アフリカ系アメリカ人監督の知られざる秀作3本を上映〈アメリカ黒人映画傑作選〉
これまで見過ごされてきたアフリカ系アメリカ人監督の秀作を上映する〈アメリカ黒人映画傑作選〉が、4月18日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国で順次開催される。ラインナップはキャスリーン・コリンズ監督「ここではないどこかで」(1982)、ビリー・ウッドベリー監督「小さな心に祝福を」(1984)、ジュリー・ダッシュ監督「海から来た娘たち」(1991)の3本で、すべて日本初公開(「海から来た娘たち」は1993年〈カネボウ国際女性週間〉での上映、および「自由への旅立ち」のタイトルでの放映歴あり)。メインビジュアル2種と明治学院大学教授・斉藤綾子氏のコメントが到着した。
「ここではないどこかで」は、ある女性のひと夏の心の揺れをヴィヴィッドに捉えた物語。製作当時は特別上映のみで一般公開されなかったが、コリンズ監督が46歳で亡くなって約30年後の2014年、リンカーン・センター映画協会が行った〈ブラック・インディペンデント・ムービー〉特集のオープニングに選ばれ、「当時に広く上映されていたら、映画史に名を残しただろう」(映画評論家リチャード・ブロディ)と称えられた。
「小さな心に祝福を」は、失業した男とその家族の困難を描く。ウッドベリー監督は、チャールズ・バーネットら新しい黒人映画を模索したフィルムメーカーのグループ〈L.A.リヴェリオン〉の重要人物だ。映画は厳しい題材ながらもユーモアを含んだ温かな眼差し、全編にわたり奏でられる哀切なサックス、そして約10分間ワンカットの夫婦喧嘩シーンが印象的。
「海から来た娘たち」は、奴隷解放後である20世紀初頭の大西洋沖の島を舞台に、世代の異なる女性たちの物語を詩情豊かに描出。アフリカ系アメリカ人の女性監督による初の劇場公開作であり、2019年にイギリスBBCの〈女性監督による史上最高の映画〉で10位、2022年にSight & Sound誌の〈史上最高の映画ベスト100〉で60位に選出された。ビヨンセのアルバム『レモネード』に影響を与えたことでも知られる。

斉藤綾子(明治学院大学教授)コメント
「沈黙が破られるとき」
これは大事件だ!待ちに待った珠玉の黒人監督のフィルムが公開される。
1980年代から90年代初頭に台頭した黒人インディ映画はスパイク・リーだけではない。
キャスリーン・コリンズ、ビリー・ウッドベリー、ジュリー・ダッシュ。
彼らは、わたしたちが今まで目にしたことのなかった黒人女性たちの現実、愛や戸惑い、怒りや傷、歴史やファンタジーを三者三様の作風による独自の魅力に溢れた映像世界で展開する。
LAリベリオンとして知られるチャールズ・バーネットが脚本とカメラを担当したウッドベリーの映像は、例えばジョン・カサヴェテスに近い。
フランスに留学していたコリンズは自己言及的な語りや演出、またカメラの使い方にヌーヴェル・ヴァーグの影響が見られる。
そして、ダッシュはアフリカ系のルーツを模索し、黒人文化や歴史の美学と詩的な語り映像化を試みる。
1980年代初頭のニューヨーク州、1970年代のLA南部ワッツ地区、1902年のアメリカ南部シー諸島を舞台に、堅物の哲学教授がカメラの前で踊るとき、苦しい暮らしの中で妻が失業中の夫に本音で怒りをぶつけるとき、一族の娘が奴隷制の負の歴史ではなく未来を見てと叫ぶとき、沈黙を破る女たちの力強い姿を捉えるカメラのエンパワーメントと映像の真正さにわたしたちは圧倒され、新たな映画に出会えた喜びを味わうのだ。
〈アメリカ黒人映画傑作選〉
提供:マーメイドフィルム 配給:コピアポア・フィルム
公式サイト:blackamericancinema.jp
記事提供元:キネマ旬報WEB
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