「死ななきゃいい」で走り抜けた30年…本宮泰風が明かす役者道と Vシネ界の深い絆
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イチオシスト:イチオシ編集部 旬ニュース担当
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【シリーズ「役者魂」VOL.1】▲水ドラ25「日本統一 東京編」(毎週水曜深夜1時)より
人気シリーズ「日本統一」で主演を務める傍ら、総合プロデューサーとして制作全体を統括する俳優・本宮泰風。地上波ドラマ第3弾となる水ドラ25「日本統一 東京編」(毎週水曜深夜1時)でも、主演と企画プロデュースを務めている。
そのクールな佇まいとは裏腹に、撮影現場では「みんなが楽しいと思える現場に」と、若手からベテランまで分け隔てなく気遣うリーダーシップを発揮。役者とプロデューサー、二足の草鞋を履く難役をこなし、「作品を待ってくれるファンがいるから」と、重責を全うする本宮だが、一方でプロデュースの手腕について聞くと、「向いてない」と謙遜し、俳優業についても「まだ役者になれたと思ったことはない」と語る。
飾らない言葉の裏に隠された、本宮泰風の魅力と揺るぎない“役者魂”に迫る。
【動画】水ドラ25「日本統一 東京編」最新回
主演とプロデューサー兼任の苦悩とやりがい 「日本統一」の舞台裏
「日本統一」シリーズでは、主人公・氷室蓮司を演じ、総合プロデューサーとして制作に携わる本宮。撮影では、自身の演技だけでなく全体を見ながら現場を動かしていく。
「キャストは若手もベテランも関係なく、スタッフはチーフもアシスタントも関係なく、みんなが心から“この現場に来るのが楽しい”と思ってもらえるような現場作りを心がけています。この業界はどうしても、若い子や出番が少ない人が肩身の狭い思いをすることが多いので。
『日本統一』も、最初はいち役者としてオファーを受けて出演した作品で、そこまで考えてはいなかったんですが、シリーズを重ねてプロデュースするようになって、僕の中での考え方も変わっていきました」
演者とプロデューサー…2つの立場で1つの作品に関わるのは、想像以上の困難が伴う。
「かなり複雑ですね。役者は自分がやりたいもの、撮りたいものがある。プロデューサーの視点だと、限られた予算内で創らなければならないので、やりたいことを全部やるわけにはいかない。自分の中で役者とプロデューサーの割合は公平にしているつもりではありますが、多少、役者寄り、現場寄りになっているんじゃないかなとは思います。
言いにくいことを言わなければいけない場面もあって、つらい思いをすることもあります」
「日本統一」が人気シリーズに成長した今、実務は誰かに任せるという選択肢がある中で、作品への愛情と責任を持って兼任を続けている。
「お金を使わないで済む方法をみんなで知恵を出し合って考えることが多いので、現場では団結力が生まれています。『日本統一』の舞台挨拶やイベントに来てくださるファンの方、SNSで応援してくれるファンの方がいて、皆さんが心から“作品を待ってくれている”ということが伝わるので、頑張れているのかなと」
「日本統一」だけでなく、2023~2024年公開の映画「静かなるドン」シリーズでも総合プロデューサーを務め、手腕を発揮。しかし、プロデュース業の手応えを感じているかと思いきや…。
「僕は、プロデューサーに向いてないですね。数人いるプロデューサーを制作サイド、現場サイドで分けるとすると、現場にいる人、スタッフとやり取りする人など、いろいろな立場のプロデューサーがいて、全員が自分のやりたいことを通そうとしたら作品が成立しないんですよ。でも僕は、プロデューサーがそれぞれ頑張っているのを知ると、みんなの言い分を聞きたくなってしまうんです。意見をまとめてバランスを考えなければいけない時の決断が苦しい。それを苦しまずにパッとものを言える人間が優秀なプロデューサーだと思うんですけど、僕はちょっと苦手ですね。みんなにいい顔したくなっちゃう(笑)。
そういう実務的な難しさはありますが、クリエイターとしてゼロから話を組み立てて、どの役者さんにやってもらうかを考えて作品を作るのは、面白いです。作品ができた時の満足感も大きいです」

デビューから30年、“1年更新”が続いている
スカウトされ、‘94年に俳優デビュー。長身で人目を引くルックス、芸能界が放っておかないのも納得だ。
「兄貴(原田龍二)が先に芸能界に入っていたので、高校生の頃から誘われていたんですけど、ずっと断っていました。いろいろとやんちゃな時期でやらなきゃいけないこともあり忙しくて、それどころじゃなかったので(笑)。
高校卒業後は、社会に出て真面目に働きました。働くことにも慣れて“刺激がない日常だな”と感じ始めた時、また声をかけていただいて。そのタイミングが良かったのか、『じゃあ1年やってみます』ということで、役者を始めました。
でも、そこから1年やってみても、全然面白くなかったんですよ。芝居なんて初めてでうまくできないですし、『次の年どうする?』と言われて、今考えると、どうしてなのかよく分からないんですけど、辞めなかったんですよね。辞めてもおかしくなかったのに『もう1年やります』と。何年も面白いと思えないまま、1年ごとに更新を続けて、実は今も『来年どうする?』と聞かれて、毎年更新しているという感じです」
結果、“1年更新”が30年以上続いている。そんな本宮が俳優業を続ける原動力は何なのか。
「誰かに評価してもらえる、面白い作品に出演して仕上がったものを見て“面白い”と思える、そして充実感を得られる。現場でいろんな仲間ができて、何とか続けられてるんじゃないですかね。
僕、一生役者をやると決めているわけではないんですよ。一生やるかもしれないし、もっと自分に合う職業が見つかったら辞めるかもしれない。1年更新なので(笑)」
目標に向かって突き進むというよりは、目の前の仕事に全力を注ぎ、流れに身を任せるのが、持ち前のスタンス。
「先を考えずに物事を始めることが多いです。『日本統一』の結末もそうなんですけど、毎回、先のことは何も決めないで創っています。僕はだらしない性格で、なんとかなると思っちゃうんですよね。“死ななければいい”みたいな考えがどこかにあって、別にどうなりたいとか決めておかなくても死ぬわけじゃないと開き直っているというか…適当なのかもしれない。だからきちっとしている人や物事が苦手です」
そんな本宮が“役者になれた”と思ったのは、いつだったのか。
「まだ思ったことがないですね。もちろん頑張って仕事をしていますけど、今まで100点だと思える芝居ができたこともないし、この作品、この役は自分でも満足できたと思ったことなんか一回もないです。多分“役者になれた”と思う日は、一生来ない気がします。
役者を続けている限り、仕事を最後までやったという達成感はあるかもしれないけど、クオリティーで満足できることはないです。現場から帰る時も、もう終わったことなのに、車の中で“あそこはこうした方が良かったかな”とか、反省と後悔ばかりですよ」

過酷な現場を乗り越えてきたVシネマ仲間との結束
90年代後半から、Vシネマへの出演を重ねていく本宮。それも自身で意識したことではなかったという。
「Vシネマに出るようになったのは、たまたまです。ただ、そういう作品に出ている役者さんたちには面白い人が多いし、一緒に仕事をしていると居心地がよかったので、積極的にそちらに出ていったのかなと。おそらく(「日本統一」で共演している)山口(祥行)もそうなんですけど、Ⅴシネマだからどうとか、特別な意識があまりなくて。いくら頑張ってもVシネマの世界に合わない人もいるし、僕がやってもなかなか高得点を出せない役もある。向き不向きで言うと、Vシネマや任侠ものが合っていたんでしょうね」
主に任侠の世界やアウトローを描き、激しいアクションやバイオレンスが見どころとなっているVシネマ。1990年代からレンタルビデオでリリースされて人気を博し、一つのジャンルとして確立された。Vシネマから生まれたスターも多く、本宮もその一人だ。
各作品ハイペースでリリースするため、量産体制で制作。現場の状況は想像を絶する。
「短期間で撮るので、スピード感がすごいんですよ。自分の経歴を見ても“1年でこんなに撮ったんだ”とビックリします。そういう時代でしたね。
今はそんなに本数も作っていないし、当時の制作会社はほとんどなくなったので、今後そういう時代が来ることはないと思いますが、それが当たり前でしたからね。
過酷な現場でしたし、スケジュールも予算も、いろんなものがタイトな中でやっていると、みんな同じ釜の飯を食う仲みたいな感じになるんですよ。そこを一緒に乗り越えてきた人たちとの仲間意識は強いですね」
時代が移り変わる中、2013年に「日本統一」シリーズがスタート。本宮の代表作になった。
「今のように配信が一般的になる前、Vシネマは文字通りビデオで見ることしかできませんでした。レンタル店に行ってVシネマを借りる人は、不良が好き、あるいは不良の人が多かった。だから僕たちも、外でそういう人たちによく声をかけられました。
今も変わらず任侠の世界の作品をやっていますが、声をかけてくれる人の層が変わって、女性も多くなりました。それは本当に配信のおかげだなと思います」

帝王・小沢仁志の説教に…!?
さまざまな作品で活躍する本宮だが、超多忙な毎日の気分転換は、特別なことをするのではなく、何気ない日常にあるという。
「仕事が終わった後、例えば山口と同じ車に乗って話しながら帰る、仲間といる時はリラックスできます。そういう時の話題は、何がおいしいとか、他愛のない話です。芝居の話をするような人は、俺たちの仲間には入れないですね。酒を飲んで芝居の話なんかしたら、殴り合いになると思いますよ(笑)。
ただ、小沢仁志さんは芝居の話をしますね。僕と山口は小沢さんによく説教されるんですけど、2人とも説教中“いかに無になるか”という技を習得しましたし、僕が説教されている時、こっそり山口とビデオ通話をつなげて『説教なう』と伝えたりして(笑)。小沢さんだけは厄介なんですよ…『さっきも同じこと言ったでしょ?』と殴るわけにもいかないんで(笑)」
本宮は、小沢仁志率いる野球チームのキャプテンも任されており、「面倒なことは全部やらされる」と笑う。Vシネマ界の絆は固い。
語り口はクールで真面目なのに、面白くて“ワル”な一面も。面倒なことを引き受けて、周りの人の気持ちを慮るリーダー気質で人望を集める。
多面的な魅力を持つ本宮は、現在53歳。年齢を重ねていく中で、仕事に対する向き合い方に変化はあったのか。
「ないですね。決まった仕事を一生懸命やろうというスタンスは変わらないし、よく『どういう役をやってみたいですか?』と聞かれるんですけど、そういうのもないです。
ただ、肉体的に年齢を思い知らされることはよくあります。アクションにしても、昔は楽にできていたことが大変になってきましたし、そのうちできなくなるのかな、とは思います。セリフ覚えも年々悪くなって…でも“ダメになったら、その時考えればいいや”っていう、そこが僕のだらしないところで(笑)。近々そういう時期が来るとは思っていますけど、やれるところまではやっていきます」
「先のことは決めない」という本宮にあえて「これからの展望」を聞いてみると、気持ちがいいほど“正直な答え”が返ってきた。
「本当に正直なところを言うと、セリフを覚える作業が年々大変になっているので、セリフがない役がいいなと思っているんです。でも、質問の趣旨として、そういうことを聞きたいわけじゃないですよね(笑)。だから、そういう質問にはいつも『やりたい役は特にないです』と言ってごまかすんですけど…。本音を言うと、フィクサー的な立場で目立って、セリフのない役がいいですね」

【本宮泰風 プロフィール】
1972年2月7日生まれ、東京都出身。1994年、ドラマ「シュプールは行方不明」で俳優デビュー。ドラマ「S-最後の警官-」、映画「アウトレイジ 最終章」、映画「バイプレイヤーズ~もしも100人の名脇役が映画を作ったら~」、ドラマ「警視庁ゼロ係~生活安全課なんでも相談室~season5」、NHK連続テレビ小説「ちむどんどん」、ドラマ「私の死体を探してください。」、ドラマ「鬼平犯科帳」、NHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」など、多数出演。
「日本統一」シリーズではプロデュースを、総合格闘チーム「本宮塾」の塾長も務めている。
(取材・文/伊沢晶子)
【「日本統一 東京編」第2話】
氷室(本宮泰風)と田村(山口祥行)ら侠和会は松田(深澤大河)を囮に誘き出したトクリュウたちと大乱闘になるが、杏(篠田麻里子)ら警察が偶然その場に通りかかったことで散り散りとなり、計画は失敗となる。松田に話を聞けば聞くほど、闇バイトの罠に陥ってしまうのがごく普通の若者であることを思い知らされ、憤る二人。ほかに方法はないか考えた氷室は、再びトクリュウの連中を誘き出すための秘策を思いつく。
記事提供元:テレ東プラス
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