金メダリストの“一挙一動” アドレス後の微動に隠された狙い「シンプルで最も重要なこと」【現地記者コラム】
先週、シンガポールで行われた「HSBC女子世界選手権」の会場で取材をした際、選手の気になるルーティンを見かけた。それは昨年行われた「パリ五輪」で金メダルを獲得し、LPGAツアーの殿堂入りを最年少で果たしたリディア・コ(ニュージーランド)のパッティングシーンだ。今大会では2位に4打差をつけてトータル13アンダーでツアー23勝目を飾った。
その内容はパッティングのラインを後ろからしゃがんで読み、そのあとにアドレスをするのだが、一度両手で握ったあとに左手をグリップの下側に一度下ろす動きをする。そして両手で握り直しストロークに入るという流れだ。
今回どうしてコのパッティングが気になったかというと、私は恥ずかしながら幼いころにプロゴルファーになることを目指していたからだ。私の競技時代はショットの精度に課題があり、パーオン率が低いタイプ。パーを取るには絶対的な“寄せワン”が必須で、アンダーパーにするにはバーディチャンスにつけたときにどんな距離からでもラインでも“決めきる”ことを意識して日々練習に励んでいた。
そんなことから昔からプロゴルファーのプレーで必ず注目していたのはショートゲーム。多くのルーティンを参考にしてきた。ほかのプロにもそれぞれの“こだわり”があるが、アドレスを構えてからなにかしらの動きを入れている選手は珍しいという印象がある。
いままで見たことのない動きに目が離せなくなった。たまたまの動きなのかと思いきや、毎回必ず行っている。一瞬の“左手下ろし”の動きは何を意味するのか? 優勝会見でルーティンについて聞いてみると「私のパッティングのルーティンは、かなりシンプルで反復的なもの。一番重要なのは、セットアップ(アドレス)するときに左手と左腕を下ろすこと」と本人のなかでも大切な動きだった。
「私のクセは(アドレスで)左肩が開いてしまいがちなので、左腕を下げることで肩のバランスが整って、より自然に腕の動きでストロークできるようになるの」。構えたときに目標方向に対して肩の向きがオープン(左に向く)になってしまい、足の向きと平行にならずストロークのブレにつながりやすい。毎回同じ位置に肩をセットするのは簡単そうで難しい。コのなかでちょうどいい左肩の位置は左腕を下におろしたときの“微動”で決まるのだ。
「もともと私のパッティングコーチであるクリスと練習の一環として始めたことだけど、実際のルーティンにも取り入れたほうがいいと思ったので、そのまま続けている」とクセの動きを修正するために取り入れたことを試合中も行っているという。4日間の合計パット数を見てみると一日平均29パット。1ホールの平均は1.611と必ず2パット以内でカップインしていることになる。
このルーティンは「これは私のキャリアスタートからやっていることで、今後も継続していくつもりよ」と長く続けていることだった。いくらドライバーを飛ばしても、どんなに短いバーディチャンスにつけようと、“パットイズマネー”という名言があるように、パターが入らないとスコアにつながらず稼ぐことはできない。「シンプルだけどおそらく最も重要なことだと思う」と世界ランキング3位で金メダリストの掟は世界トップレベルに導く“一挙一動”だった。
今大会の平均パット数で1位(1.486)になったのは日本の山下美夢有で、今季ここまでの米ツアー全体スタッツでも1位を記録している。次回は山下のパッティングにも注目したい。(文・高木彩音)
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