マニラで邦人の拳銃強盗被害相次ぐ 【水谷竹秀✕リアルワールド】
フィリピンの首都マニラで日本人観光客が拳銃で脅され、強盗被害に遭う事件が相次いでいる。その数は昨年10月以降、10件に上り、昨年末に起きた直近の事件では犯人から銃撃される事態にも発展した。これら一連の強盗事件を受け、在フィリピン日本国大使館は注意を呼び掛けている。わずか数カ月の間に、日本人がこれだけ立て続けに強盗被害に遭うのは聞いたことがない。ただ、同様の手口で中国人や韓国人観光客も被害に遭っているため、外国人が標的にされている可能性がある。
直近の事件は昨年12月29日午前2時半過ぎ、マニラの繁華街エルミタ地区で発生した。60代と50代の日本人男性2人が、スクーターに乗った2人組に襲われ、現金9万円と4万5千ペソ(約12万円)、携帯電話2台などを奪われた。その際、2人組から銃撃され、60代の日本人男性が被弾した。近くの病院に搬送されたが、命に別状はないという。犯人は逃走中だ。
大使館などによると、一連の拳銃強盗事件は全て、夜の時間帯に発生し、犯人はバイクに乗った複数犯だ。場所は10件中、8件がマカティ市に集中しており、残りはマニラ市とパラニャケ市がそれぞれ1件となっている。
マカティ市の中心部は高層ビルが立ち並ぶビジネス街で、日本人の駐在員らが多く住む。現場はいずれも、ショッピングモールや繁華街の近く。大使館は、夜間の徒歩移動を控え、貴重品を持ち歩かないようにするなど注意喚起している。また、犯人は本物の拳銃を持っている可能性があるとして、抵抗しないよう呼び掛けた。
新聞記者としてマニラに住んでいた当時の私は、こうした事件を取材する度、「現地慣れしている自分は大丈夫だろう」と根拠のない自信を持っていた。
それが見事に裏切られたのが今から約10年前のことだ。現場は、今回の被害が集中したマカティ市の中心部で、その晩は雨が降っていた。傘を差しながら歩いていた私は、繁華街から少し離れた暗がりに差し掛かった。すると、どこからともなく少年が現れ、私に近づいてきた。
「 I will kill you」
いきなりそう声を掛けられた。少年との距離は1メートルもない。その手にはナイフのようなものが握られていた。一瞬、背筋が凍りついたが、咄嗟(とっさ)の判断で傘の先端部分を少年に向けると、彼はなぜかその場を立ち去った。被害こそ免れたが、全く想定外の事態に、しばらくは足の震えが止まらなかった。この体験を機に、日本人観光客の被害は他人事とは思えなくなった。
フィリピン観光省によると、2024年に同国を訪れた日本人観光客数は39万人近くで、23年と比べて27%増えた。コロナ禍以前の水準にはまだ戻っていないが、物価の安いアジア旅行は着実に伸びている。中には旅慣れている観光客もいるだろうが、「自分だけは」という過信はやはり禁物である。
【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No. 4からの転載】
水谷竹秀(みずたに・たけひで)/ノンフィクションライター。1975年生まれ。上智大学外国語学部卒。2011年、「日本を捨てた男たち」で第9回開高健ノンフィクション賞を受賞。10年超のフィリピン滞在歴をもとに「アジアと日本人」について、また事件を含めた現代の世相に関しても幅広く取材。
記事提供元:オーヴォ(OvO)
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