なども収められた約158分もの特典映像
7月9日にリリースされるBlu-rayとDVDの各豪華版には、本編ディスクに加えて、約158分もの特典映像を収録した特典ディスクも付いている。その特典映像には、メイキング、キャスト生配信新年会、インタビュー(菅田将暉&井上真央&三宅健、岸善幸監督)、舞台挨拶集(初日、公開記念in宮城・完成披露、公開御礼)、インスパイア・ソング『シオン』MVなどを収録。
メイキングでは、菅田が「共演者やスタッフとコミュニケーションをとれる現場だったし、本当に楽しくて、シンプルにゲラゲラ笑えたし、デトックスのような1カ月だった」と語っているとおり、スタッフとキャストの距離が近く和やかで、皆がイキイキと楽しんで撮影している様子が窺える。慣れた手つきで料理をしながら感情的な台詞を喋らねばならない井上真央と竹原ピストルが、事前に相当の準備をして撮影に臨んでいた様子や、井上が久々に共演した菅田のあまりの器用さに“スター将暉”と呼んでいる姿など、キャスト同士の仲の良さも随所に写されている。
劇中に登場する主人公・晋作が描いた絵も、監督の要望により菅田自身が実際に描いているが、味のある絵を描けるようにYouTubeなどで独学し、撮影の合間にもずっと現場で出会ったものを描いていた菅田の様子や、監督が菅田自身に描いてもらった理由、ほかに中村雅俊も宮城県出身のため、本作には特別な思いがあり、さらには元付き人だった小日向文世や宮城県石巻高校の後輩の半海一晃と共演していることも感慨深いと、メイキングや舞台挨拶で明かしている。
美味しそうなご当地グルメが多数登場するのもこの映画の魅力の一つだが、主なロケ場所となった宮城県気仙沼市などの現地の方々が多大な協力をしてくれた様子もあり、現地の方々がさまざまな美味しいごちそうを振る舞い、スタッフ・キャストの英気を養っていた姿なども見られる。ロケ撮影に協力した地元の方々が語る震災への思いや、「移住してくるストーリーなので、この作品を見て少しでもそんな人が増えてくれたら」という思いを明かしているのも印象深い。劇中でも描かれているが、移住までいかずとも、ただ海に遊びに来るだけでも、ただ美味しいものを食べに来るだけでもいいから、東北に来てみて欲しいという思いが強く感じられる。
また、菅田は現地のものがあまりにも美味しすぎて、本作の撮影期間はずっと食べてばかりいたので、7kg太ったそうだが、岸監督はそれも菅田ならではの役作りだったのではないかと語っている。確かに少しふっくらした劇中の菅田は、親しみやすい役柄にぴったりな可愛げのある容貌になっている。菅田は岸監督の現場を熟知した座長として、長回しでテイク数を重ねる岸監督の演出法を他のキャストに伝え、撮影が円滑に進むように支えてくれていたということも、岸監督は明かしている。また、公開後の舞台挨拶では、スタッフやキャストがネタバレを解禁した貴重な話を披露するなど、見どころたっぷりな特典映像となっている。
陽は昇り、また沈む……。劇中で中村雅俊演じる漁師が何度も口ずさむ曲『サンセット・サンライズ』は、美しい海の日の出をバックにしたエンドロールに続いて青葉市子が歌うバージョンも流れる。舞台『屋根の上のバイオリン弾き』の劇中歌“Sunrise Sunset”の訳詩を基にした宮藤作詞の同曲は、見終わった後もしばらく頭から離れず、本作の静かな感動の余韻が長く残った。日の出と日没が繰り返すように、日々生きていれば、いいことも悪いこともある。人は苦しい時でも笑う瞬間があるし、つらいことがあっても、いろんな思いを抱えて生きてゆくしかない。つらいことを無理に忘れようとしなくてもいいし、前を向いて生きていればきっと楽しいこともある。誰に何を言われても、自分に正直に目の前の人生を楽しもうとする主人公の生き方が、周囲にも影響を及ぼしていく本作は、再生の物語でもある。ポジティブなメッセージや希望にあふれた物語であると共に、美しい海やご当地グルメに出会うために東北に行ってみたくなる作品だ。
文=天本伸一郎 制作=キネマ旬報社
「サンセット・サンライズ」
●7月9日(水)Blu-ray&DVD発売(レンタルDVD同時リリース)
Blu-ray&DVDの詳細情報はこちら
●Blu-ray 豪華版 価格:7,480円(税込)
【ディスク】<2枚>※本編+特典映像
★特典映像★
・メイキング
・WEB動画(キャラクター編、新しい幸せ編、東北グルメ編)
・キャスト生配信新年会
・TIFF(東京国際映画祭)インタビュー(菅田将暉、井上真央、三宅健、岸善幸監督)
・舞台挨拶集・初日・公開記念in宮城・完成披露/公開御礼
・予告編集
★封入特典★
・アウターケース
・リーフレット
●Blu-ray 通常版 価格:5,280円(税込)
【ディスク】<1枚>※本編+特典映像
★特典映像★
・予告編集
★封入特典★
・リーフレット
●DVD豪華版 2枚組 価格:6,600円(税込)
【ディスク】<2枚>※本編+特典映像
★特典映像★
・メイキング
・WEB動画(キャラクター編、新しい幸せ編、東北グルメ編)
・キャスト生配信新年会
・TIFF(東京国際映画祭)インタビュー(菅田将暉、井上真央、三宅健、岸善幸監督)
・舞台挨拶集・初日・公開記念in宮城・完成披露/公開御礼
★封入特典★
・アウターケース
・リーフレット
●DVD 通常版 価格:4,180円(税込)
【ディスク】<1枚>※本編+特典映像
★特典映像★
・予告編集
★封入特典★
・リーフレット
●2024年/日本/本編139分+特典映像158分
●脚本:宮藤官九郎
●監督:岸善幸
●原作:楡周平『サンセット・サンライズ』(講談社文庫)
●音楽:網守将平
●歌唱:青葉市子
●出演:菅田将暉
井上真央
竹原ピストル、山本浩司、好井まさお、藤間爽子、茅島みずき
白川和子、ビートきよし、半海一晃、宮崎吐夢、少路勇介、松尾貴史
三宅健、池脇千鶴、小日向文世 / 中村雅俊
●発売・販売元:TCエンタテインメント
©楡周平/講談社 ©2024「サンセット・サンライズ」製作委員会
記事提供元:キネマ旬報WEB
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