【モーリーの考察】アメリカを追われたハーバード留学生の受け入れが日本を変える?
『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが、トランプ政権によってアメリカを追われている"頭脳"の獲得競争について考察する。
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米トランプ大統領は、ハーバード大学で留学や研究をしようとする外国人の入国を停止する大統領布告に署名。また、学内での規律違反や「外国勢力との関わり」を理由に、在学中の留学生へのビザ発給や滞在資格にも厳しい制限をかけています。
これまでアメリカの発展を支えてきた"頭脳"を自ら手放すようなこの動きを受け、国際社会では人材獲得競争が激化。欧州や中国はトップ研究者や留学生の積極的な招致に本腰を入れ、日本でも東京大学や広島大学など多くの大学が、アメリカでの研究や留学が困難になった人材の受け入れを表明しています。
これによって学術現場の英語化、国際化が進むのみならず、日本社会の"結界"を破るひとつの転換点になる可能性もあると私は考えています。
日本社会は長年、英語もディベートも必要としない内向き構造の中で繁栄を享受してきましたが、これは巨大な内需を抱える日本ならではの特異な現象。ほとんどの先進国では、必要に迫られて英語リテラシーが高いレベルにあります(韓国や中国でも、英語を使える人材の割合は日本よりはるかに多いはずです)。
実際、近年は少子高齢化により"規模のメリット"は崩壊し、日本でも国際化の必要性が叫ばれてきました。そこにアメリカの変容という外的要因が加わったことで、状況は大きく変わるかもしれません。
学術界のみならず経済界においても、多くの大企業はもはや内需だけで生きていけるとは考えておらず、国際的な人材を必要としているわけですから。
それでも多くの日本人は、いまだに移民受け入れや多様性を巡る本気の議論から逃げ、「よそ者としての外国人観」を引きずり、一種の"結界"をつくり出しています。
清朝末期の中国では、列強の先進的な軍事力や技術の脅威に直面していたにもかかわらず、西太后が軍事費を流用して驕奢な大庭園を造営。これが後の日清戦争の敗北につながったといわれ、それに続いて排外主義者たちが蜂起した義和団事件の混乱で国は衰退しました。
もちろん時代も背景もまったく異なりますが、「外」の技術や制度を本質的に咀嚼して理解・評価することなく現実逃避を続ける姿勢は、現在の日本にも決してないとは言えないはずです。
これまでと同様、日本社会が「外」の人材や知を十分に活用できず、制度や価値観のうわべだけを取り入れている限り、やがて国際社会での立ち位置は失われるでしょう。その結果として起きるのは、国際化の波を乗りこなす"X-MEN"のような一部のエリート層だけが生き残り、内向きな価値観にしがみつく多数派が没落していく二極化・階層化です。
日本にとってはいい例ではないかもしれませんが、第2次世界大戦下で原子爆弾を開発したマンハッタン計画を主導したロバート・オッペンハイマーはユダヤ系移民2世でした。また近年の米テック業界のイノベーションは、多国籍・多言語の頭脳集団によって支えられてきました。
そして今、世界の多くの国々が、知の国際流通や多様化を国家戦略として積極的に推進しています。そんな中、日本がこれからもコクーン(繭)の中で現実逃避を続けるなら、"結界"の内側の安寧も危うい。
殻を脱ぎ捨てて新しい時代へ飛び込む勇気が問われています。
記事提供元:週プレNEWS
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