意外と知らない『S端子』や『D端子』を最近見かけなくなった理由
実家のテレビの裏側や『セガサターン』に代表される古いゲーム機には、近年では見かけない少し変わった形の端子が搭載されています。 それが今回ご紹介する『S端子』や『D端子』です。 かつては映像出力端子として活躍していましたが、最近めっきり見かけなくなりましたよね。
2025年現在、S端子やD端子はほとんどの新製品で採用されておらず、過去の技術として扱われています。しかし、一部のレトロゲーム愛好家やアナログ映像機器を使用するユーザーの間では、これらの端子が依然として重要な役割を果たしています。
そこで今回は『S端子』や『D端子』を最近見かけなくなった理由と、これらの端子の現在についてご紹介します。
S端子とD端子の概要
S端子(S-Video端子)とD端子は、かつて家庭用AV機器で広く使用されていたアナログ映像信号の接続規格です。これらの端子は、アナログ映像信号を高品質に伝送するための重要な手段として、1990年代から2000年代初頭にかけて広く普及しました。しかし、技術の進化とともに、これらの端子の役割は徐々に縮小していきました。
S端子の概要
S端子は、1987年に日本ビクター(現JVCケンウッド)が発表したS-VHS規格とともに登場しました。この端子は、映像信号を輝度信号(Y)と色信号(C)に分離して伝送することで、従来のコンポジット映像信号よりも高画質な映像を提供することを目的としていました。特に、色にじみやノイズを軽減する設計が特徴で、ビデオデッキやゲーム機、テレビなどで広く採用されました。
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たとえば1994年に発売された「セガサターン」は、S端子を搭載している代表的なゲーム機の1つです。
セガサターンの映像出力オプションは以下の通りです。
・RF端子
・RCA端子(コンポジット)
・S端子
・RGB21ピン/SCART
一方、いま販売されているテレビにはS端子のような古い端子は搭載されていないことが多いです。よって映像を出力するためにはHDMI変換コンバーターが必要です。セガサターンの従来の出力をHDMI信号に変換し、最新のテレビに接続できるようになります。なお、より高品質な映像を求める場合は、高性能アップスケーラーと専用ケーブルを組み合わせる方法もあります。
D端子の概要
一方、D端子は1999年に日本電子機械工業会(EIAJ)によって規格化された日本独自の接続端子です。この端子は、輝度信号と2つの色差信号を1本のケーブルで伝送することで、コンポーネント端子よりも省スペースで高画質な映像伝送を可能にしました。
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D端子にはD1からD5までの規格があり、それぞれ対応する解像度が異なります。たとえば、D1は480i、D5は1080pに対応しており、デジタル放送やDVDプレーヤー、ゲーム機などで使用されました。
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D端子が使用された代表的なゲーム機には『ゲームキューブ』が挙げられます。ニンテンドー ゲームキューブでは、初期モデル(DOL-001)でD端子を使うことができ、より高品質な映像出力が可能となります。
このほかXbox 360 S以前の機種はD映像端子が付属しており、最大1080p(D5)映像出力が可能でした。
S端子やD端子を最近見かけなくなった理由
S端子やD端子は90年代~00年代にかけて、高品質の映像出力を支えた貴重な端子でした。しかしS端子やD端子はデジタル化が進展し、地デジ移行が進むにつれ、端子として姿を消していきました。
S端子やD端子が衰退していった流れや、その要因を改めてみていきましょう。
【1】デジタル化の進展
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まず、S端子やD端子はアナログ信号を伝送する規格です。そのため地デジや高解像度映像(4K、8K)の需要の拡大に対し、S端子やD端子は2025年現在の視点でみると「ミスマッチの端子」であることは否めません。
もっともS端子の映像をHDMIに変換することで、アナログ出力の映像を4Kにアップスキャンすることなどは可能です。つまりS端子やD端子の映像をアップスキャンする、主にレトロゲームなどを対象とする需要は残っているものの「新規に古い端子を実装する必要性」は薄れていると言えるでしょう。
【2】著作権保護の要請
デジタル放送の普及に伴い、著作権保護技術(HDCP)が求められるようになりました。HDMIにはこの技術が組み込まれていますが、アナログ信号を扱うS端子やD端子では対応が難しく、コンテンツ保護の観点からも廃止が進みました。
【3】地デジ移行とエコポイントの影響
地デジの普及などに伴い、アナログ信号向けの規格の需要が薄れ、テレビの買い替え需要が増しました。この傾向を大きく後押ししたのが、地デジ移行とエコポイントです。
たとえば総務省は2009年度、2011年7月の地デジ完全移行に向け、地デジ対応受信機の普及に向けて巨額の補正予算を計上しています。なお、地デジ完全移行とテレビの購入支援は、当時の経産省と環境省が強く推進していた『エコポイント制度』に相乗りする形で実施され、テレビ購入支援の総額は異例の水準となっていました。
この政策には賛否両論ありましたが、結果的に多くの家庭が地デジ対応のテレビを購入することに。もしもエコポイント制度がなく、異例のテレビ購入支援が実施されなかった場合、2025年現在でももう少し頻繁にS端子やD端子を目にする機会があったかもしれません。
S端子やD端子の現在の状況と今後の展望
00年代末~10年代初頭の地デジ移行と異例なレベルのテレビ購入支援の影響によって、一気にS端子やD端子は姿を消しました。ただし2025年現在でも、S端子やD端子の需要が「完全にない」とは言えません。むしろレトロゲームの熱の高まりや、VHSの2025年問題によって再度端子として注目され始めているとすら言えるでしょう。
レトロ機器の需要
古いゲーム機やビデオデッキを現代のテレビに接続する際には、S端子やD端子が必要となる場合があります。そのため、これらの端子をサポートする変換アダプターや専用機器が市場に出回っています。
そのため一部の専門メーカーは、レトロ機器向けにこれらの端子を搭載した製品を製造し続けています。また、S端子やD端子をHDMIに変換するアダプターも人気があります。
こうした需要の代表例として、本稿の前半で述べた『セガサターン』が挙げられます。またやや間接的な需要ではありますが、S端子やD端子とHDMIの変換の需要は極めて強く残るでしょう。
同様にビデオデッキにおいても、需要が継続すると考えられます。
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2019年にはユネスコが磁気テープに記録された音声や映像について、2025年頃までにデジタルファイル化しなければ二度とアクセスできなくなりかねないとする「マグネティック・テープ・アラート」を発表。「2025年問題」といわれています。
なお、VHSビデオデッキは2016年7月末に生産が完全終了しています。
とはいえ、たとえばデジタルファイル化のためにVHSの内容を確認する際などにビデオデッキが必要になることはあるでしょう。その際、ビデオデッキ側にはS端子やD端子といった古い端子しかないことがあり得ます。よってVHSの映像をデジタル化する手段としても、当面はS端子やD端子の需要が間接的に続くでしょう。
まとめ
S端子やD端子が市場から姿を消した理由は、技術の進化、製造コストの削減、そして消費者のニーズの変化にあります。これらの端子は、かつて高画質な映像を提供するための重要な役割を果たしていましたが、HDMIの登場によりその役割を終えました。しかし、レトロ機器の愛好家や特殊な用途においては、今後も一定の需要が続くと考えられます。
※サムネイル画像(Image:Shutterstock.com)
記事提供元:スマホライフPLUS
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