日本の「謝罪会見」ベスト&ワーストから考える、最強の謝り方
ワースト会見はフジテレビ(2025年)。性加害事件の実態について、フジテレビの港浩一社長(当時)は回答を避け続けた
フジテレビによる会見が、初回・2回目ともに世間の大きな注目を集めた。さまざまな評価が下されているが、そもそも謝罪会見の成否とは何か? 過去に注目を集めた日本の謝罪会見から、識者ふたりがベストとワーストを選出! これを読めば、謝罪の理想型がわかる!
■フジ初回会見はいいところ皆無!ワースト謝罪会見として真っ先に挙げられたのは、フジテレビによる1回目の記者会見(今年1月17日)。国際大学グローバル・コミュニケーション・センター准教授の山口真一氏は語る。
「いいところがひとつもなかったですね。社長の言葉としては謝罪したものの、性加害の実態については"プライバシー保護"や"調査中"を理由に回答を控えた。何も説明できないのであれば、そもそも会見の意味がありません。
しかも、会見への参加が許されたのは記者クラブ加盟社のみ。動画の撮影すらさせなかった。
不祥事を起こした企業の会見として異例であるだけでなく、それを普段は追及する立場のメディア側がやってしまったことで、さらなる炎上を招いてしまいました」
日本リスクコミュニケーション協会理事も務める山口氏は危機管理の甘さも指摘する。
「今は企業にコンプライアンスが厳しく求められる時代ですから、大手には必ず危機管理部門があります。
しかし、フジテレビは報道陣の制限や不十分な説明など、リスキーな対応を取ってしまった。結果、性加害事件への社員の関与だけでなく、企業体質まで疑問視されました」
では、報道陣の制限がなく、10時間超の長丁場に及んだ2回目の会見はどうだろうか?
「フジテレビにはプラスに働いた面も多かったと思います。初回とは真逆にオープンに行なったので、その回答に納得できるかどうかは別として、さまざまな記者の質問に『逃げずに答えた』という印象を与えました。
SNSが普及した現代では『情報が制限されている』と伝わった時点で、『何か裏にあるぞ』と勘繰られ、何を言っても印象が最悪になります。この"人類総メディア時代"における謝罪会見では、まず『透明性の確保』が最重要なんです」
■最悪の対応は"取りあえず"の謝罪もちろん、会見がオープンであれば問題がないわけではない。ネットメディア研究家の城戸譲(きど・ゆずる)氏は謝罪会見のタイミングに注目する。
「不祥事が起こってからの『迅速な開催』も重要です。フジテレビが会見を実施したのは昨年末に『週刊文春』が疑惑を報じてから約3週間後。その間にさまざまな臆測が広まってしまいました。
もし不祥事が人命に関わるような事故であれば、なおさら迅速な対応が求められます。その意味で2022年4月27日の『知床遊覧船事故』)の会見は、まさに最悪の出来でしたね」
北海道で26人が乗った観光船が遭難し、その全員が死亡または行方不明となった事故だ。遊覧船の運航会社社長が会見を開いたのは、事故発生から5日目のことだった。
「その前に行なわれた乗客の家族向け説明会でも社長の欠席があり、説明不足に憤る声が上がっていました。ついに出てきたと思ったら、第一声が『お騒がせして申し訳ない』と即土下座。
しかも、事故の経緯については事前に用意した文章を読むだけ。この件の謝罪は世間を騒がせたことではなく、被害者と家族に向けたものであるべきです。いきなり土下座という選択も、かえって『謝っとけばなんとかなる』という腹の底が透けて見えた。
しかも、5日も準備する時間があったにもかかわらずこのありさまですから、経営者としての責任感の欠如を批難されて当然でした」
対照的なのが、「山一證券の廃業会見」(1997年11月24日)だという。
「知床遊覧船の社長とは異なり、山一證券の社長は、『私ら(経営陣)が悪いのであって、社員は悪くありませんから』と号泣しながら自分の責任を訴えました。
しかも、これは廃業に至る経緯を約2時間にわたって説明した後のこと。感情に訴えて場を乗り切ることが目的の号泣ではなく、経営者として説明を尽くそうとする中で、思わず感極まってしまったわけです。
責任の所在を明らかにした上で謝罪するという経営者のあるべき姿を示した事例です」
■社長の説明能力で明暗が分かれる!?前出の山口氏もうなずく。
「責任を認めるとは、ただ公に謝ればいいということではありません。2019年7月4日に開かれた『セブンペイの不正利用』に関する会見は、その悪い例です。
セブン-イレブンが鳴り物入りで始めた独自のスマホ決済サービス(セブンペイ)の大規模な不正利用を受け、運営会社経営陣が騒動発覚直後という迅速なタイミングで会見を実施しました。しかし、肝心の説明内容が良くなかった。
記者の質問に対して、社長がネットセキュリティの常識である『2段階認証』すら知らないそぶりを見せるなど、とにかくずさんさが目立った。技術面に関する質問にまったく答えられず、セブンペイだけでなく、電子決済サービス全体の安全性が不安になる内容だったのです」
一方、2022年7月3日に行なわれた「KDDIの通信障害に関する会見」)では、社長自らによる原因説明が称賛された。
「技術に関する専門的な説明はマスメディアでは『視聴者にわかりにくい』と省略されがちですが、今はSNS上で詳しい人が『何がすごいのか』を補足してくれます。
そのため、技術に疎い人でも『この会見はすごいんだ』とポジティブに反応してくれる。まさにSNS時代の利点を生かした見事な謝罪会見と言えるでしょう」(山口氏)
■今や謝罪会見は国民共通のネタ!また、前出の城戸氏が「特別枠」として挙げたのは、意外にも「狩野英孝の淫行疑惑会見」(2017年1月21日)だった。
「実はこれまで挙げたワースト会見の要素とはまったく逆のものが、狩野英孝さんの会見には詰まっています。
報道の翌日に会見を開いた迅速性、本人が自ら報道陣の前で説明した透明性、相手を批判せず自分が悪いと訴えた責任の所在の明確化。しかも狩野さんには視聴者の感情に訴える要素までありました。
詳細に説明しようとするほど、しどろもどろになり、なんだかシュールな回答になった。しかも、それを狙ったわけではなく、あくまで本人がそういう性格なのだと伝わった。
不祥事の謝罪なのにむしろ誠実さが強調されました。記者すら思わず笑ってしまうほど、『この人ならしょうがないな』と思わせる会見であり、今も第一線で活躍を続けているのも納得です」
なるほど。しかし、なぜこれほど「謝罪会見」は人々の注目を集めるのだろうか?
「2014年が分岐点だったと思います。STAP細胞の小保方晴子氏、号泣議員の野々村竜太郎氏、ゴーストライター騒動の佐村河内守氏など、今も語り継がれる謝罪会見が連続した伝説の年です。
これらの謝罪会見がツッコミどころに満ちたものだったことから、謝罪会見をSNSの"ネタ"として消費するムードが広まり、国民共通の話題となった。実際、フジテレビの『やり直し会見』も開催中はずっとSNSのトレンド1位でした」(城戸氏)
では、謝罪会見が人々の格好のネタと化した現在、謝る側は何を意識すべきなのか。
「ここまで述べてきた要素に加え、謝罪相手の感情に対する配慮も忘れてはなりません。よく不祥事の際に『法的に問題はない』と言う方がいますが、その回答は確実に炎上します。
SNSでは感情的な評価が広がりやすいため、まず被害者の目線に立って答えることが肝要です。その上で責任の所在と事実関係を明らかにし、今後の対応を明確に説明するという態度が求められます」(山口氏)
迅速さ、透明性、責任の明確化、そして感情への配慮。大企業の責任者や著名人でなくとも、この謝り方の理想型は意識しておきたいものだ。
取材・文/小山田裕哉 写真/共同通信イメージズ
記事提供元:週プレNEWS
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