プレッシャーで荒れるショット… 入谷響の初優勝を支えた師匠・中嶋常幸からの“LINEメッセージ”
<ニチレイレディス 最終日◇22日◇袖ヶ浦カンツリークラブ・新袖コース(千葉県)◇6594ヤード・パー72>
初優勝への道のりは、やはり平坦なものではなかった。涙ではなく、最初にこみ上げてきた感情は「ホッとした」という安心感。ルーキー・入谷響の1勝目は、必死に逃げ切りつかんだものだった。
胸をなで下ろしたのには理由がある。「前半は50点以下。後半はよく耐えたし、80点くらいはあげたいけど…。トータルで見たらスコアも別にいいわけではないし、60点くらいかなと思います」。こんな、ちょっぴり辛口の評価が、それにつながる。4月の「富士フイルム・スタジオアリス女子オープン」に続く、2度目の最終日最終組でのプレーだったが、前日インコースで「29」を出した時のプレーに、狂いが生じていた。
ラフを渡り歩きながら、なんとか2.5メートルのパーパットを沈めた1番から「ドタバタしてしまい、いい流れではなかった」と振り返る。続く2番パー4もティショットが右ラフへ曲がり、さらにバンカー、グリーン左奥のラフと思い通りにショットが飛ばず、ボギーが先に来た。4番ではバーディを奪ったものの、続く5番では左手前カラーから実質3パット。さらに7番も3パットでスコアを落としていった。
「なるようにしかならないと思えた。自分らしくやるしかない」
19歳を突き動かしたのは、小学6年生から指導を受ける師匠・中嶋常幸からかけられた言葉だった。男子ツアー通算48勝を挙げる中嶋が主宰する『トミー・アカデミー』で腕を磨いてきた。最初に教わったのは、アドレスの重要性。それを体に染み込ませるまで、何度も練習したことを思い出す。そして、この意識は今も大事にしている。
2位に4打差の単独首位で終えた2日目の夜、一本の電話がかかってきた。中嶋からだ。『LINEを送ってあるから、ちょっとそれ見てね』。未読になっていたメッセージに記されていたのは、『思い切って。あしたはなるようにしかならないからやってこい』。激励の言葉だった。
流れが変わったのは、折り返し直後の10番。ティショットを左の林に入れ、2打目はフェアウェイに出すだけになったが、残り220ヤードの3打目を3番ウッドでピン左奥1メートルにつけ、バーディを奪った。「乗ればラッキーな距離。最悪、奥に行ってもアプローチで乗せる事ができれば、とキャディさんとも話をしていました」。これが、勝利を引き寄せる“クラッチ・ショット”になった。
プロ1年目での勝利については、「自分の中で早めに優勝したいという気持ちはありました。この優勝で日本女子オープンやリコーの出場もクリアできたので良かったと思う」と話す。昨年2度目のプロテストで合格。高校時代は、多い日には1000球ほど打ち込み、持ち味のショットを鍛えてきた。初挑戦だった23年のプロテストは、最終で1打及ばず不合格になり、普段、あまり流さない涙が止まらなくなった。「一打の本当の重みを感じられた試合」。これも、今の入谷を作り上げる大事な要素だ。
「聞けば惜しみなく何でも答えてくれる(中嶋)プロのことが、本当に大好きですし、ありがたい。ここまでずっと長く付き合ってくれて…一緒にやっていただき、アドバイスしてくださったのは本当にありがたいです」
初優勝の瞬間、18番グリーン脇には同門で同期の中村心らも見守り、心からの拍手を送っていた。師匠は、まな弟子の勝利を受けて「初優勝おめでとう! だけど、おめでとうと言いたくない気持ちもある。何故なら響の目標に向かって、ほんの一歩に過ぎない。この優勝を足がかりにさらに頑張ってほしい」と言葉を贈った。これからもその教えを胸に、二人三脚で歩んでいく。(文・間宮輝憲)
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