『キネマ旬報』でジャーナリスト・金平茂紀の連載「あなたは…‥」がスタート。毎月、“社会派映画”の監督を招いて、トークセッションをくり広げる【キネマ旬報7月号】
『キネマ旬報』7月号(6月19日発売)からはじまる新連載『金平茂紀の「あなたは…‥」』。ジャーナリストの金平茂紀が毎月、‟社会派“と称される(主に)ドキュメンタリー映画をつくった監督をゲストに迎えて交わす、社会と映画をめぐるトークセッションだ。
ジャーナリズムとテレビ、ドキュメンタリーの接点について、本連載における仕掛けについて……ホストの金平はどう考えているのか。第1回のゲスト「正義の行方」木寺一孝監督とのトークから、紙数の都合で割愛せざるを得なかった金平の発言を採録する。
かねひら・しげのり/ジャーナリスト、テレビ報道記者。1977年、TBSに入社。以降一貫して報道現場を歩む。モスクワ支局長、ワシントン支局長、『筑紫哲也NEWS23』編集長、報道局長などを歴任。2010年から2022年まで「報道特集」レギュラー・キャスター。著書に『世紀末モスクワを行く』『ホワイトハウスから徒歩5分』『筑紫哲『NEWS23』とその時代』ほか
「ドキュメンタリー映画を撮るのとテレビで調査報道を作るっていうのは、だいぶ位相が違うと思う」そう金平は言う。
金平 たとえば森達也(映画監督、作家。「A」97、「A2」01、「福田村事件」23ほか)は、メディアにある規制とか、決まりごととかそういうものは面倒だと思っているんでしょう。だから「自分たちはドキュメンタリーを作るんだ」という考えかたね。それともうひとつの事例としてあるのは、元東海テレビの阿武野勝彦(テレビプロデューサー、「ヤクザと憲法」16「さよならテレビ」20ほか)さんなんかの場合。テレビで表現できなかったことも含め、もっと深く、テレビのある種発展形として映画にしている。
さらに言えば原一男(映画監督、「さようならCP」72、「極私的エロス 恋歌1974」74、「全身小説家」94、「水俣曼荼羅」21ほか)の「ゆきゆきて、神軍」(87、終戦直後のニューギニアのジャングルで行われた処刑事件の真相を暴くため、自称‟神軍平等兵“奥崎謙三が、所属していた部隊の元上官を徹底追究していく)なんて、ストレート・ニュース(政治、経済など社会的なトピックを扱う通常のニュース)ばかりやっている人たちの中には「なんだ、これは?」「ああいう表現はわからない」みたいに言う人もいるわけです。
連載のタイトルは66年にTBSで放送された『あなた…‥』から発想した。構成=寺山修司、ディレクター=萩元晴彦による伝説的なテレビドキュメンタリーである。
金平 連載担当の編集者と打ち合わせしたときに、何か仕掛けを作ろうって話になったんです。そのとき、寺山修司と萩元晴彦のTVドキュメンタリー、『あなたは…‥』を思い出した。新入社員のとき尊敬する先輩から「お前、これ見ろ」って渡されて「これは、スゴイな……」って唸った、TBSの伝説的な番組です。
この番組では素人の女子大生がハンドマイクひとつでいきなり、町ゆくひとに質問をぶつけていく。「あなたにとって●●とは何ですか?」みたいにね。寺山さんと萩元さんは、シネマ・ヴェリテ(撮影対象者にインタビューを行い、その返答反応を捉えることで“真実の姿”を描き出す手法。代表作にジャン・ルーシュ、エドガール・モラン監督「ある夏の記録」61、クリス・マルケル監督「美しき五月」62など)のやり方を踏襲したんですね。
僕が早稲田大学で教えていたとき、『あなたは…‥』を学生に見せたことがあるんです。そうするとみんな、びっくりするわけですよ。「自分たちもこういうのをやってみたい!」という声が上がって、一緒に作ったこともあります。これがまた、なかなか面白くて。『あなたは…‥』という番組のアイディアには、普遍的なちからがあるんでしょう。
寺山さんっていう人は「仕掛ける」ことについて、自分なりのスタイルがあった。それにならって、今回のキネマ旬報の連載でも、定番のスタイルみたいなものを作ることにしたんです。
寺山修司の挑発的スタイルにならって、この連載では毎回ゲストに、「あなたにとって●●とは何ですか?」といったシンプルな10の問いを、冒頭いきなり、ぶっきらぼうに投げかける。「正義とは?」「真実とは?」「ジャーナリズムとは?」「ドキュメンタリーとは?」「映画とは?」……。
金平 大抵詰まるかもしれません。あえて抽象的な質問にしているからね。これは寺山が言っていたんですけど、「あなたいま、幸福ですか?」と問われると、「はい/いいえ」で答えられる。だから「あなたにとって幸福とは何ですか?」と訊ねたほうがいい。そうすると聞かれた方は、一生懸命ことばをさがすんです。当時の人は真面目だから、断らない。それが本当に面白い。寺山さんってつくづく、性悪だなと思うんですけどね(笑)。
「10のQに対するA」から始まる議論。そこから意外な視点が示される。遠い場所で起こっていることが、私たちの日常と地続きであることがわかる。
世界をあたらしい目で見るために──金平は毎月、「あなた」と対話を重ねていく。7月号掲載の第1回のゲストは「正義の行方」の木寺一孝監督だ。
「社会」「映画」の奥深さがはっきり見えてくるスリル。この連載を読むことで、「社会」も「映画」も、ますます面白くなるかもしれない。
文=キネマ旬報編集部
記事提供元:キネマ旬報WEB
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