【はばたけラボ 連載「つなぐ」】木の子ども通貨で地域をつなぐ、お金は「ありがとう」の対価
未来世代がはばたくために何ができるかを考えるプロジェクト「はばたけラボ」。ウェルビーイングな暮らしのために、異なるものをつなぐことで生まれる「気づき」を大事に、いろんな「つなぐ」をテーマに連載でつづる。
第4回は、木の通貨の循環で地域社会と子どもたちがつながる、大阪発のプロジェクト「MOCCA(モッカ)」を追った。子どもたちが地元の大人のお仕事現場でお手伝いすると、木でできた通貨MOCCAを報酬としてもらえ、受け取ったMOCCAを使ったお買い物も体験できる仕組みだ。
子どもの日の5月5日に大阪・堺市の開口(あぐち)神社で毎年行われる「さつきまつり」は、子どもの健やかな成長を願う地元伝統の祭礼。境内に入ると、「いらっしゃいませー!!」「おいしいですよ~」。ずらりと並んだ店の前でお手伝いをする、子どもたちの元気な声が聞こえてきた。

MOCCAがタイアップしたさつきまつりのイベントには、子どもたちのお手伝いを受け入れる地元の飲食店、和菓子店、雑貨店、射的の店、宮大工など11店が開業した。参加した600人近い子どもたちは各店にちらばって、チラシを配ってお客を呼び込んだり、おつりを渡したり、片付けをしたり。品物を買った来訪者から「ありがとう」と声をかけられると、緊張した顔がたちまち笑顔でくしゃくしゃになる。

1回あたり5分のお手伝いをやり遂げた子どもは店主がお礼のメッセージを書き込んだ小切手をもらい、地域の金融機関職員がいる『銀行』ブースへ。1枚100円の価値がある木の通貨「MOCCA」に替えてもらったら、自分がお客となって場内に買い物に出かける仕組みだ。
鈴木ちとせさん(8歳)と玄くん(4歳)の姉弟、川﨑日菜子さん(8歳)と小菜津さん(4歳)の姉妹は家族ぐるみのお友達で訪れた。からあげを売るお手伝いをした玄くんは「1~2人は(お客さんとして)呼び込めた」、小菜津さんも「とっても楽しい」と笑顔いっぱいだ。ちとせさんと日菜子さんは、射的のお店で転がった玉を拾ったり、雑貨店で接客をしたり。「玉を集めるのは立ったりしゃがんだりと大変だったけど、たくさんの人が来てくれた」。もらったMOCCAで自分が買ったお昼ご飯を皆で食べるのだという。
ハンドメードの雑貨店では、MOCCAに自分のお小遣いを足して母親へのプレゼントを買う子どもも。店主の女性は「お母さんがふだんしている仕事の大変さが分かるのかな。子どもたちは皆、きらきらしていますよ」と話した。
MOCCAプロジェクトは、自然体験イベントを企画・展開する株式会社midica(大阪府吹田市)代表の西川聡志さんが2023年に始めた。お手伝いをしてMOCCAをもらい、買い物ができるのは12歳未満の子どもたちに限られる。

「(実社会の)お金は欲深いものとも思われがちですが、もともとは誰かの役に立つ、誰かを幸せにする価値への『ありがとう』からもらうもの。もらったお金は誰かのために使い、地域を循環させ、人と人をつなげていくものだと思うんです」(西川さん)。
キャッシュレスがトレンドの世の中で「通貨」にこだわる取り組みに、自治体や民間企業も関心を寄せる。今は、開口神社やmidicaの地元・吹田市のイベントだけでなく、北海道、兵庫県、滋賀県などにも広がり、商店街ぐるみでMOCCAが使える仕組みをつくる試みも出てきた。

MOCCAの材料となるのは、それぞれの地元に根ざす樹木。吹田市なら、街路樹のイチョウや万博公園の間伐材、放置竹林問題が深刻化している兵庫県洲本市は竹が素材になった。いずれも地元の職人が手で切り、各地域で活動する障害者作業施設で通貨に加工。通貨は全てがコイン状にそろっておらず、厚みも皮の感じも違うが、全て同じ価値。「違っていても皆、大切。人間もそうなんだというメッセージ性も込めているんです」

イベント現場では、子どもの「先輩」でもある中高生、大学生が活躍している。関西大学や立命館大学の学生たちが、各事業の企画段階から携わり、現場では人員配置や困っている子どもの支援や突発的なトラブル対応まで運営全般を担う。メンバーの一人として活動し、今春に社会人となった山崎優太さんは、「参加した子どもがいつしか教える立場の先輩となり、さらに年下の子どもたちに仕組みを伝えるようなつながりができるのがMOCCAの良さ」と話す。

全日制フリースクール類学舎(大阪市)の生徒たちも現場の力。吹田市のイベントでお手伝いをする子どもたちの誘導を担当した中農真莉愛さん(中3)は「働き終えた子が、『お姉ちゃんのおかげでうまくできた』と言ってくれ、うれしかった」と言う。デザインが好きな政岡真央美さん(中3)さんは、参加店や会場の説明を掲載するガイドブックの制作に挑み、「色合いやフォントにこだわった」。受付を担当した久保田大地さん(高1)は「思いのほかうまくこなせ、自分で苦手だと決めつけていたことができると気づいた」そうだ。

これまでにMOCCAプロジェクトに参加した子どもの数は延べ7000人を超え、実施されたお手伝い数は11万8000回余。小切手は約180万円分が発行された。

次に描く夢は、海外展開だ。MOCCAの導入条件は、▽そこに子どもがいるか▽木があるか▽通貨の概念があるかーーの3つ。どの国も、ほぼあてはまる。
イベント後、子どもたちの手元に残ったMOCCAは、どこかで行われるこれからのMOCCAプロジェクトで使え、有効期限はない。「いつか海外の国に生える木で作ったMOCCAを持った子どもが日本に来て、それを使おうとしたら、会話は、『ありがとう』で終わらない。きっと、『どこから来たか』、『何の木か』と、どんどん発展して国同士の交流になるはず」

「ありがとう」で人同士をつなぐという通貨が持つそもそもの役割を、子どもたちが体感する場を増やす。それぞれの場所で、人々が世代を超えて子どもを中心にMOCCAと関わり続ければ、未来はきっと大きく変わっていくのではないか。MOCCAに携わる仲間たちはそう考えている。
#はばたけラボは、日々のくらしを通じて未来世代のはばたきを応援するプロジェクトです。誰もが幸せな100年未来をともに創りあげるために、食をはじめとした「くらし」を見つめ直す機会や、くらしの中に夢中になれる楽しさ、ワクワク感を実感できる体験を提供します。そのために、パートナー企業であるキッコーマン、クリナップ、クレハ、信州ハム、住友生命保険、全国農業協同組合連合会、日清オイリオグループ、雪印メグミルク、アートネイチャー、ヤンマーホールディングス、ハイセンスジャパン、ミキハウスとともにさまざまな活動を行っています。
記事提供元:オーヴォ(OvO)
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