中嶋常幸が明かす“生き甲斐”とアカデミー生への想い「卒業しても心の中にずっといます」
レギュラーツアー通算48勝を誇るレジェンド・中嶋常幸が主宰する「ヒルズゴルフ トミーアカデミー」。今年1月末には、本拠地である茨城県・静ヒルズカントリークラブで第6期生の合宿が行われた。そこで中嶋は、アカデミー設立の背景や、生徒たちへの思いを語った。
■中嶋常幸がアカデミーを設立した理由
トミーアカデミーは中嶋と森ビル株式会社の初代代表取締役社長の森稔氏(故)が2012年に設立。生徒の対象は小学校4年生~高校2年生で、2年に一度実施される入塾テストを合格した選手のみが、アカデミー生として迎えられる。1期生には現在米国女子ツアーで戦う畑岡奈紗も名を連ねている。
「50代半ばになって、レギュラーツアーからシニアツアーにシフトして、少し時間の余裕ができた頃かな。静ヒルズという縁のあるゴルフ場でコース改造や練習場の環境が良くなったりしたタイミングに、森稔さんと『世界で活躍する選手を育てたい』という共通の想いを話すようになった。それを形にするときが来たという感じで、立ち上げたんだ」と話す。
さらに、中学生の自殺率の高さを憂いていたこともきっかけの一つだった。ゴルフを通じて、子どもたちの力になりたいという想いが芽生えた。「ゴルフはタテもヨコのつながりも生まれる。精神的にも鍛えられるよね。ラッキーとアンラッキーがあって、不運が精神を鍛えたり。他のスポーツにはない、青少年の育成に役立つスポーツだと思う」と語った。
中嶋は1973年の「日本アマ」を当時最年少の18歳で制すと、75年にプロ転向。77年には「日本プロ」を“戦後最年少”となる22歳で制覇している。さらに海外4大メジャーの「マスターズ」、「全米オープン」、「全英オープン」、「全米プロ」ですべてトップ10入り。青木功、尾崎将司らとともに“AON時代”を築いた。
「自分はゴルフを長くやってきて、教えることもできるし、ゴルフを通じて子どもたちの役に立つことができる。そう思って始めたことなんだ」。ゴルフを通じて子どもたちに明るい未来を届けたい。アカデミー設立には願いが込められていた。
■みんなで築いているアカデミーを長く残したい
アカデミーからは国内ツアー5勝・米ツアー6勝の畑岡を筆頭に、国内ツアー1勝の蛭田みな美や小滝水音、男子ではツアー通算2勝の河本力や杉原大河など多くのプロゴルファーが誕生している。昨年のJLPGA最終プロテストでは、都玲華、入谷響、中村心、山口すず夏、前田羚菜、六車日那乃、平塚新夢の7人が見事合格を果たした。
そんな卒業生に感謝の気持ちでいっぱいだ。「幸いなことにゴルフ場のメンバーさん、スタッフさんがみんな応援してくれている。そして、畑岡や蛭田たちが優勝してくれて『トミーアカデミーの生徒たちが頑張っている』というのを認知してくれた。ほかのOBの子たちも結果を出してくれているおかげだなと思っている」。
中嶋は、昨年10月の国内シニアツアー「ファンケルクラシック」の試合期間中(10月20日)に70歳の誕生日を迎えた。年々、体の衰えを感じている。「いつまで自分が生徒の前に立てるのか…」。そんな気持ちを抱きながら、寂しい表情を浮かべる。
「自分が動けるうちは(アカデミーを)引っ張っていけるけど、やがて、できなくなる時がくる。自分の手から離れても、トミーアカデミーのスピリッツである『みんなで努力して、みんなで追い込んで、みんなで楽しんでいこう』ということは残して行きたいと思っているよ」
■今季プロデビューの教え子たちに求める“プロとしての姿”
プロとして長く活躍するには、まず結果を出すことが重要だが、それだけでは足りない。しかし、スポーツはファンがあってこそ。スポーツはファンがあってこそ成り立ち、ゴルフもまた、選手が“演者”として魅せる舞台でもある。
「試合を見に来たファンのみなさんに『見に来て良かった』と思われるような選手になってほしい。試合以外でも彼女たちとすれ違って『あのプロすごく良い感じだよね』って思われるような子。そのためにも、強くたくましく、優しくあってほしい。俺が思うのはそれが一番だ」
最後にこう締めくくった。「アカデミー生徒の指導が生き甲斐だよ。本当に素直な子たちに全力を出させられます。子どもたちとの時間は、自分の励みになる。自分が今できるときにたくさん役立ちたいと思っている。みんなに言いたい。卒業生として、中嶋の心の中にずっといます」。生徒たちを見つめながら、穏やかな表情で語った。(文・高木彩音)
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