石原さとみ、渾身の演技が光る。 感動のヒューマンドラマ ― 映画「ミッシング」
愛する娘が、突然失踪。あらゆる手を尽くすが見つからない現実に、もがき苦しみながらも光を探す家族を描いた、吉田恵輔監督・脚本のヒューマンドラマ「ミッシング」。悲しみと絶望に囚われて、心を失くしていく母親に扮した主演の石原さとみが、渾身の演技を披露したこの作品のBlu-ray&DVD(レンタルDVD同時リリース)が、6月4日にリリースされた。
幼い娘の失踪によって、壊された家族の日常!
漁港のある地方都市で幼女の美羽が、ある日失踪した。母親の沙織里(石原さとみ)と父親の豊(青木崇高)は手を尽くして美羽を捜すが、3カ月経っても手掛かりがない。やがて世間の関心は薄れ、夫婦は唯一取材を続けてくれる地元テレビ局の記者・砂田(中村倫也)を頼っていた。そんな中、沙織里が娘の失踪時にアイドルのライブに行っていたことが知れ渡ると、育児放棄の母親としてSNSなどネット上で叩かれる。一方、砂田は局の上層部の意向で、失踪時に美羽の面倒を見ていた沙織里の弟・圭吾(森優作)へ世間の目を向けるような取材をする。世間から誹謗中傷にあいながら、次第に心が壊れていく沙織里と家族。それでも娘に会いたいという一心で、彼らは光を見つけようとする。
公園やキャンプ地で、子どもが失踪するニュースがテレビで流れるが、その事件の背後にある家族の苦悩や悲しみを、持続して受け止め続ける視聴者は稀だろう。だが当事者の家族は、子どものいない日常という暗闇に突き落とされ、その出口を見出すことができない。マスコミに働きかけ、駅前などの人口密集地で失踪人のビラを配り、ほんの小さな情報でも得ようとする家族の姿を、この映画は母親を中心に描いている。
母親になった石原さとみが、体当たりで悲しみを表現
何といっても石原さとみの演技力がすごい。特典映像の〈スペシャルメイキング〉の中でも語っているが、彼女はそれまでの女優・石原さとみを変えたくて、それならば吉田監督しかいないと思い、何としても監督の作品に出演したいと撮影の6年前に直談判した。それから3年後、吉田監督が彼女のために書き上げたのが今回の脚本。撮影に入るまでに石原さとみは、実生活でも出産を経験し、自ら母親になったことで、沙織里の抱える深い絶望とやり場のない焦燥を、より実感を伴って演じることができるようになったという。毎日何かしなくてはいけないという想いだけが先走る沙織里は、夫・豊との美羽を心配する温度差に苛立ち、注目度が低くなっていくマスコミの報道に怒りを露わにしながら、次の瞬間には必死にテレビ局の砂田に縋りつく。精神のバランスを失っていく衝動的な女性の変化を、まさに体当たりで演じている。美羽が見つかったという情報が寄せられ、それを確かめに警察に行って、情報がデマだとわかると心身が脱力して失禁してしまう衝撃のシーンも含め、これまでの自分のイメージをかなぐり捨てて役と一体になった彼女は、この入魂の演技で第49回報知映画賞主演女優賞にも輝いた。
傷ついた家族と、事件を追うマスコミに扮した名演者たち
その沙織里を支える夫役の青木崇高も印象的。常に心のトップギアを入れて美羽を捜す沙織里に対し、もっと現実的に娘のために何ができるかを探ろうとする父親の悲しみを、絶妙の存在感で表現している。また自分のせいで姪の美羽が失踪したという、後悔の念から抜け出せない沙織里の弟・圭吾に扮した森優作のナイーブな演技も含め、いずれも出演者たちの名演が光る。
またこの映画は家族の物語である一方、マスコミをはじめとする事件の傍観者たちの物語でもある。中村倫也演じる砂田は沙織里たちに同情的で、彼らのために追取材を続けるが、テレビ局側から見れば進展がない失踪事件は、“旬”の時期を失った出来事のひとつでしかない。世間の事件の関心をつなぎとめるため、さらに視聴率を獲得するため、砂田は圭吾や沙織里のスキャンダルを探そうとする。個人の想いと局側の思惑の間で葛藤する砂田を、あくまでフラットな雰囲気で演じた中村倫也が素晴らしい。さらに沙織里たちに同情と攻撃の目を向ける、SNSなどネット上での誹謗中傷のコメントが、当事者たちをどれだけ傷つけるのかという、社会に対する視点も織り込まれた脚本が見事だ。
監督と石原さとみが語る、撮影時の現場の裏側!
今回のBlu-ray&DVDには、吉田監督と石原さとみが対談した本編オーディオコメンタリーが付いている。彼らによって明かされる撮影の裏側と、当時の心境に関するコメントが興味深い。吉田監督は当初、家族の話だけで脚本書いていたがそれでは筆が進まず、テレビ局側の世界を入れ込むことで、事件を二つの軸で観るようになって今の物語になっていったという。石原さとみは、母親役の美保純と話す場面で、無意識にケータイをしまう仕草を意識しながら演じてダメ出しをされ、無意識でやることを意識して覚えて、演じるときにはそれを忘れて無意識にやれるのが、芝居をすることだと知ったとか。また彼女は、役に入り込むあまり口内炎になったと言い、中盤の見せ場である砂田からロングインタビューを受ける場面では、前日あばら骨にひびが入って、その状態のまま演じたので息をすることが大変だったと言っている。二人とも撮影時のディテールを鮮明に覚えていて、本編を観た後に、再度彼らのコメント付きで見直すと、それぞれのシーンに対するこだわりがよりわかるだろう。
特典映像も満載で30分を超える〈スペシャルメイキング〉には、撮影風景や主要キャストのコメントを収録。石原がクランクアップの後に『同じようなニュースが流れて、SNSに書き込む人が一人でも減ってくれたらいいな』と言っているのは、沙織里を演じた者の実感だろう。〈イベント集〉には吉田監督、石原さとみ、青木崇高、中村倫也、森優作、テレビ局の新人記者を演じた小野花梨が揃った『完成披露試写会』をはじめ、石原と青木、美羽を演じた有田麗未が登壇した『公開御礼舞台挨拶』、吉田監督と石原、森、テレビのカメラマンを演じた細川岳による『心揺れるティーチイン付き上映会』と、同じメンバーによる『魂の全力プレゼン生配信』の模様が収録されている。さらに〈公開記念特番〉として石原さとみの演技、劇中のSNSの描かれ方、作品の見どころにスポットを当てた3種類のミニ番組。石原と青木、中村への〈特別インタビュー〉。7種類の〈特報、予告、TVスポット〉映像と、内容は盛りだくさん。社会性を含みながら俳優たちの芝居も見応えのある、心揺さぶられる作品の魅力を味わい尽くせる特典になっている。
文=金澤誠 制作=キネマ旬報社
「ミッシング」
●6月4日(水)Blu-ray&DVD発売(レンタルDVD同時リリース)
Blu-ray&DVDの詳細情報はこちら
●Blu-ray豪華版 2枚組 価格:7,700円(税込)
【ディスク】<2枚>※本編+特典映像
★特典音声★
・オーディオコメンタリー(石原さとみ×吉田恵輔)
★特典映像★
・スペシャルメイキング
・イベント集
・公開記念特番
①鬼気迫る!石原さとみ編/②人ごとじゃない!今みるべき編/③スゴ過ぎる!3つの〇〇編
・特別インタビュー
・特報/予告/TVスポット
★封入特典★
・ブックレット
●DVD豪華版 2枚組 価格:6,600円(税込)
【ディスク】<2枚>※本編+特典映像
★特典音声★
・オーディオコメンタリー(石原さとみ×吉田恵輔)
★特典映像★
・スペシャルメイキング
・イベント集
・公開記念特番
①鬼気迫る!石原さとみ編/②人ごとじゃない!今みるべき編/③スゴ過ぎる!3つの〇〇編
・特別インタビュー
・特報/予告/TVスポット
●2024年/日本/本編118分+特典映像91分
●監督・脚本:吉田恵輔
●音楽:世武裕子
●出演:石原さとみ
青木崇高、森優作、有田麗未
小野花梨、小松和重、細川岳、カトウシンスケ、山本直寛
柳憂怜、美保純 / 中村倫也
●発売・販売元:TCエンタテインメント
©2024「missing」Film Partners
記事提供元:キネマ旬報WEB
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。