不動産バブル下で注目の「定期借地権付きマンション」。その安さの秘密とリスクとは?
都の中心部のみならず、首都圏近郊のマンションはもはや庶民が手を出せない価格にまで高騰している
マンション価格の高止まりを受け、マイホーム購入者の選択肢のひとつとして広がりを見せているのが、通常の物件よりも割安に購入できる「定期借地権付きマンション」だ。
不動産経済研究所によれば、首都圏で供給される定期借地権付きマンションは、年内に2000戸にのぼる可能性があり、過去最大規模となる見通しだ。
■安さの理由は「期限付き」だからマンション分譲に「定期借地権」が付与されるという制度が始まって間もなく33年となる。簡単に説明すると、「50年以上」という期限付きでマンションを分譲する制度である。期限が来れば、建物の区分所有者は更地にして土地を所有者に返すことを義務付けられている「借地権」の一種だ。
現在、日本には3種類の借地権が存在する。普通借地権、旧法借地権、定期借地権である。このうち、土地の借主の権利が強力に保護されているのが旧法借地権。そこから借主の権利がやや弱められたのが現行の普通借地権。そして「50年以上」という長めの年限が定められたものの、地主への確実な返還を定めたものが定期借地権である。
日本の分譲マンションの場合、土地の所有形態はほとんどが「所有権」である。この場合、マンションの敷地の所有形態は、各区分所有者が有する専有面積割合に応じた「共有」ということになる。
私が見る限り、所有権以外の3種類の「借地権」によって新たに分譲されるマンションの割合は、全体の数パーセント程度ではないかと推測する。ごく少数と言えるのは確実。ただし、借地権のマンションがしっかりと今も存在しているのは、紛れもない現実である。
■定期借地権付きのリスクは?だから、私のところにも時に「定期借地権付きのマンションを購入してもいいでしょうか?」という相談が寄せられる。それに対する答えは、ハッキリとイエスとかノーと言えるようなものではない。ケースバイケース、ということであろうか。
ここでは定期借地権(以下、定借)の場合について説明したい。
最近の定借マンションの借地期間は「70年」が主流。この制度が始まった時は最低年限である「50年」が普通であった。それが10年くらいまでに「60年」が主流となり、最近ではほとんどの定借分譲マンションが「70年」。日本人の平均寿命を考えれば期限が「70年」の定借分譲マンションを購入すれば、生きているうちに期限が来ることはほとんどないはずだ。
定借分譲マンションの弱点は、年々資産価値が下落していくことにある。特に残りの年数が35年を切ると下落ケースが早まる。その理由は、住宅ローンの最長期間である35年よりも、そのマンションの存在期間が短くなるからである。ある意味、当然と言えば当然。
例えば、城南エリアにある某私鉄人気駅の徒歩圏にある定借分譲マンションが、この制度が出来て間もない頃に「50年」の定借を条件に分譲された。現在、築30年を経過して残存期間は20年を切った。資産価値は周辺エリアの同条件の所有権マンションに比べて3分の1程度にしかならない。
今後、同様に「50年」の定借期間で分譲されたマンションは、次第に資産価値を失っていく。何といっても、期限が来るとマンションの敷地は「更地にして地主に返還」という苛酷な条件が課されているのが定借分譲マンションである。
更地にするための費用は、管理費用の一部として区分所有者から毎月徴収され、管理組合で積み立てられている。ただし、その積立金で「更地にする」ための費用が賄えなければ、区分所有者から一時金を徴収することになるはずだ。
建築関係のコストはここ数年、急激に上昇している。取り壊し費用も上昇している。数十年前に設定された「解体準備金」の積立金の範囲内で、今後必ずやって来る「更地化」の費用が賄えるのか、やや不安である。
建築費とともに解体費も上昇傾向にあるなか、更地化コストは定期借地権付きマンションの不確実性の一つだ
最近では定借期間「70年」が主流になったので、購入した本人が「解体・更地化」の義務を果たすケースはほとんどないだろう。しかし、相続でそのマンションを得た者に、解体・更地化の義務は引き継がれる。
定借などの借地権のマンションは、賃貸で運用するにはほとんど問題ない。なぜなら、借りて住む立場からすると、そのマンションの敷地が所有権でも借地権でも何ら支障がなく、借地借家法は、どちらにも差別なく適用されるからだ。
しかし、中古マンションとして購入する側からすると、借地権物件は所有権よりもかなり条件が悪く見える。
まず地主に毎月地代を払い続けなければならない点だ。さらに普通借地権なら、転売などで書換料などの追加の費用が発生する場合もある。手続きも面倒だ。よって、借地権マンションは売りにくい。その分、条件によって所有権よりも資産価値が劣る。これはどうしても否めない。
所有権よりも「安く買える」というのが借地権マンションのメリットだが、「安く買える」理由をしっかりと理解することがまず重要なのである。
文/榊淳司 写真/photo-ac.com
記事提供元:週プレNEWS
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